第52話
翌日2人は朝食を終えるとゴードンの屋敷を尋ねた。2人が来るのは分かっていたのだろう。いつもの3人とウィーナもそこにいた。今日ウィーナはゴードン側に座っている。
「世話になった。今日この街を出てレーゲンス経由でヴェルスに戻る予定だ」
デイブが言うと3人とウィーナが立ち上がって大きく頭を下げ
「こちらこそ本当に世話になった。2人が来てくれて助かった」
その態度に恐縮する2人。そうして顔を上げると再び全員が着席する。マッケインが扉に声をかけるとすぐに扉が開いて女性が2人入ってきて高級そうな布袋をデイブとダンの前に置く。
「今回の報酬だ。受け取ってくれ」
デイブが布袋を開けてチラッと見て顔を上げて
「多くないかい?」
隣のダンも中を見る。確かに聞いているより報酬が多い。
「我々の気持ちも入っている。魔獣退治以外にも工事にも立ち会ってもらっている。なので色をつけさせてもらった」
「色をつけたって割りには多い気がするが」
デイブがまだ言うとウィーナが
「口止め料も入ってるんだよ。貰っておきな」
その言葉で笑いが起きる。デイブもなるほどそれなら納得だと2人で報酬を魔法袋にしまった。
ゴードンは次に自分の前にある丸い形をしたコインよりは2回りほど大きいものを直接デイブとダンに手渡す。
手に取ってみるとそれはミスリルでできている貨幣の様だ。貨幣よりはずっと大きいがよく見ると鷹の姿と紋章が表と裏に彫ってある。2人がそれを見ていると、
「それには表と裏にこのオウルの街の紋章が入っている。我々の間では今2人が手に持っているものをオウルの印章と呼んでいる」
「オウルの印章」
デイブが言うとそうだと頷く4人。
「それがあればいつでもこのオウルの街に来ることができる」
その言葉を聞いてびっくりしてゴードンを見る2人。
「2人はこのオウルの街に多大な貢献をしてくれた。せめてものお礼だ。これからはオウルに来たくなったらいつでも来てくれて結構だ。オウルはいつでもデイブとダンを歓迎する」
ゴードンがそう言うと左右に座っているマッケインとヤコブ、そしてウィーナまでが大きく頷いている。
「あんた達はそれくらい凄いことをこの街でやってくれたんだよ。前にも言ったけどこのオウルの街に住んでいる住民はみな他所から流れてきてこの街に住んでいる。そしてこの街を出たらもうどこにも行くところがない人ばかりだ。オウルを終の住処と決めてここで生活している。ここにいるゴードンやマッケイン、ヤコブも同じだよ。だからこの街を守り抜こうとしている。あんた達が魔獣を倒しさらに魔獣の出入り口を見つけて塞いでくれた。それがここの住民に取ってどれだけ嬉しいことか。そうして街の安寧を守ってくれた2人はここの住民から見たら仲間なんだよ。だから遠慮なくもらっておきな」
ウィーナが2人を見ながら話をする。口調は相変わらずだがその言葉には彼らの感謝がこもっていた。
「俺たちは…」
それまでずっと黙っていたダンが口を開いた。部屋にいる全員がダンに注目する。
「俺たちは自分が強くなりたい、そう思って冒険者をしている。周りがどうだとかランクがどうだとかはほとんど気にしていない。自己の技術を高めることにのみ集中して鍛錬をしてきた。これからもそうだろう。そしてその強さが困っている人の助けになるのなら俺達はこれからもいつでも喜んで駆けつける。過去に辛いことがあったとしても今を一生懸命生きている人たちがここにはいる。そしてその今を一生懸命生きている人たちが困る様な事態になればいつでも呼んでくれ。どこにいても駆けつけるから」
ダンが話終わるとしばらく誰も声を発しなかった。
ようやくゴードンが口を開いた。
「お前さん達の様な冒険者を本当の冒険者というんだろうな。今回ウィーナはいい冒険者を紹介してくれた」
「それが私の仕事の1つだからね。とは言ってもここまで優秀なのが見つかるとは流石の私も思わなかったよ」
笑いながらウィーナが言う。
そしてデイブとダンはオウルの印章を魔法袋にしまうと座っている椅子から立ち上がった。向かいに座っている4人も立ち上がる。
「色々と世話になった。良い経験をさせてもらったよ」
デイブが言うとダンも
「是非またお邪魔させてもらうよ」
「その言葉、忘れるでないぞ、約束だぞ」
ゴードンが答え4人全員と握手をした2人、ウィーナはもう少しこの街にいるということなので2人で屋敷を出ると最後に4人に挨拶をしてそのまま城門に向かう。
城門に向かっていく2人の後ろ姿を見ながら
「あの2人は遅かれ早かれこの大陸中で名を轟かす様になるよ」
「ウィーナの人を見る目に間違いはない。そして私もそう思った」
「このオウルの街でも目立たない様にと気を遣っていた。そして住民の誰にもこの街に来た理由や過去のことを聞かなかった。当たり前とは言えそれができる者は少ない」
マッケインが言う。
「だからの超一流なんだろう」
ヤコブの言葉に頷いている3人だった。
ダンとデイブは城門にある通用門を開けてもらいそこから外に出て再び荒野をレーゲンス目指して歩いていく。
相変わらずの道なき道をのんびり歩いていく2人。たまに出会うランクBクラスを倒しつつ夜は交代で見張りをして野営をして進むこと18日、2人の目の前にレーゲンスの大きな城壁が見えてきた。
出る時は地下通路から出たが入る時は城門から市内に入ってきた2人、そのままギルドに顔をだした2人にあちこちから声が掛かる。
「ノワール・ルージュだ」
「久しぶりじゃないかよ、帰ったかと思ってたぜ」
「また新しいダンジョンでも攻略してるのかい?」
そう聞かれるとデイブが
「いや、クリアしたダンジョンの下層でずっとスキル上げをしてたんだよ」
ダンと2人で聞かれたらこう答えようと決めていた。幸いにしてデイブの話を聞いても誰も疑うものはいなかった。もっとも冒険者は基本自由気ままだ。誰がどこにいて何をしていようが気にするものはあまりいない。そうしてたまに会った時にお互いの近況報告をすればそれで十分なのだ。
2人はギルマスとの面談を申し込むと直ぐに部屋に通してくれた。
ギルマスのカントレーが部屋にはいってくると挨拶をしてから
「そろそろヴェルスに戻ろうかと思ってね、戻る前に挨拶にきたんだよ」
「ここレーゲンスで長い間鍛錬したな」
「半年ちょっとかな。おかげさまで良い鍛錬になったよ」
当たり前だがオウルの話は一切しない。
「2人で難易度の高いダンジョンをクリアしちまうお前達だ。正直ヌルかったんじゃないのか?」
「それはないな。場所が変われば現れる魔獣の種類も変わる。ここで相手をしている魔獣はヴェルスじゃ見ないのが多かった。そう言う意味ではここでの鍛錬は十分に意義のあるものだったよ」
ダンがギルマスに答えるとそう言って貰えたらこっちとしても嬉しいなと言い。
「また来るんだろう?」
「多分。活動のベースはヴェルスにしているし、そこからここはそう遠くないしな。それにこの街の冒険者とも知り合いになれた。彼らがヴェルスに来ることもあるだろうしこれからも行き来するつもりだよ」
デイブが言ってギルマスとの挨拶が終わった。その後ギルドに戻るとノワールルージュの2人がヴェルスに帰るときいた冒険者達がギルドの酒場に集まってきて最後は大人数で大宴会となり夜遅くまでダンとデイブの送別会が行われた。
2人は宴会があった翌日の昼過ぎに長くいたレーゲンスの街を後にして一路東のヴェルスを目指して歩いていき、レーゲンスを出て60日後に自分たちの地元であるヴェルスに戻ってきた。ここヴェルスを出て1年近くが過ぎていた。




