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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第51話


 二人は再び横穴を歩き広い洞窟に戻ってきた。そして今度は2人でトロルの死体を運ぶと横穴の出口から外に放り投げた。死体は山裾を転がって下に落ちていく。それを見てから再び横穴を歩いて洞窟の底に戻ると縄梯子を使って上に上がり、坑道を歩いて入り口に向かう。


 入り口を出たすぐのところにヤコブが居て二人を見ると近寄ってきた。


「どうだった?」


「魔獣は倒した」


 その言葉におおっと声をあげるヤコブ。そしてデイブが上からは見えなかったがそこの壁に横穴があってそれが山の裏にまで続いていたと言ってから


「あのままじゃまた違う魔獣が入ってくる可能性がある。早めに処置をした方がいい」


 そう言うとヤコブは近くにいた作業員に声を掛ける。すぐに数名の作業員が松明を持ってきた。そうして再び坑道を歩いて洞窟に着くと縄梯子からデイブ、ダンが先に降りて安全を確保してからヤコブと作業員が降りてきた。


「こんなところに横穴があったのか」


上からは見えない場所にあった横穴を見てびっくりする作業員達。ダンを先頭に横穴を歩いていき、出口に出た彼らはそこからの景色を見てすぐにそこがどこになるのかが分かった様で、


「荒野側からは来られないな」


 と安心すると同時にこの山に住んでいる魔獣が入ってくる可能性に気がつく。

 皆と同じ様に洞窟の出口から外を見ていたヤコブがデイブとダンに顔を向ける。


「あんた達が倒した魔獣のランクというか強さは予想がついたかい?」


「ああ、ランクSの下位クラスだな」


 デイブの言葉を聞いてランクSか、我々だと対処できないなと呟くヤコブ。そうしてしばらく周囲を見てから


「外から魔獣が入って来られない様にここに鉄製の扉をつけて閉鎖しよう」


 そう言ってこの横穴の出口のサイズを測定していく。測定が終わると一旦全員で横穴を歩いてそうして縄梯子から上に登り坑道を歩いて鉱山から出た。万が一他の魔獣が上がってこないとも限らないので縄梯子は巻き上げて坑道の隅に置いておいた。

 外に出たところで、


「あの場所を閉鎖をするのにどれくらいの日数がかかるんだい?」


「そうだな、あそこは大至急やらないといけない場所だ。2、3日あればしっかりとしたものが出来るだろう」


 デイブの質問にヤコブがそう言うとダンとデイブは顔を見合わせてから


「じゃあその工事をする間は俺達もその場所にいよう。万一魔獣が襲ってきた時の為に護衛するよ」


「そりゃありがたいんだが構わないのか?」


「大丈夫だ。この後も特に予定がないしな」


「わかった、助かる。俺は街に戻ったらゴードンに報告して作業の手配に入る」


 そうして作業員はその場に残りヤコブとダン、デイブの3人は鉱山から市内に戻ってきた。


「俺はゴードンと話をしてくる。二人は宿に戻ってゆっくりとしてくれ。方針が決まったら宿に使いを出す」


 分かった言ってデイブとダンは通りを宿にぶらぶらと歩いていく。宿に着くととりあえず部屋に戻って身体を洗った二人。そうしてダンが部屋で寛いでいるとドアがノックされ宿の店員が、


「長老が下におられます」

 

 とドア越しに言う。


「わかった」


 そう言って部屋からでるとちょうどデイブも出てきたところだった。二人で階段を降りると受付横にある応接セットにウィーナが腰掛けていた。そうして二人を見ると立ち上がり、


「ゴードンの屋敷に行くよ」


 3人はこの街を治めているボスのゴードンの屋敷を訪れた。部屋に案内してくれたのは昨日とはまた違う女性だった。


 案内された部屋に入ると昨日を同じ様にゴートン、マッケイン、そしてヤコブが座っている。


「鉱山にいた魔獣を討伐してくれたそうだな。礼を言う」


 ゴードンが3人を代表して言うとデイブが魔法袋から魔石を取り出してテーブルの上に置き


「これが倒した魔獣の魔石だ。魔獣はトロルだった」


 どれどれと隣からウィーナが魔石を鑑定する。そうして顔を上げると


「ランクSクラスのトロルだね。あんた達2人なら雑魚だったろう?」


「雑魚だった」


 ウィーナの言葉にあっさりと答えるデイブ。ゴードンはやりとりを聞いて


「お前さん達にとっては雑魚でも普通の冒険者ならランクSとなると強敵だ。そして冒険者でもない住民にとってはランクSは強敵どころか絶対に勝てない魔獣になる。倒してくれて感謝する」


「魔獣を倒すのが俺達の仕事だ、こいつを倒して住民が安心して暮らせるのならお安いもんだよ」


 デイブが言う。ゴードンはその言葉に頷いて、それから隣に座っているヤコブをチラッと見てから再び正面を向くと、


「ヤコブから報告は受けている。洞窟の底に横穴があってそれが山の向こうまで続いているそうだな」


 その言葉に頷く2人。


「ヤコブとマッケインとも相談したが現地でヤコブが言った様に横穴の出口のところを封鎖して外から魔獣が入らない様にすることにした」


 それが一番いいだろうとダンもデイブも思っていたので言葉を発せず大きく頷く。


「それで明日から早速工事を始めるんだが工事の間見張りをしてくれると聞いているが?」


「その通り、あの横穴の出口は山の裏側に通じていた。人間は来ないだろうが魔獣はまたあの穴を見つけて入ってくる可能性がある。そして山の裏側にいる魔獣は大抵がランクAでたまにランクSもいる。そういう魔獣が生息しているエリアでの工事だ。俺達が見張りをしたほうが工事をする人も安心してできるだろうと思ってね」


「いや全くデイブの言う通りでな。2人が見張りをしてくれると聞いて鉱山で働く作業員らは安心している」


「そりゃよかった。俺達が見張りをした方が作業に集中できて結果的に早く工事が終わるんじゃないの?」


「2人が周囲を警戒してくれるのならそうなるだろう」


 ダンはこの部屋に来てからはずっと黙ってやりとりを聞いていた。こうして話をしているのを聞く限りにおいてはこの街が犯罪者の街だとはとうてい思えない。むしろボスのゴードンは住民の安全を一番に考えている有能なボスに見える。


 どう言う理由があれこの街に入ってきた人間はしっかりと守り抜くという姿勢にダンは共感を覚えていた。



 翌日は朝から坑道に出向くダンとデイブ。すぐに多くの作業員とヤコブがやってきた。作業員は大きな台車に鉄製の扉を乗せて台車をスロープの上からロープでひっぱり上げて行動に持ち込む。それ以外にも大きな設備をいくつか持ち込んで中に入っていった。


 ダンとデイブは先頭を歩き周囲の安全を確保しながら進んでいく。そうして大きな空洞に着くとそこに木で滑車を作って扉をロープで縛ってゆっくりと下の地面に降ろしていった。その間に2人は先に横穴を歩いて出口まで向かいその出口付近で周囲を警戒する。


 初日は横穴の出口に鉄の枠をはめて外枠を作り、2日目は持ち込んだ大きな鉄の扉をその枠にハメて2日目の夕刻には頑丈な扉が出口を塞ぐことになった。鉄の扉には小さな覗き窓が付いていてそこから外の様子を見ることができる様になっていた。


 最後に鉄の扉を大きなかんぬきでしっかりと施錠すると作業員から歓声が上がる。


「これで安心だ。ミスリル鉱山もまた採掘量が増えるだろう」


「よかったじゃないか。街の財源が復活してさ」


「2人のおかげだよ」


 この洞窟の底にいた魔獣を倒したのが外からきた赤魔道士と暗黒剣士の2人だということは街中に知れ渡っていて作業を終えた住民が次々と2人に礼を言う。


 そうして坑道を出て街に戻ると街をあげての大宴会となった。

 多くの住民が街に繰り出して歌ったり踊ったりしながら酒と食事を楽しむ。


 ダンとデイブは最初は踊りに参加していたが途中から抜け出すと広場の端にある石垣に座って宴会を楽しんでいる人たちを見るともなく見ていた。


「いい街だよな」

 

 とデイブ。


「その通り。いい街だよ」


 とダン。


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