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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第44話 (オウル)

オウル

 ウィーナが真剣な目をして2人を見てきた。2人は顔を合わせてからデイブが、


「名前はこの街に来た時に聞いたよ」


「犯罪者の街。そう言われてるって聞いたんだろ?」


 ウィーナが先に言ってきたので頷く2人。


「その呼び名もあながち間違ってはいないんだけどね」


 そう言ってウィーナはオウルについて話しだした。

 オウルの街ができたのは随分と前で最初の頃は確かに犯罪者達が逃げて隠れていた場所でそこに要塞を作りそれが徐々に発展して今の街になったらしい。


「その最初の時からの名残りというか今でも街の決まりになってるんだがあの街は普通の人は受け入れない姿勢を貫いている。街全体で住んでいる人を匿っているとも言えるね」


 ウィーナの説明は続く。


「オウルの街を見りゃわかるんだけど絶妙な場所に街があるんだよ。谷間に街を作っているおかげで街の東西は高い山で囲まれている。そしてその谷間の出口にあたる北の場所に高くて頑丈な城壁を作り外から勝手に街に入って来られない様にしている。天然の要塞になってるんだよ」


「よく知ってるな」


 デイブがいうとまぁねその辺りはおいおい説明をさせて貰うよ。そう言って再び口を開いたウィーナ。


「この街でも時々話題になってるのは知っているよ。街から出ない、商人も来ない中どうやって中の住民は生活してるんだろうってね。そして同時に彼らが街から出ないのならここレーゲンスは大丈夫だろうって」


 その言葉に頷く2人。


「本当は彼らも商人と取引をしている。でないと生活ができないからね」


「商人と?」


「この世界には表と裏がある。表にでない商人もいっぱいいるのさ。彼らは人目のつかない夜に荒野を移動し、この街には寄らずに直接オウルの街に行く。そしてそこで商売をしている。そしてもう一つはオウルの街はこの街とも裏で商売をしている」


 レーゲンスと商売をしていると聞いてまたびっくりする2人。


「商売と言っても普通の商売のやり方じゃないんだけどね」


 思わせぶりに言うウィーナ。


「ちょっと待ってくれよ。商売してるって言っても街から出ないんだったら金が払えないんじゃないか?いくらかあったとしても収入がなきゃいずれは金が底をつく」


 ダンが言うといいところに気がついたねと言って


「ダンが言う通り。そこが謎だからこの街の連中も不思議がっているしそして気味が悪いといってオウルには近寄らない。オウルにとっては関係のない人間が近寄って来ないってのはありがたい話だから噂をそのままにしているんだよ」


 そう言ってさっき私が普通の商売じゃないって言っただろうと言ってポケットからこぶし大大きさの鉱石を取り出すとテーブルの上に置く。


「…ミスリルか」


 デイブがそう言ってから見えてきたぞと言う。


「オウルは山に囲まれてるって言ったよな。その山でミスリルが採れる。オウルの街はそのミスリルを何らかの方法でこのレーゲンスに持ち込んで現金化する。そうして得た現金で闇の商人やこの街から必要な物資を購入している、そうじゃないかな?」


 聞いていたウィーナはその通りだよと言ってから、このレーゲンスからも不定期だけどミスリルを売った代金で品物を買ってはオウルに運んでいるんだよと言った。


「ウィーナの店はオウルのミスリルを現金化するための店でもあるのか」


 ダンが言うと大きく頷くウィーナ。


「あたしはこの街の生まれじゃない。生まれたのはもっと北にある街だった。そこで普通に育っていてその街では有名な商会に就職したんだよ。あんた達ならわかるが鑑定スキルがあると商会では重宝される。そこまではよかったんだけどその商会の社長の息子ってのが出来が悪いくせに威張ってるどうしようもない男でね。その男に俺の女になれって言われてさ。あんまりしつこく迫ってくるからある日いい加減にしてくれって店の中でそいつの頬をぶっ叩いてやったのさ。

 こっちはすっきりしたけどその息子にしてみたら大勢の前で恥をかかされたってことになる。直ぐに私は馘さ。馘だけならまだしもその息子は町中の取引先に私を雇うなって指示を出したんだよ。その街ではその商会は力もあった。わたしを雇うことで商会から睨まれたらたまったもんじゃないってどこも採用してくれなくなったんだよ」


 そこで一息つくかの様にお茶を飲むウィーナ。


「街にいても働く場所もない。街を歩けば後ろ指を刺される。そんな日々が続いてもう死のうかと思ってた時にオウルの噂を聞いてね。ここで死ぬのも荒野で死ぬのも一緒だろうと思って街を出てオウルを目指したのさ。最初は街に出入りしている商人の馬車になんとか乗せてもらってレーゲンスに来た。オウルに向かう前にレーゲンスで仕事をしながらオウルに行く伝手を探そうとしたんだよ。でもこのレーゲンスでも直ぐに仕事は見つからなかった。街に来たはいいが仕事がない。となるとどうなると思う?」


 ウィーナが逆に聞いてきた。


「スラムか?」


「そう。この街のスラムに流れていったんだよ。同じ様な境遇の男女がいたよ。でもスラムの連中は団結がある。生活は楽じゃなかったよ。ゴミ拾いやドブ掃除をしてわずかな日当をもらってギリギリの生活をしてたんだよ。でも北の街よりはずっと楽だった。

 そんなある日スラムの顔役ってのに呼ばれてね。どこで聞いたのか私が鑑定持ちだってことを知っていた。そしてテーブルの上にある鉱石を3つ並べて種類とどれが品質がよいのか言ってみろって言われたんだよ。

 パッとみて分かったからその通りに行ったらその顔役が実は鑑定スキル持ちを探していたんだと。まさか自分のお膝元にいるとは思わなかった。そう言ってオウルと彼らとの取引を説明し私に鑑定をしてくれないかと言ってきた。

 ゴミ拾いやドブ掃除よりもずっと金が良い。とにかく臭くないってことで二つ返事でOKを出した翌日から私はスラムの中にある大きな家で鑑定することになったのさ。そうして何年か経った頃に今度はオウルに出向いて商人の買い付けの際に鑑定をしてくれという話になった」


「オウルに住んでたのか?」


 デイブが聞くと10年以上住んでたんだよと言うウィーナ。


「オウルはいい街だった。犯罪者たって全員が人殺しをしてる訳じゃないしあの街では街の中で粗暴な振る舞いをすれば即消される。ある意味他の街より厳しい規律があった。住民の中には私の様に何かから逃げて街に来た人も多かった。そうしてそこで商人の相手や採掘されるミスリルの検品なんかをしてたんだよ。そしてその後オウルのボスからレーゲンスに戻ってオウルとレーゲンスの取引の仲介をしてくれって言われてこの街にやってきたのさ。もう最初にこの街に来てからだと30年近くになるね」



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