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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第43話

 2人はカウンターに戻ると受付嬢からカードと記録されていた討伐代を受け取る。そのあとは待ち構えていた冒険者に誘われて酒場に移動して報告会となった。


 デイブがダンジョンの詳細を説明し、時々ダンが補足するというスタイルでダンジョンの中の様子を聞かれるままに答える2人。


「ランクSの複数体でもきついのにさらにランクSSがいるって相当難易度が高いダンジョンだな」


「楽じゃなかった。だから各層の階段を降りたところでじっくりと腰を据えて鍛錬して自信がついてから攻略してたよ」


 そうしてボス戦についても聞かれた2人はボスとの戦闘についても話をするが聞いている周囲の冒険者達はデイブの話を聞いてびっくりする。


「投げた槍が戻ってきてまた投げてくるのか?」


「そうだ。避けて後ろの壁に当たったと思ったらまたその槍がボスの手にあるんだよ」


「それじゃあ無限に投げて来られるってことじゃないか」


「だからまず右手首を切り落とした」


 それまで黙ってやりとりを聞いていたダンがぼそっと言う。そのあまりに簡単に言ったその言葉にまたびっくりする周囲。場の空気が変わった。酒場から物音が消える。


 暫くしてからようやく誰かが、


「切り落としたってダンが切り落としたのか?」

 

「そう、俺が切り落とした。そうしたら今度は左手に槍を持ったから次は左手首を切り落とした。そうなるともう槍は持てない。あとは楽だったよ。ただ体力だけが多い木偶の坊と変わらなかったな」


 淡々と話しているダンだが、周囲は言葉がでない。ランクSS以上の魔人の手首を切り落とすなんて普通はまずできないからだ。


 この場には2人を知っているランクAのパーティの連中もいたが彼らは口を挟まずに黙ってやりとりを聞いていた。そしてダンがボスの両手首を切り落としたと聞くとメンバー同士で顔を見合わせる。言葉には出さないがお互いに顔を見合わせて、あの2人の強さは桁が違いすぎると目で会話をしている。


 しばらくの沈黙の後、トムが口を開いた。


「ランクSの複数体を普通に倒す時点でお前さん達は普通じゃない。そしてランクSS,最後はその上のクラスのボスまで2人で倒してる。俺が知る限りそこまで強い奴や知らない。お前さん達2人はこの大陸でもトップクラス、ひょっとしたらトップの力があるんじゃないか?」


 レーゲンスのギルドでも常にトップの地位を占めているパーティのリーダーのトムがいうと隣からハワードとノックスも


「トムの言う通りだ。そこまで強い奴は聞いたことがない」


「残念だが俺達はまだそこまで強くない。ランクSのリンクに対応するのがせいぜいだ。2人はランクAのレベルじゃないぞ」


「もとよりランクには拘ってなかったからな。格上と対戦して自分達が強くなるのが目的なんだよ。だからランクや他の冒険者との比較については興味もないし知りたいとも思わないんだ」


 デイブがいうと、だからお前さん達は強いだよとトムが言い、その言葉に大きく頷くトムのパーティのメンバー。


 そうしてその後はそのまま酒場で宴会となりダンとデイブも久しぶりにたっぷりと酒を飲んで夜遅くに宿に戻っていった。




 翌日鍛錬と朝食を済ませた2人はギルドには顔を出さずに市内を歩いてウィーナの店に顔を出す。


「難易度が高いって言われてるダンジョンをクリアしてきたらしいね」


 店に入るとウィーナから声をかけてきた。そうしてテーブルを勧められてそこにすわるなり


「いい物はでたかい?」


「片手剣が2本。鑑定してもらえるかな」


「出してみな」


 デイブが魔法袋から2本の片手剣を取り出してテーブルの上に置く。それを手に持ってはじっと見るウィーナ。2本の剣を見終えると顔を上げて、


「流石に難易度が高いダンジョンだ。良い物が出るんだね」


 そう言ってまずは1本の片手剣を手に持って


「これは今ダンが持っている片手剣よりもずっと優れている。切れ味、そして威力が全然違うよ。左手に持つ片手剣は収納してこの剣を右手に、そして今右手に持っている剣を左手にもつとさらに攻撃力があがるね」


「そりゃ嬉しいな」


 そう言って早速その通りに剣を持ち帰るダン。右手に持った新しい剣は見てくれもよく、そして軽くて振りやすい。ダンが見ても業物だとわかるほどだ。


 ダンの様子を見てからウィーナは今度はデイブを見て


「この剣はデイブ専用の剣だよ」


「俺専用?」


「そう、この剣は精霊魔法を付与できる、追加効果が出る剣だよ」


 ウィーナの説明ではデイブもダンも理解できない。どういうことだと聞き直すと詳しく説明するウィーナ。


 片手剣を持っている右手で精霊魔法のエンチャントと唱えるとその精霊魔法が剣に付与、エンチャントされる。そうしてその状態で敵を斬ると通常の剣のダメージに加えて精霊魔法のダメージが追加で付与されるという。


「もちろん普通の精霊魔法のダメージが全て付与されるわけじゃない。見た感じだと剣で与えたダメージの30%から40%程が追加効果でダメージとして与えられそうだね」


「それでもすごいじゃないの」


「すごい剣だよ。火が苦手な敵には火の精霊魔法を付与しておけば追加ダメージが大きくなるし水系の敵に対するときは雷系の精霊魔法を付与しておけばダメージが増える」


 敵が嫌う属性の魔法を付与すれば効果が上がるといことかというとそうだよと言ってから、


「ただこの剣は魔法を付与するということで付与している間は自分の魔力を供給していることになる。つまり普通ならずっと付与し続けると魔力がなくなってしまうってことだ。ただデイブはジョブ特性で魔力を自動で回復できる。お前さんにぴったりな剣だろう?」


 言われてみればそうだ。赤魔道士専用の剣みたいじゃないかとダンがいうとウィーナもそうなるね。赤魔道士だから持てる剣だよという。


「ダンもそうだけど俺のも凄いのが出てきたな」


「難易度が高いダンジョンだけあるよ」


 2人は新しい剣を装備しウィーナに鑑定料を支払う。それを受けとりながら


「ダンジョンはクリアしたしヴェルスに戻るのかい?」


 と聞いてきた。


「ここも長くいるしそろそろ戻ろうかなと考えてるんだ」


「そうかい。じゃあヴェルスに戻る前にちょっと私のお願いを聞いて貰えんかね?」


「「お願い?」」


 ダンとデイブが同時に聞き返す。


「そう。本来なら指名クエストにしてギルドを通すのが筋なんだろうけど、ちょっと訳ありでねギルドに話はできないんだよ。ただ困っててね。あんた達ならその問題を解決してくれると思ってさ」


 そう言ってからウィーナは2人を見て、


「あんた達、このレーゲンスから南に行ったところにあるオウルって街は知ってるかい?」



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