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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第4話


 ダンが降り立ったこの世界。一見地球の中世の様だが中身は全く異なっている。街の外には魔獣が闊歩し、ダンジョンと呼ばれる迷宮があちこちに存在している。そしてこの世界に住んでいる人は魔法が使える人が多い。


 モスト大陸という名前のこの大陸の中には幾つかの都市群が存在している。この世界では国家という概念はない。なぜなら国境が存在しないからだ。都市と都市との間にある荒野や山には人が住んでおらず、その代わりに魔獣がいる世界だ。都市は大陸のあちこちに点在している草原、森、そして川や湖のある場所に街を作っていった。拠点となる中核都市とその周辺に点在している村や小さな街をまとめて独立した都市群を形成している。


 国家の概念が無いからと言って都市毎に対立することもなくそれぞれの都市は自主独立の風土が培われている。そして都市と都市とを渡り歩いて商売をしている商人が多い。冒険者も商人の護衛であちこちの都市を渡り歩く。それ以外に強い敵を求めてあちこち移動している冒険者の数も多い。


 危険よりも利益を追求するのが商人であり、安寧よりも刺激を求めるのが冒険者達だ。


 ダンが冒険者登録をした街はヴェルスと呼ばれている都市で、周辺に幾つかの村を抱えた独立都市だ。この都市いやこの大陸には貴族と呼ばれる人種はいない。ヴェルスのトップは領主と呼ばれている。聞くとずっと以前にこの土地に街を作った一族が代々領主をしているらしい。しかしながらヴェルスでは独裁制の都市国家ではなかった。そうであれば冒険者はすぐにいなくなるからだ。


 領主の仕事は住民から集めた税金を都市の拡張や城壁の強化や市内の警備や市内の建物、道路の整備などで還元するのが主な仕事で住民からは概ね好かれているということがヴェルスに住んで暫くするとダンにもわかってきた。


 領主が管理する守備隊の仕事は市内の治安維持と城壁の管理、都市に出入りする人々の管理がメインで。都市の外の魔獣討伐は冒険者の領分になっている。



 ダンがこの街で冒険者登録をして1年ちょっとが過ぎた。冒険者の最初のランクのFランクから始まり市内のクエストなどをこなしていった彼は今はもうすぐCランクにあがる手前のDランクのプレイヤーとしてソロで都市の外に出ては周辺にいるゴブリンやスライムを倒しては生計を立てていた。


 街の外にいる魔獣の中では最低ランクに位置づけされるスライム、ゴブリン。それらを倒してはクエストをこなし、その合間に宿の庭で素振りをするという日々を送っていたダン。身体の動きは以前のゲームの時の感覚を基に動かし、同時に体力も鍛えていった。


 ゲームと違い生身の体を動かすのがこれほど辛いのかと最初は思っていたが、一方で自分の意思で自分の体を動かせるという当たり前の感覚が嬉しくて時間があれば1人で鍛錬をし外に出ては魔獣を倒している。


 暗黒剣士や赤魔道士の様な中衛と呼ばれているジョブは特殊で通常のパーティにはほとんど席がない。前衛と後衛とがはっきりと分かれている方がパーティとしては効率的に動けると皆が考えているからだ。周囲がパーティを組んでいる中、ダンはいつも1人で活動していた。そして人一倍鍛錬に励んでいたダンは既にランク以上の実力を身につけていた。当人の努力に加えてこの世界に来る前に会った老人がダンの能力の初期値とその後の上昇値に補正をかけていた為だがそこまではダンは気づいていなかった。



 そうして冒険者になって2年近く経った頃、ダンのランクはCに上がった。ようやく本当の冒険者と言われるランクになった。


 ランクCになってもダンは相変わらずソロでギルドでクエストを受けては周辺の魔獣を退治して生計を立てている。

 

 暗黒剣士はジョブ特性として武器で攻撃をすると相手に与えたダメージのいくらかを自分の体力に還元できることができるがその還元率は自分のスキルに依存すると言われている。高ランクになると回復しながら戦える様になるがダンのスキルではまだそこまで多くの体力を魔獣から吸い取ることができない。


 ランクCになって魔獣の相手もランクD、時々Cを倒してはスキル上げと金策をする。前世では全く身体を動かせなかったせいもありダンはソロで好きな様に動いて敵を倒すことを楽しんでいた。魔獣が生息している郊外の森の中で何体か倒すと自分に回復魔法をかけて回復し、再び魔獣を探しては討伐する生活をしているダン。



 この日も朝から街の外に出て魔獣を倒し、夕刻にギルドに戻って倒した魔獣の魔石を交換し終えると受付の近くにいた冒険者から


「今日も魔獣退治かい?」


「ああ。明日は休もうと思ってるけどな」


 この街で2年も冒険者をやると街所属の冒険者の知り合いが多くなる。顔馴染みに声をかけられて挨拶をするとギルドの横に併設している酒場からダンを呼ぶ声がかかった。


 声のする方に顔を向けると1人の男が手を上げている。皮の戦闘服を着ているダンも知っている男だ。

 

「よう。デイブ」

 

 そう話しかけながらデイブが座っているテーブルに腰掛けるダン。こちらも同じ様な皮の戦闘服だ。


「ちらっと聞こえたが明日は休むつもりなのかい?」


「ここしばらくは毎日外に出てたからな。体を休めようと思って」


 目の前に座っているデイブは赤魔道士だ。ダンと同じくこの街でソロで活動している。ランクもダンと同じCランクだ。


「そうか。じゃあ明後日は時間があるかい?」


「どうしたんだ?」


 正面に座っているデイブを見て聞き返すと、


「お前もだが俺もランクCになったんだよ、2人で始まりのダンジョンを攻略しないか?」


「始まりのダンジョンか」


 始まりのダンジョンとはランクCになった冒険者が最初に挑戦するダンジョンだ。5層のダンジョンでこのダンジョンをクリアすると他のダンジョンにも潜ることができる様になる。


 ダンジョンの突入資格を得るために必要なダンジョンと言える。


 そしてこのダンジョンはクリアした時点で参加者のジョブに応じた武器か防具が1つ出ることになっている。と言ってもランクCが使う程度の武器や防具だが。


 パーティでもソロでも構わないが今後ダンジョンに潜るにはこの始まりのダンジョンのクリアは必須となっていた。中にいる魔獣はダンジョンに突入する人数によって難易度が変わるので大人数だから有利だということはない。


 ダンが黙っていると、


「ソロで行くつもりだったのかい?クリア目的だからソロに拘らなくてもいいんじゃないかなと思って声をかけたんだよ。ダンがソロでやりたいというのなら構わない。俺もソロでやるだけだし。ただ2人の方が楽だろうと思ってさ」


「いや、黙ってたのはそう言うことじゃない。単に忘れていたというかそのうち行こうを思ってただけでさ。デイブが誘ってくれるのなら是非一緒に頼むぜ」

 

 ダンの言葉でデイブの顔が明るくなり


「そうか。じゃあ明後日2人で行くか」


 

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