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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第32話


 ギルマスの執務室からギルドに戻るとダンジョンをクリアしたことが既に知れ渡っていた。ギルドではダンジョンの攻略情報が掲示板に貼られていて、昨日まで13層まで攻略されていたダンジョンがクリア済という表示に変わっていたからだ。夕刻で多くの冒険者がカウンターの前や酒場に集まっている。


「DDだ。あいつらがクリアしたのか?」


 その声が聞こえてきたかと思うとギルドの酒場にいたミゲルが2人に声をかけて


「誰かが今言ってたが、あのダンジョン、ダンとデイブでクリアしてきたのかい?」


「そうだよ」


 そう言うとおおっと酒場に歓声があがった。


「難易度が高くてしばらくクリアされなかったはずだぜ」


「2人だけでクリアしちまったのかよ」



 そんな声を聞きながら2人は酒場に移動するとミゲルのパーティメンバーが座っているテーブルに椅子を2つ持ってきてそこに座る。


「きつかったか?」


 デイブはダンと顔を見合わせてから聞いてきたミゲルに顔を向けると


「あのダンジョンをクリアするのに13層で1ヶ月以上かけた。14層は2ヶ月以上かけた。まぁ毎日ダンジョンに潜っていた訳じゃないけどさ。それでも階段を降りたところでひたすらランクSを討伐してたんだよ」


 周囲の連中が黙っている中デイブは話を続ける。


「俺達は二人組だからさ、絶対に大丈夫だと2人が思うまではフロアを攻略しなかった。14層ではランクSが複数体、それも4体、5体と出てきた。そしてどんなジョブが出てきても5体問題なく倒せる様になったから一気に14層をクリアして15層のボスに挑戦してきたんだ」


 ミゲルらのパーティメンバーは驚愕しながらデイブの話を聞いている。周りの冒険者達もしかりだ。3ヶ月以上ひたすらダンジョンの階段下の同じ場所でスキルを上げる鍛錬をする。口で言うのは簡単だが並大抵の努力じゃない。しかも最後は2人でランクS5体のリンクを確実に倒せただと?顔を見合わせるミゲルのパーティメンバー達。


 周りの表情を見てからダンが、


「俺もデイブも鍛錬が好きだから苦にならなかった。同じ場所で鍛錬を続けていると自分が強くなっていくのが実感できるんだよ。最初は2人でランクS1体倒すのに苦労していたのがそのうちに倒せる数が増えていった。そうなるとますます鍛錬のモチベーションが上がる。ダンジョンボスとの戦闘については全く急いでなかったからな。鍛錬そのものの方がずっと楽しかったよ」


 しばらくの沈黙の後、ミゲルが


「なるほど。2人だから慎重になる。そして2人だから力が付くのが実感できるってことか。それでボスは何だったんだい?」


「鎧を着たナイトタイプのトロルだった」


 デイブがあっさり答える。トロルかとつぶやいたミゲル


「体はでかいし体力もある。オークの上位って言われてるからな。そいつが鎧を着て剣と盾を持ってたってことか。その頑丈なトロルをよく倒せたな」


 デイブとダンでボス戦の時の戦闘について話をするとまたびっくりする周囲の冒険者。


「普通なら盾ががっちり受け止めて他の前衛や精霊士が盾の後ろや横から攻撃をするんだろうけど、こっちは2人だ交互にタゲを取りながら鎧で隠れていない首の後ろと剣を持っている手首だけをひたすら責め続けたんだよ」


「時間はかかったけどな。俺は相手にダメージを与えるといくらか体力に戻ってくるから長時間の戦闘でも疲れなかった。デイブは知らないけど」


「俺もそうでもなかった。正直タゲは7割近くがダン、3割ちょっとが俺って感じだったと思う」


「そうか?6、4位じゃないの?俺が6でデイブが4。それくらいだろ?」


 そんなやりとりをしている2人をミゲルとスミスは顔を見合わせる。14層で2人でランクSのリンクで鍛錬をして最後は5体リンクをあっさり倒せるまでになっているとか普通じゃ考えられない。


 普通のパーティならタゲを取るのは盾ジョブのナイトだけだ。一時的に他の戦士などの前衛が取ることがあっても戦闘中1割もないだろう。つまりナイトは目の前にいる全ての敵のヘイトを取ることになる。だから僧侶はリンクするとナイトにべったりとついて盾が倒れない様に回復魔法や治癒魔法を撃ち続けていくのがオーソドックスな戦い方だ。もちろんミゲルらもそうしている。そうして1体ずつ敵を倒していく。


 ところがダンとデイブは全く違う戦闘スタイルだ。2人組とは言いながら戦闘中はおそらく各自がそれぞれ複数体を相手にするんだろう。魔法と武器を両方使えるメリットを最大限に生かせる戦い方だと感心する。


 そしてボス戦だ、ヘイトは常に2人にあり2人が交互に攻撃する。魔獣はヘイトの高い敵(人間)に向かう傾向があるがそれを逆手にとって交互にヘイトを取りながら正面と背後から同時に攻撃していく。理にかなったやり方だ。しかも2人ともピンポイントで同じ場所に攻撃し続けている。


「あのダンジョンがクリアされたのは久しぶりだ。最後はワッツのパーティだったらしいな」


 2人の話が終わるとスミスが言うと知っている頷くデイブ。


「これからワッツに報告に行くつもりだよ。これでようやくワッツと同じスタートラインに立てたよってな」


 デイブの言葉に口には出さなかったが2人でクリアしてる時点でワッツらを追い抜いているだろうとミゲルは思っていた。スミスも声には出さないが同じ思いでいるのが表情を見るとわかる。


 その後もダンとデイブは聞かれるままにダンジョンの下層について話をする。2人はダンジョンの戦闘や敵の様子についても隠し立てせずに聞かれたままを答えている。2人とも他の冒険者と競争しているという意識が全くないからできることだ。普通ならそう簡単にクリアしたダンジョンの攻略を他のパーティ、いわゆるライバルに話することはない。自分たちのノウハウでもあるからだ。悔しかったら自分たちで考えて攻略してみろ。というのがパーティを組んでいる連中の一般的な考え方だ。


 ただこの2人は違う。攻略するなら教えるからやってみなよとオープンだ。逆に2人で攻略できたから皆もできるぞと嗾けている様にも見える。冒険者は仲間でライバルじゃない。2人を見ているとそれが言動に出ている。


 こんな発想をしているからワッツやレミーにも気に入られたんだろう。こいつらはまだまだ伸びる。間違いなくヴェルス、いや大陸でも名をとどろかせるだろうとこの時ミゲルは確信する。


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