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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第28話

「流石にワッツが教え込んだ弟子だな。あの動きは昨日までランクBだった冒険者のそれじゃない」


「俺もこいつもあの2人はランクCの時から見ている。まだまだ伸びるぞ」


「ほう、ワッツとレミーのお墨付きか」


「ギルマスもそう思ったでしょ? 2人というハンデがハンデになってないわよ」


「その通りだ。今日見てわかったよ」


 ギルマスの執務室でプリンストンとワッツ、レミーの3人がソファに座って話をしている。テーブルの上にはジュースが3つ置かれていた。


「それにしてもよくあいつらに二刀流を教えたな」


 プリンストンが言うとワッツが最初に武器屋にやってきた時から一目見て鍛錬を欠かさない冒険者だと見抜いたからだという。


「あいつらはランクには拘ってなかった。ただ自分たちが強くなりたい。そのためにはどうすればよいのかだけを考えていた。俺が知っている冒険者とは全く異質だったんでな二刀流はどうだって聞いたんだよ」


「それにしても今日のダンを見ると完璧に会得してるじゃないか」


 ワッツはギルマスの言葉に頷くと、


「あんたなら分かるだろうが二刀流は簡単じゃない。ただ両手に武器を持てば良いってもんじゃないからな。教える前は最低でも1年はかかるだろうと見ていたがなんと2人とも半年余りでモノにしやがった。教えていたこっちがビックリしたよ」


「この人とも話をしてるけど、私たちが現役だった頃の地位をあっという間に抜き去っていくでしょうね」


 レミーもベタ褒めだ。プリンストンは目の前の2人が現役時代から知っている。その時から周囲のランクAとは頭1つ、いや2つ以上は抜きん出ていたパーティだった。その彼らが自分たちよりも伸びると言い切っている。


「これからもあの2人組には注目だな」


 その言葉に頷くワッツとレミー。



 ダンとデイブ、特にダンは鍛錬場であっという間にジェイをぶちのめしたその実力を見た周囲からは一目置かれる存在になりつつあった。デイブについてもその力をワッツが認めているという話が広まっていき、この2人組はヴェルスのギルドではD&D、あるいは単にDDと呼ばれていく。デイブとダンのイニシャルから取ったD&Dという呼び方は最初はヴェルスで呼ばれ出した。それと同時に別の呼び方も広まっていった。


 ノワール・ルージュ。


 黒と赤という意味だ。2人のジョブからそう呼ばれ出していく。DDあるいはノワール・ルージュ。この呼び方はゆっくりと大陸中に広まって行くことになる。



 当の2人はランクがAになってもその生活リズムを変えていない。アパートに住み朝から鍛錬をすると3勤1休のローテーションで地上とダンジョンを攻略していた。ランクはポイントで上がるが腕前、スキルは鍛錬でしか上がらない。ということでフィールドでランクAやBを倒してクエストをこなしながらダンジョンでは13層でランクSの単体、そして2体を相手に鍛錬を続けている。


「もう少し早く倒せないとダメだな」


「その通り。今のままじゃこのフロアは攻略できない」


13層に降りる階段の途中の安全地帯に腰を落として水を飲みながら話をする2人。


「地上のクエストもかなりこなしている。もうすぐ目標額に届きそうだ。それで剣を変えてどうなるかだな」


 デイブが自分が座っている階段の前、一段下に座っているダンの背中越しに話しかけると


「実はそれが楽しみなんだよ。ワッツが勧める剣だからさ。ただその剣がきちんと振れる様に体を鍛えないとな」


 そして休憩が終わると今度はデイブが前、ダンが後ろになってランクS単体を相手に鍛錬を開始した。


 地上のクエストとダンジョンでの鍛錬を続けて3週間後、ようやく2人は目標金額に到達したことを知る。


 そうして夕刻のギルドで報酬をもらうとその足でワッツの武器屋に顔を出した。


「金策ができた様だな」


 奥から出てきたワッツが言うとやっと貯まったというデイブ。ワッツは奥から2本の片手剣を持ってきた。ダンが見るとその剣は以前に勧められた剣とは違っている。あの時の剣よりもさらに上のクラスに見える。隣をみるとデイブも気がついた様だ。


「この剣はこの前勧めてくれた剣じゃないな」


「その通りだ、あの時勧めたのよりさらにもう1ランク上の剣だ。切れ味、威力が今お前達が使っている片手剣と比べると数段上になる。これを売ってやろう。値段はこの前勧めた片手剣の値段でいいぞ」


「えっ!本当に?」


 ダンが思わず声を出す。どう見ても目の前にある剣は以前勧めてきたのよりもさらに高い値段の剣だからだ」


「ランクAに昇格した俺からの昇格祝いってことで特価で売ってやるよ」


「ダン、ワッツの気が変わらないうちに買っちまおう」


 デイブが言うとダンも笑いながらそうしようと2人で貯めてきた金貨をワッツに渡し、代わりに新しい片手剣を手に入れた。早速軽く振ってみただけで今までの剣とは全く違うことがわかる2人。


「持っただけでわかるな。この剣はそんじょそこらにある剣じゃないぞ」


「ああ。振りやすいし刃を見てるだけでも優れものだってのがわかる」


 口々に感想を言っている2人を見て、


「普通はランクAになるとそこで鍛錬を止めたり、勘違いする冒険者が多い。そんな中、お前さん達はランクAになっても同じ生活パターンを崩さずに日々鍛錬しているんだろう。そんなお前らに俺からの祝いだ。この剣を持つと13層のクリアが可能になるはずだ」


 そう言ってから


「剣はあくまで道具だ。装備や道具をよくするのは必要だが、一番必要なのは本人だ。日々の鍛錬を欠かすんじゃないぞ。それと今まで右手に持っていた剣を左手に持つんだ。そうすればさらに威力が上がる。ミスリルの剣はこちらで下取りしてやろう」


「でもミスリルを手放すと魔法の威力が落ちるんじゃ?」


 デイブが心配そうに言うと、


「お前達のレベルになるともう大丈夫だ。ちゃんと体内の魔力を剣に伝えることができている。もうミスリルにこだわる必要はない」


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