第26話
当の2人は相変わらずのルーティーンをこなしていた。そうしてワッツから金策しろと言われてから4ヶ月後、攻略しているダンジョンは12層をクリアして13層でランクSの単体、時に2体を相手に鍛錬を続けていてダンジョンからヴェルスのギルドに戻った際に受付嬢が
「ギルドマスターがお二人が戻ってきたら会いたいとおっしゃっています」
なんだろうと思いながら2人は受付嬢に続いてカウンターの奥にある廊下を歩いて一番奥の扉、ギルドマスター室に案内される。
「はじめまして、このヴェルスのギルドマスターをしているプリンストンだ、よろしく」
ギルマスの部屋に入ると大柄な男が近づいてきて自己紹介をする。
「デイブだ。赤魔道士をしている」
「ダン。暗黒剣士をしている」
挨拶が終わると勧められるソファに座る2人。その向かいにギルマスが座ると
「外から戻ってきて疲れているところを呼び出して悪かった」
と言ってから
「実はお前さん達2人は少し前からギルドでも注目していたんだよ」
と言う。注目?とデイブが聞くと
「そうだ。2人組、赤魔道士と暗黒剣士というランクBの中衛同士のペアが格上、それも2ランク上のランクSを相手にしているっていうんでな」
2人は黙ってギルマスの話を聞いている。
「そう緊張しなくても良い。雑談と思ってくれればね。それでさっきの話の続きだが、2人組で2ランク上の格上を相手にしてるというのは普通じゃ考えられない。いや、君たちが嘘をついてないのは知っている。ギルドカードにちゃんと記録されているからね。ただ普通は5人ほどのパーティがせいぜい同格か1ランク上の相手をしている中で2人で2ランク上の相手をほぼ毎日の様に倒している。興味が出て当然だろう?」
それまで黙って話を聞いていたデイブが口を開いた。
「俺達は普通のパーティじゃ席がないジョブだ。元来はソロでやるジョブなんだろうがたまたまこうやってダンと知り合って2人でやっている。俺が後衛よりの中衛、ダンは前衛よりの中衛、時々立ち位置を交代してダンジョンやフィールドで金策と鍛錬をしている。格上を相手にするのはそれがポイントが貯めやすいからだ。俺達は護衛クエストは受けられないのは知っている。となるとポイントを貯めるには地上のクエストと格上の討伐ポイントしかないのでね」
一気に話をするデイブ。
「ランクBでランクSを相手にしている。きついだろう?」
「最初はきつかった。ただ慣れてきたのと元冒険者で今は武器屋をしているワッツから二刀流を教わってからは以前ほどきつくはなくなったよ。とは言ってもランクSをせいぜい2体同時に相手するくらいだけどね。それ以上リンクしたら無理だ」
「なるほど。二刀流はワッツから教わったのか」
プリンストンは初めて聞いた話だが内心でびっくりしていた。ワッツはランクSに最も近いパーティと言われていて当然ギルマスとして彼らの力量は把握している。力量だけじゃなくメンバーの性格もおおよそ理解していると言っても良いだろう。
ワッツは無口な男で無愛想に見えるが本当は優しい男で面倒見が良いというのは知っていた。だがまさか自分の武器である二刀流を自分以外の冒険者に教えるとまでは流石に思いつかなかった。
逆に言えばワッツが”買っている男達”ということなになる。
「きつかったよ。毎日朝早くから武器屋が開く時間までワッツにつきっきりで教えてもらった。半年ちょっとやって俺から教えることは無くなったと言われて嬉しかったよ」
黙っていたダンがデイブに続けていうがその言葉を聞いてまたギルマスは内心びっくりする。あのワッツの二刀流を半年で身につけただと?
それを聞いて目の前の2人がランクBにもかかわらずランクSを相手にしているのにも納得がいく。既にランクA並の実力があるということだ。簡単に二刀流と言うがその習得は簡単ではない。多くの冒険者が片手にのみ剣を持っているのは二刀流の会得に相当の時間と鍛錬が必要になるのを知っているからだ。それを彼らは半年でワッツからお墨付きをもらったと言っている。
「そのギルドポイントだが、お前さん達は2ランク上の格上をかなりの数倒している。詳しくは言えないが同格より格上を倒した方がポイントは良い。そして2ランク上の格上を倒しているとそのポイントはさらに上昇する」
なるほどと頷く2人。
「2人はおそらく護衛クエストは受けていないだろう。それでも2ランク上の格上を倒し続けてきた結果ランクAに昇格するポイントをクリアしている」
その言葉を聞いて顔を見合わせる2人。
「もっと時間がかかると思ってたよ」
デイブが言うと隣で俺もそう思っていたとダン。
「そういう訳でお前さん達今からランクAになる。それを言いたかったんだ」
そう言うとギルマスはドアを開けて職員を呼び2人のギルドカードを渡してランクAに変更する様に指示する。
「2人組でランクAになるのはこのヴェルスでは初めてじゃないかな。ほとんどが5名、たまに4名がいるが2名は聞いたことがない」
「ところでランクAになったら何か変わることがあるのかい?」
「特にないな。ダンジョンについてはどこのダンジョンでも挑戦することができる様になる。あとはランクAになるとこの街のギルドの掲示板に告知される。明日になれば皆知ることになる」
デイブの質問に答えるギルマス。
「まぁ知られて困ることもないだろうしな」
デイブがダンを見て言うと俺は全然気にしないというダン。
「まぁ生活が大きく変わることはないからな」
ギルマスもそう言い、そして
「少し前にラウンロイドに行っていただろう?また遠出をする予定はあるのか?」
「まだ具体的にいつとかは決めてはいないが、今度は西のレーゲンス辺りには行こうかと思っている」
「なるほど。あそこはここより大きな街だ。距離はあるが行けばまた得るものがあるだろう」
そうして話をしていると職員が新しいギルドカードを持ってきた。それを受け取って立ち上がる2人
「時間を取らせて悪かったな」
「いや、こちらこそ」
そう言ってギルマスの部屋を出た2人はそのままギルドを出ていくとそのままワッツの武器屋に顔を出してランクAに昇格したことを報告する。
「そうか。やっと俺達と同じラインに立ったってことだな」
「まだまだだよ。もっと鍛錬をしないとね」
「その通り。ランクと実力が合ってないって言われない様にしないと」
ダンの言葉を聞いていたワッツ。
「その通りだ。ランクAは冒険者の終点じゃないぞ。お前達ならもっと上を目指せる。鍛錬を続けるんだ」
ワッツの言葉に大きく頷く2人。




