第15話
「それにしてもきつかったよな」
「ああ。元とはいえランクAのワッツの指導は半端なかったよ」
ワッツの家での鍛錬を無事卒業した2人はギルドにくるとフィールドのランクBの討伐のクエストを手に取る。
郊外のフィールドで実践してみようぜと言うデイブの提案で2人はギルドの掲示板に貼ってあるクエスト票をとると受付でクエストを受けヴェルスの街の外の森の中にやってきた。
森の入り口付近にいるランクCを2人であっさりと倒して森の奥に進んでいくとランクBのオークが視界に入ってきた。向こうも気がついて唸り声をあげて2人に遅いかかってくる。デイブとダンは事前の打ち合わせ通りダンが敵のタゲを取って攻撃を受け止める間にデイブがその背後に回って挟み撃ちにする戦法だ。
だがダンがオークの攻撃を交わして剣を一振りしただけでオークの身体が大きく切り裂かれそこに背中側からデイブの剣が振り下ろされるとあっさりと倒れてしまう。ダンは剣を切り裂いた時に自分に還元される体力が以前よりもずっと大きくなっているのに気がついた。スキルが上がっている様だ。
「こりゃ想像以上に弱いぞ」
倒されたランクBを見下ろしながら言うデイブ
「というか俺達が自分で思っている以上に強くなってるのかもしれないぞ。剣を振った時に戻ってくる体力が以前よりずっと多くなっている感じだ」
「なるほど。俺も斬りつけた時の抵抗というか、スッと剣で切れた感覚があったんだ。お互いに腕をあげているってことだな」
魔石をとりながらそんな話をし、その後も目に入るオークを倒していくがいずれもお互いの剣の一振りでほぼ死んでいる状態だ。
「これじゃあ鍛錬にもならないな」
そう言ってもう少し森の奥に進んでいく。しばらく歩くとランクAに位置付けされるワイルドベアを見つけた。
「でかい熊だ。ちょうどいい相手だぞ」
デイブが背後から声を掛ける前に既にダンは両手に剣を持って戦闘準備をしていた。2本の剣を合わせて音を立てると気がついたワイルドベアがダンに襲い掛かってきた。
襲いかかってきた魔獣の突進を交わしながら剣を横に振って腹を切り裂く。するとさっきよりも大きくダンの体内に体力が漲ってくる感覚が。ワイルドベアは向きを変えると再びダンに襲いかかってくる。それを左右に持った剣で受けそして攻撃するダン。その頃にはデイブも魔獣の背後に魔法を撃ちそして2本の剣で背中を切り裂いていった。
お互いに3回ほど剣を振るうとワイルドベアは絶命してその場で倒れ込む。
「ランクAも2人ならなんとかなりそうだな」
そう言いながら魔石を取り出すデイブの言葉を聞きながらダンは自分のスキルがかなり上達していたのを実感していた。
「ワッツの鍛錬の成果だろう。こりゃ俺達の想像以上だよ」
そうは言ってもそこで無理をしないのがこの2人だ。ランクAが徘徊する森を歩いてオークや熊の魔獣を単体で相手にして倒しては魔石を集めていった。
時にはソロで相手をしもう1人がその戦闘を見て後でアドバイスをする。お互いがお互いをチェックしながら夕刻まで狩りをした2人はヴェルスの街に戻ってきた。
ギルドに顔を出すとデイブが受付で
「ランクBのクエストだけ受けて出たんだけどランクAも倒してきたんだよ。後からクエストを受けたことにできるのかな?」
「できますよ。そこにあるクエスト票を持ってきてください」
ダンがその票を引きちぎってランクBのクエストと一緒に提出し、お互いの魔法袋から今日1日で倒したランクBとAの魔石を取り出してカウンターの上に置く。ほとんどがランクAの魔石だ。
カウンターの上に置かれたランクAの魔石を見てびっくりする受付嬢。
「これ、ほとんどがランクAの魔石じゃないですか。1日でこれだけ倒してきたんですか?」
「そうだよ。森の奥に行ったら結構な数のランクAがいたからさ、ダンと2人で倒しまくってきた」
そう言って魔石をお金に変えた2人。ギルドを出ると常宿の食堂で夕食をとりながら話をする。2人とも華美な生活はせずに地味に暮らしていた。自分たちの実力を把握している2人は贅沢する金があったら武器や装備を強化しようと決めていたのだ。
「どうする?」
食事をしながらダンがデイブの顔を見る。聞かれたデイブはフォークの動きを止めると
「慎重すぎると思われるかもしれんが、1週間は森でランクAを討伐したい。二刀流を完全に使いこなせるとなった時点で次の手を考えよう」
そこで一旦言葉を切る、いいんじゃないかとダンが言うと、
「それでその次だが。この街の北にあるラウンロイドに行ってみないか?」
2人がいるヴェルスから徒歩で約30日の場所にあるラウンロイド。当初の目標であるラウンロイド訪問だ。
「いよいよだな」
ダンの言葉にそうだ、いよいよだというデイブ。
「魔法袋も持ってる、テントもある。何よりもランクAが倒せる様になっている。遠出をする時期がきたと思ってるんだ」
「それで具体的には護衛クエストか何かを探してラウンロイドに行くのかい?」
「いや、俺達は2人組だ。商人だって護衛の冒険者がたった2人じゃ怖くて頼んでこないだろう。なので護衛クエストじゃなくて俺達単独で向かおう」
確かにデイブの言う通りだ。通常は4、5名のパーティが1台の馬車を囲む様にして護衛しながら進んでいく。それでも時折事故が起こる様な遠出で2人だけで護衛しますと言ったところで商人の方でお断りだろう。
「護衛クエストにした方がギルドポイントが大きく得られるのは知っているが俺たちについてはその恩恵は受けられないだろう。その代わりにその分道中で魔獣を倒しまくってポイントを稼ぎ、金策しようと考えているんだ」
デイブのこの提案にダンも同意する。そうして明日から1週間森でランクAを相手にクエストと金策、そしてスキル上げをすることにした。