第14話
翌朝2人がワッツの店に行くと開店前で閉まっている店の前にワッツが立っていた。2人を見るとこっちだと店の脇の細い路地を奥に入っていく。続いて入っていくと路地を抜けたところは武器屋の裏手でそこには家が建っていた。
「ここはワッツの家なのかい?」
「そうだ。そしてこっちだ」
家の横の道の先には家の庭があった。庭といってもちょっとした広場になっていて4、5人が剣を振り回しても十分な広さがある。こりゃ広いなと言いながら庭を見ていると、
「いらっしゃい」
そう言って家から防具屋のレミーが顔を出した。挨拶をすると、
「ワッツが二刀流を教えるなんて冒険者を辞めてから初めての事よ。それだけ2人とも期待されてるのよ。彼の鍛錬は厳しいけどしっかりとモノにできたら間違いなく強くなるから頑張って」
レミーの話が終わるとさぁやるぞとワッツが自分も2本の剣を持って庭に出てきた。
そうしてまずは基本の型から教える。片手剣1本と違い2本持つことによって体の動きが変わり2人は戸惑いながらもワッツの言う型を真似していく。
「この型を体に覚え込むんだ。でないと次のステップに進めないぞ」
構えから打ち込み、そして引く。右手の剣と左手の剣の使い方や手首の使い方、型として基本を叩き込んでいくワッツ。ダンとデイブも汗をかきながらも弱音ひとつ吐かずに彼の訓練に付いていっていた。
「この型を覚え込むんだ。明日もこの時間に来い」
そうして朝からワッツの店が開くまでの時間、毎日ダンとデイブはワッツの店の裏にある家の庭で鍛錬をすることになった。
鍛錬が終わると2人で街の外で格下のランクCを相手にその型で戦闘をしてみる。相手がいるとどうしても型が崩れやすくなる。1人が戦闘をしてもう1人がそれを見てアドバイスする。そのやり方で夕方まで格下を相手に鍛錬を続ける2人。
そして翌朝になるとまたワッツの店に出向いては鍛錬をする。
2人がワッツの庭で訓練を始めて1ヶ月が経った頃、
「今日は俺にかかってくるんだ。勝ち負けじゃない。型を思い出しながら攻撃をしてくるんだ」
「俺からやる」
ダンが言うと庭に立っているワッツの前に立って二刀流で構える。
そうして覚えた型で攻撃を始めるダン。ワッツはそれを持っている2本の剣で受け止め、交わしそして時々反撃してくる。
「だめだ。攻撃されて引く時の姿勢が悪い。それじゃあ次の攻撃まで時間がかかるぞ、引く時もしっかり型を作って引くんだ」
ダンがダメ出しをくらい、交代したデイブもダメ出しをくらう。そうしながらも何度もワッツに挑戦する2人。
そうして挑戦を続けて1ヶ月も経つとそれなりに”試合”になってきた。たまにだがワッツも褒め言葉を言う様になった。
「そうだ。今のはいいぞ」
「そうそう、その感じだ。今のを忘れるな」
基本の型に始まり今ではその応用で身体や手首の使い方を2人に教え込んでいくワッツ。レミーは自宅の庭で鍛錬をしている2人を見ながら自宅での食事の時の会話を思い出していた。
「あの2人はどう?」
「あの2人は間違いなく強くなるぞ」
「あなたがそうやって断言するのって珍しいわね」
「それくらいの逸材だ。特に暗黒剣士のダン。あいつの能力は半端なく高い。もう1人の赤魔道士のデイブもそこらの冒険者より素材はずっと上だ。だがダンはそのデイブのさらにずっと上の素材だ。まだ自分の素材を使いこなせていないがな。だから鍛えたらかなり強くなるぞ。俺達より強くなるかもしれん」
「それほどなの?」
「特にダンの剣の切れ味はな。時々俺でもやばいと思うことがあるくらいだ。ただ魔法についちゃあデイブの方に一日の長がある。元々魔力はデイブの方が高いらしいからな。ダンが前衛寄り、デイブが後衛寄り。このコンビは強いぞ」
それを聞いてから庭での鍛錬を見ると確かに2人ともそこらの冒険者のレベルじゃない。短期間で見事に二刀流をモノにしつつある。ミスリルを持っている剣から飛び出す魔法についても然りだ。
ダンの身体能力の高さと二刀流の吸収力の高さは見ているレミーがびっくりする程だ。ワッツが言っているのが間違いないとレミーも思っていた。
「こんどは2人で模擬戦をするんだ。魔法は無しだ。何度も言ってるが勝ち負けじゃない。型と体の使い方を意識しながらするんだ」
2本の木刀を持っているダンとデイブはワッツの掛け声で模擬戦を始めた。木刀がぶつかりあう音が庭に響く。
「デイブ、もっと腰を使え。ダン、手首の使い方がなってない」
模擬戦の途中でもワッツから厳しい声が何度も飛んでくる。
激しい撃ち合いがあってデイブの木刀が1本弾き飛ばされた。
「ダン。今のはよかったぞ。デイブも悪くなかった。魔法禁止というだけでお前は不利になってるからな。勝敗は別に気にする必要はない。2人ともかなりのレベルまで上がっている。完全にモノにするのはもうすぐだ」
その言葉がモチベーションになってその後も毎朝鍛錬を続けた2人。さまざまなシチュエーションを想定して鍛錬をし、剣以外に魔法を撃つタイミングやその時の2人の位置どりなども徹底して教え込んでいく。そうしてワッツの庭で鍛錬を始めてから半年ちょっとが過ぎた頃、朝の鍛錬を終えた2人に
「毎日よく頑張ったぞ。完全に二刀流をモノにした様だ。今のお前達ならランクBはもちろん、ランクAも2体までなら全く問題なく倒せるだろう。この数ヶ月俺が教えたことを忘れずに鍛錬を続けるんだ。そうしたらもっと強くなる」
「きつかったけどやればやるだけ自分が強くなるのが実感できたよ」
デイブが言うとダンも
「最初よりずっと2本の剣を自分のモノにしている感覚がある。これからも鍛錬は続けるけど時々見てもらってもいいかな?」
その言葉にいつでも来いというワッツ。約半年もの間、毎日彼の鍛錬に付き合っていた2人は無愛想に見えるワッツが本当は面倒見がよくて優しい男だというのが今ではわかっていた。
「お前達なら大丈夫だろうが強くなったからと無茶をすると必ず酷い目に遭う。今まで通り慎重にそして安全マージンを考えて行動するといいだろう」
魔法袋を買って遠出をする計画を立てていた2人だが結局半年程遠回りをすることになってしまった。