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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第117話 (レーゲンス)

レーゲンス


「私はこのままウィーナの店に行きますが二人はどうされますか?」


「護衛は往復になっているからギルドによる必要もないしなサムが良ければ一緒に行くよ」


「では一緒に行きましょう」


 そう言って馬車で通りを歩いていき、ウィーナの店近くで馬車を止めると二人が馬車の見張りをしている間にサムがウィーナの店に出向いてった。


 すぐにウィーナが店から出てきた。


「久しぶりだね。挨拶は後だ。手伝ってくれるかい?」


「もちろん」


 馬車は再び市内の通りを歩いていくと大通りから曲がって別の道に入りスラム地区の入った所にある一軒の建物の前まで来てそこで馬車を止めた。


 ここがウィーナの店の倉庫だ。そしてこの倉庫の持ち主はスラムの顔役のユーリーであり従いここはスラムに近い場所にあるが安全な倉庫となっていた。


 普通なら治安の悪い場所には誰も品物を置かないがウィーナにとっては逆に安心なのだ。


 扉が開いて馬車が中に入るとスラムの若者が集まってきて次々と荷物を下ろしてウィーナの指示通りの場所に荷物を積み上げていく。そうして全て下ろすと今度はミスリルの入っている木箱を次々と馬車に積んでいった。


 サムは一旦いつもの宿に馬車を置いてから改めて店に顔を出すといい、再び倉庫から出ていった。するとそれと入れ違いにユーリーが顔を出した。二人を見ると挨拶してくる。


「久しぶりだな。相変わらず活躍している様じゃないか」


 握手をした後でユーリーが言う。


「好きなことをしてるだけだよ」


「それが一番だな。それより今回は大変世話になった。あのオーブのおかげであっちとの連絡が随分と便利になって助かっているよ」


「そりゃよかった」


 ユーリーとデイブとのやりとりを聞いているダンとウィーナ


「今回も長くいるのかい?」


「いや、今回はさっきの商人の護衛だ。明日か明後日にはヴェルスに戻ることになると思う」


 ユーリーはデイブの言葉に頷くと、


「また今度ゆっくりと来てくれ。ダンもな」


「わかった」


 そう言ってユーリーが出ていくと私たちも行こうかねというウィーナの言葉で3人は倉庫を出るとウィーナの店に向かう。


 しばらくするとサムがやってきた。そしてテーブルに座ると今回の持ち込んだ商品リストと金額、そしてウィーナの倉庫から積み込んだミスリルの金額をお互いに報告し合ってその場で決済が終わる。


「これで一安心ですよ」


「こっちもだよ。もうすぐ品切れになりそうだったからね。助かったよ」


 商売が終わるとあとは雑談かなと思っているとサムが魔法袋からオーブを取り出した。

それを見たウィーナはオーブから視線を二人に移す。


「あんた達が取ってきた結晶体から作ったオーブかい?」


「そうだな」


 デイブが中央部の連峰に行った時の話をする。二重目の山の洞窟の中で見つけたんだよと言うとそのオーブに再び目を向けたウィーナ。


「これも純度の良いクリスタルからできているね」


「実はこれをウィーナさんにお渡ししようと思って持ってきたんですよ。もう1つは私のヴェルスの店にあります」


 サムのその言葉で全てを理解したウィーナ。なるほどねと言ってから


「これで注文が楽になるね」


「その通りです。お持ちください」


「ありがとう。助かるよ」


 やりとりを聞いていたデイブが、


「あのクリスタルの結晶体を使って自分達のオーブも作ったのか?」


「そうです。お二人に頼まれたオーブを作る時に一緒にね。ウィーナさんとは長く商売ができそうですので通信手段があった方が良いと思いましてね」


 ウィーナがダンとデイブを見て


「こう言うところが良い商人なのさ。普通なら高いオーブを使ってくれってタダで渡す人なんていないよ。売ったらそれだけで膨大な利益がでるからね。でもサムは目先の利益じゃなくて長期的に物事を判断してくる。珍しい商人だよ。もちろん私はサムの様な商人の方がずっと好きだけどね」


「そこまで褒めていただいて恐縮です。オーブについてはこちらにも十分以上のメリットがありますからお互い様ということで」


 サムがニコニコしながら言う。ウィーなもそうだねと言ってサムに相槌を打ってから


「それでいつヴェルスに戻るんだい?」


「明日にでも戻ろうかと思っています。今回はこのオーブをお渡しするのが用事でしたから」


「あんた達も一緒かい?」


 サムの言葉を聞いたウィーナがダンとデイブに顔を向ける。


「今回は往復の護衛なんだよ。だからサムが明日出るなら俺たちも明日出発だ」


「そうかい。またゆっくりとおいで」


「そうさせてもらうよ」


 その後しばらく雑談をしてウィーナの店を出るとダンとデイブはいつもの宿に部屋を取った。サムは持参してきているオーブでヴェルスとやりとりをするので夕食は一緒にできないという。


 構わないと言って宿に部屋を取った二人は折角レーゲンスに来てるしギルドに顔を出すかと市内をぶらぶらしてから行き慣れているギルドの扉を開けた。


「おい、あれノーワル・ルージュじゃないのかよ」


「本当だ。来てたんだ」


「相変わらずオーラがあるな」

 

 中にいたこの街所属の冒険者がダンとデイブを見つけて二人に視線を注ぐ。この街の冒険者の中ではノワール・ルージュは別格の冒険者扱いだ。


 ギルマスに挨拶したいというと二人を知っている受付嬢がすぐに奥に案内してくれる。


「今回は護衛でこの街に来てるんだ。今日来て明日にはヴェルスに帰るから挨拶だけなんだけど」


 部屋に入ってデイブが言う。


「そりゃ仕方ないな。また今度ゆっくりと来てくれよ。お前たちがいるとここの奴らの質があがるんだよ」


 そうして軽く雑談をして、最後にまた来るよとギルマスの部屋を出て受付に戻ると、


「おや、来てたのかよ」


 という声がして二人が知っている顔の連中が酒場から声をかけてきた。ここレーゲンス所属のランクAのパーティ、ランスのパーティだ。


 テーブルに座るとビールをオーダーする二人。注文を取りに来た給仕の女性が離れていくと、


「またレーゲンスで鍛錬かい?」


 ランスが声をかけてきた。


「いや、今回はヴェルスの商人の護衛クエストでね。今日来て明日には帰るんだよ」

 

 そう言うとえらく早いんだなと声がする。


「往復の護衛で元々そう言う予定だったのさ。ヴェルスで世話になってる商人でね」


 デイブが答えるとダンが続けた。


「そう言う訳で鍛錬にきた訳じゃないんだ」


 そう言うことかと納得したランス達。


「まぁせっかく来たんだしさ、今夜は飲もうぜ」

 

 そう言って店員に全員分の飲み物や食事をオーダーしていく。二人も別に予定はなかったしランスのパーティ全員と仲が良いので断ることなく付き合う。


 そうしてお互いに近況報告をした際にデイブが大陸中央部の山々に様子見に行ってきたというと全員がまたびっくりする。


「行ったら帰ってきた奴がいないって言われているあの連峰に行ってきたのかよ」


「行ったと言っても今回は様子見で行ったからせいぜい連峰の中間辺りくらいまでだよ。最深部までは行ってない」


「それでも凄いじゃないの、普通なら山裾で野垂れ死するって話だぜ」


 デイブの言葉に戦士のスコットが言うと、精霊士のジョアンナや僧侶のミオが


「ランクSが数体、休む間も無く襲って来るって話を聞いてるわよ」


 と口を揃えて言う。


「確かにその通り。山裾でランクSの複数体、ほぼ休みなしに襲ってきたよ」


「まぁノワール・ルージュならそれくらいは雑魚扱いできるのか」


 スコットの言葉に頷く二人。


「外側の山はランクS、一山超えると次の山はランクSSの山だった。俺達はその2つ目の山を超えたところで一旦引き返してきたんだよ」


「流石にノワール・ルージュだな。ランクSSクラスでも問題ないだろう?」


「倒すのは問題ない。ただ山の斜面での戦闘は平地やダンジョンとは違う。絶え間なくとまでは言わないがそれなりの頻度で斜面の上から俺達に襲いかかってくる。それを交わしながらの戦闘になるから慣れるまではちょっと苦労したよ」


 戦士のボブが聞いてきたのにダンが答えた。斜面かぁ確かに滅多に斜面じゃ戦闘しないなと言っているランス。


「ダンジョンや街周辺じゃあそこまでの斜面は無い。足場が悪いところでの鍛錬って感じだったよ。慣れたらいけたけどな」


 ダンが言った。ランスらのパーティはダンの話を聞きながらこいつらなら適応力もあるし2、3回戦闘したらもうコツと掴んだんだろうなとい目でダンを見ている。


 その後も聞かれるままに山の情報や彼らが今攻略しているダンジョンについてアドバイスをする二人。遅くまで話をして


「いつもだけど二人の情報は参考になるよ。こっちが一方的に聞いてばかりで済まなかった」


「いやいや、これくらい平気さ。またヴェルスにも来てくれよな」


 そうして全員と握手をして夜遅くまで飲んで、食ってから宿に戻っていった。




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