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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
116/126

第116話


 では私はこれからレーゲンスに向かう準備をしますというサムと別れて二人はミンの店に顔をだしてオーブが出来上がったと言うと、


「レミーを誘ってからワッツの店に行きましょう」


 途中でレミーを拾ってから4人でワッツの武器屋に顔をだした。テーブルの上にオーブを置いて使い方を説明すると早速魔力を1つのオーブに通すミン。デイブがもう1つのオーブに魔力を注ぐとお互いのオーブに相手の顔が鮮明に写った。


「これは便利ね」


「想像以上に鮮明に映るんだな」


 ワッツも珍しく感嘆した声をだしている。デイブの代わりにダンが魔力を通しても同じ様に鮮明に写ったのを見て安心するデイブとダン。


「これはダンが魔法袋に入れて持ってくれ」


 デイブが言うとダンがびっくりする。


「アイテムボックスは中で完全に時間が止まっている。おそらく相手の魔力がアイテムボックスの中には届かない気がするんだ」


「それはあり得るぞ。デイブの言う通りだ。もしものことを考えたら魔法袋の方が良いだろう」


 とワッツも言ったのでオーブはダンが魔法袋の中に収納した。


「何かあったらこれで連絡が取れると思うだけで気がずっと楽になるよ」


 ダンが言うと本当だよなと同意するデイブ。


「すぐに向かうのか?」


 ワッツが聞いてきた。二人は首を左右に振ってからデイブが言った。


「サムがレーゲンスに行きたいので護衛を頼まれた。こっちは急ぐこともないのでサムと一緒にレーゲンスに行って、そして帰ってからかな」



 


 3日後の朝、二人がギルドに寄ってから城門に行くと既にサムが待っていた。彼の背後には大きな馬車がいた。馬は二頭だ。


「全部ウィーナの店向けかい?」


 荷台を見ながらデイブが聞く。


「そうなんですよ。帰りも荷物がありますしね」


 それを聞いてなるほどと頷く二人。そうして馬車の左右にダンとデイブが位置どりしながらヴェルスの街を出ていった。


 ヴェルスからレーゲンスの道は二人に取っては通い慣れたと言ってもいい道だ。広い街道をのんびりと歩いていく。サムにとってもノワール・ルージュの護衛だということで普段よりもずっとリラックスしている。この二人にとって倒せない敵はいないのをサムも知っているからだ。


 ヴェルスを出て10日が過ぎた頃、街道の左手の先に連峰が見えてきた。


「お二人はこの前はあの山まで行ってきたんですね」


「そう。あの連峰は中央の高い山の周辺に三重に山々が取り囲んでいる。俺たちはその一番外側とその内側まで行ってきた」


 馬車の横を歩いているデイブが答える。ダンはその会話を聞きながらも周囲を警戒していた。


「行って、帰って来た人がいないと言われている魔境、秘境。よくご無事で戻って来られましたね」


「今回はね。でも次は最深部の奥の山まで行くつもりだ。どうなるかは全くわからない」


 デイブの答えに馬車の御者席に座っているサムが横を歩いているデイブに顔を向け、


「怖くはないですか?」


 と聞いた。


「怖くないかと聞かれて怖くないって言ったら嘘になる。未知の場所だし魔獣の強さもわからない。正直怖さはあるよ。でもそれ以上にあそこに何があるんだろうという好奇心の方がずっと強いかな」


「ダンさんも同じですか?」


 サムはデイブと反対側を歩いているダンに聞いた。普段街の中ではできない会話だ。サムはこの機会に二人についてもっと知りたいと考えていた。


 戦闘能力はワッツをはじめ誰もが認めている超一流の二人。その二人は一体どういう考えを持って冒険者をやっているのかがサムが以前から気になっていた。同じ職業の商人なら彼らの言動からある程度予想はつく。ただ冒険者となるとこれは全く違う人種になる。一括りで冒険者と言ってもさまざまだ。サムはいろんな冒険者を護衛として雇ったことがあるが、無鉄砲な奴、やけに自分を高く売りこむ奴、逆に当人は慎重だと言っているがどう見ても臆病としか思えない奴、逆に自信過剰な奴と同じ冒険者でもこれほど色んな人がいるのかとびっくりした記憶がある。


 そんな中でも今護衛をしているノワール・ルージュは特に異質に見える。まず彼らを知っていて彼らが嫌いだという人を見たことも聞いたこともない。冒険者のみならず

商人や店の人からも二人は好かれている。


 そして見たことが無い程の戦闘能力だ。二人がランクBの時から見ているがその当時からこの二人の戦闘能力の高さは際立っていた。普通なら強くなれば偉そぶったり、驕りが出たりしてそれは普段の言動に如実に現れてくるものだがこの二人はランクSになっても全くその素振りが見えない。


 興味の尽きない、そして間違いなく自分の信用に耐えうる冒険者だと今のサムは思っている。


 話を振られたダンが口を開いた。


「そうだな。俺は怖さは感じなくてどれだけ強い敵とやれるかという楽しみかだけな。死ぬ時は死ぬ、いつもそう思っているから怖さってのは感じたことがないね」


 周囲を警戒しながら答えるダン。

 

「でも未知の場所だとどれだけ強い敵がいるのかわからない。安全地帯のあるダンジョンなんかとは全く違うと思いますが?」


 とサムが聞いた。


「別にランクが上の敵じゃなくても死ぬ時は死ぬよ。こっちの調子が悪かったり、足場が悪くて足を滑らしたりとかしてさ。戦闘では何でも起こりうると思ってる。でもそこまで考えたら何もできないだろう?だから鍛錬はしっかりして後は楽しむ様にしているのさ」


「サム、ダンは戦闘狂ではないけどヤワじゃない。こいつが前にいるだけで安心できるほどの実力は十分にあるよ。そして今ダンが言った楽しむって意味は鍛錬してスキルが上がった自分の力を試せる相手とやるのが楽しいってことだよ」


「その通りだな。うん、デイブがうまくまとめてくれたよ」


 そう言うとそうだろ?と馬車を挟んでダンとデイブが笑う。


 あっさりと言っているがよく考えるとこの二人は格上との戦闘を楽しめる程日々厳しい鍛錬を欠かさずにしているということになるんだなとサムは理解する。


 ほとんど魔獣に出会うことなく荒野を進んでいった一行の目の前に見慣れたレーゲンスの街が見えてきた。



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