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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第114話 (ヴェルス)

ヴェルス


 二人は洞窟を戻り、再び一番外側の山を登って、そして降りて山裾に戻ってきた。


「今回のルートはしっかりと覚えたから次回は大丈夫だ」


 そう言って荒野を歩いてヴェルスに戻ってきた二人。ヴェルスを出て4ヶ月強の旅だった。


 ヴェルスに戻ったのが夕方遅くだったのでその日はアパートに戻ってしっかりと休んだ二人は翌日ギルドに顔を出した。ノワール・ルージュがギルドに来るとそこにいる冒険者の視線が一斉に二人に注がれる。


 その視線の中を受付に行き魔石の換金を頼むと同時にギルドマスターに面談を申し込むとすぐに奥に案内された。女性職員がジュースをテーブルに置いて部屋を出ていくと


「中央部の山に行って帰ってきたのか」

 

 ギルマスのプリンストンが聞いてきた。ワッツから話があったらしい。デイブがそうだと言うと、


「お前らが初めてだろう。あそこに行って無事で戻ってきたのって。ワッツとレミーがここに来てな。お前さんらが中央部に行ったって言うからびっくりしたんだよ。レミーは今回は様子見で行ってるから戻ってくるだろうって言うしワッツもあの二人なら大丈夫だ。と言ってたんだがな。それでどうだった?」


「どうだったって途中まで行っただけだぜ?」


 デイブが言うが


「お前ら以外だと途中まですら行けないんだよ」


 そう聞かれてデイブが見てきた様子を話しはじめた。大陸中央部の連峰地帯は高ランクがいる未開の地だ。その詳しい情報は誰も知らない。ギルドにとってみれば彼ら二人からの情報は極めて貴重なものになる。


 デイブが部屋で紙にかいた地図をテーブルに置いて説明していく。地図を見ながらデイブの話を聞いているギルマスのプリンストン。


「なるほど。あの連峰は三重の山になっているのか。外側でランクS、二重目ではランクSSクラスが徘徊してる。やっぱりお前らノワール・ルージュ以外の奴らは無理だな」


 説明を聞いたプリンストンが言った。


「今回は二重目まで探索した。見た感じだと三重目の山にはランクSSSクラスはいるだろう。そして最後の奥の山はどうなっているのかは俺たちにもわからない。ランクSSSか、あるいはそれ以上のクラスのがいるのか」


 デイブの説明を聞いているプリンストン。

 普通のパーティなら外側のランクSの徘徊ゾーンでやられてしまうだろう。ひっきりなしにランクSの魔獣が数体襲ってくる。魔力切れ、体力切れになるのは間違いない。デイブの説明が終わると、


「それでいつ再度挑戦するつもりなんだ?」


 と聞いてきた。


「まだ決めていないがそう時間をかけることなく挑戦するつもりだよ」


 魔石を換金した職員が部屋に入ってきた。その代金を受け取るとソファから立ち上がる二人。


「今度行く時には声をかけてくれ」


 わかったと言ってギルマスの部屋を出て受付に戻ってくるとその日の活動を開始したのかギルドの受付の近くや酒場は閑散としていた。


 二人はギルドを出るとその足でワッツの店に顔を出した。二人を見るなり


「帰ってきたか。ダン、いつも悪いが二人を呼んできてくれ」


 ダンがレミーとミンを呼んでくると武器屋の奥のテーブルに座る5人。


 ギルドと同じ様にデイブが地図をテーブルの上に置いて3人に説明をしていく。ワッツとレミー、そしてミンの3人はデイブの話を黙って聞いていた。デイブの説明が終わるとワッツが口を開いた。


「デイブの言う通り外からランクS、ランクSS、そしてランクSSSクラスと考えた方がいいだろうな。そしてその中央にはランクSSSの上位かSSSSがいるかも知れないってことだ」


「二人は強いって聞いてるけどよくまぁ数が多いデビルバットを無傷で倒してくるわね」


 ミンが感心した声で言う。


「こいつらにとっちゃあデビルバットがいくらいても所詮ランクSクラスの相手なんだろう」


 そうだろう?という目で二人を見るワッツ。


「まとまって飛んでくるけどそのスピードは早くない。彼らの動きより早く動けたらあれは雑魚だな。数が多いから面倒くさいだけで苦労はしなかったよ」


 ダンが言うと本当に!ランクSSクラスなのよとびっくりするミンとまぁそうだろうなと納得するワッツ。


「それで二重目の山の中の洞窟を歩いているときにこれを見つけてきたんだよ」


 そう言ってデイブがアイテムボックスからクリスタルの結晶体を4つ取り出してテーブルの上に置いた。


「また出たのか」


「出たというか、これは洞窟の壁、岩場が光ってたから掘り出してみたらこれだったんだよ」


 3人がそれぞれ1つずつクリスタル結晶体を手に取ってじっと見る。


「間違いないわね。クリスタルの結晶体よ」


 ミンが言って手に持っていたのをテーブルに戻して二人を見て聞いてきた。


「これだけの結晶体って物凄い価値よ。どうするか考えているの?」


「サムにあげようかと思ってる」


 デイブが言うとあげるの?とびっくりするミンだがワッツとレミーはいいんじゃないかと言う。


「ただし条件をつけるつもりなんだ」


 デイブが言うと3人が何だという顔をする。


「この結晶体からオーブを1セット、2個作ってもらって1つを俺達が持ってもう1つをワッツに持って貰おうかなと」


「何かあったらいつでも連絡が取れるからか?」


「それもあるけどあの連峰の三重目、そして中央の山の情報を流すからギルドに伝えて欲しい」


 デイブが言った。ワッツは暫く黙ってからレミーとミンを見て、


「お前さん達といつでも連絡が取れるってのはありがたい話だ。だがな俺もレミーも言うほど魔力がない。全く無いわけじゃないがな。だから持つとしたらミンだな」


「私!?」


「ミンは元精霊士、魔力は私たちよりずっと多いでしょ?」


「まぁ二人よりは多いと思うけど」


 テーブルの上に置かれているクリスタル結晶体に視線を注ぎながらミンが答える。


「魔力が強ければ繋がる距離が伸びるって話を聞いたことがある。ヴェルスから何十日も離れた場所からの交信だ。魔力が多いやつが持っておけばいい。二人から連絡が来たら俺達を呼んでくれればいいだけの話だしな」


「俺達はミンでも全然構わないよ。サムがOKして1セット作ってもらったらミンの雑貨屋に置かせてくれよ」


「わかった」


 そうしてオーブができたときにはヴェルスではミンがそれを管理することになった。


「これから早速サムの店に行ってくるよ」


 そう言って二人は立ち上がるとワッツの武器屋を出ていった。二人が出ていくと


「本当にあの二人は規格外ね」

 

 ミンが言う。


「正直全盛期の俺達よりもずっと強くなっている。今まであれほど強い冒険者を見たことが無い。しかも山の情報をギルドに流してくれと言っている。情報を自分達だけで取り込もうとしない。一流だな」


 その言葉に頷くレミーとミン。


「それにしてもランクSSのリンクに面倒くさいだけだったって言える冒険者なんて他にいないわよね」


 ワッツとレミーの言葉に本当よねと頷くミンだった。



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