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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
110/126

第110話

 翌日は休養日にしてしっかりと疲れをとった翌朝、軽く身体を動かすかと地上の乱獲クエストを受けにギルドに顔を出した二人。


 二人がギルドに入ると一斉に視線が注がれる。そんな中掲示板からランクA乱獲のクエスト容姿をとったデイブが受付でクエストを受けると


「久しぶり。しばらく見なかったな」


 この街所属のランクAのパーティリーダーであるミゲルが声をかけてきた。


「1年ほどレーゲンスに武者修行に行ってたんだよ」


「なるほど。それで今日は慣らしか」


「そんなところだ」


 デイブとミゲルの受け答えを聞いていたダン。ミゲルの背後にいたパーティメンバーが手を上げて挨拶してくるとダンも手を上げて応えそしてデイブに続いてギルドを出ていった。


「また迫力が増してないか?」


 二人の姿が消えると盾ジョブのスミスが言った。


「ああ。特にダンがな。格好は以前と大きく変わった訳じゃないんだが雰囲気がまた一段と強者のそれになってる」


「近寄り難いって訳じゃないんだけどね。でもこの男は絶対に敵にしたらダメって思わせる雰囲気があるわね」


 狩人のオリビアが言う。上手い事言うじゃないの、その通りだと他のメンバーも頷いていた。


 ダンとデイブは特にダンジョンには行かず3日に2日はフィールドで体を動かしていた。新しい装備を完全にモノにするためだ。


 デイブは両手に持った片手剣に常時精霊魔法をエンチャントして体の動きを確認し、ダンは二刀流の基本を見直していた。そして新しい靴を使った攻撃のコンビネーションを二人でいろいろと試している。


「剣が良くなるとどうしても剣の威力に頼りがちになる。二刀流の型が少し崩れてたよ」


 たった今ランクAを4体倒したダンが言う。


「最後の方はしっかり戻ってたぜ?」


「ああ。ようやく体が思い出してきた。これではいかんな、ワッツにどやされそうだ」


「それで縮地だがリキャは5分で間違いないな」


「ああ。それにしても20メートル瞬時に移動できるのはでかいな」


「全くだ」


 20メートル瞬時に移動できると言っても崖の上に昇ったりはできない。あくまで通常の移動距離での話だ。それと移動直後にほんのわずかな時間硬直がある。


 ランクAだと問題ないがSSSクラス以上になるとその僅かな時間が命取りになることもある。二人は縮地の使うタイミングと移動先について何度もランクAを相手に実践で動きを確認していた。


 昼間は森で乱獲をし、夕刻にギルドに戻ると受付で魔石を換金した二人。換金を終えてアパートに戻るかと言っていると酒場から声が掛かった。見るとこの街所属のランクAのパーティだ。


 盾ストーン

 戦士ジョン

 戦士シモンズ

 精霊士ジェニー

 僧侶アイリス


 彼らはノワール・ルージュがランクAからSに昇格してしばらくしてからランクBからランクAに昇格したパーティだ。ヴェルスのギルドでは今最も勢いのある伸び盛りのパーティと言われている。


 声をかけてきたストーンに近づくと、


「久しぶりにノワール・ルージュを見たんでね声をかけさせて貰ったけどよかったかな?何か用事があるなら別の機会でもいいけど」


 リーダーのストーンはこうやって相手を気遣うことができる優しい男だ。尤も優しいのは人間相手だけで魔獣相手だと普段からは想像もつかない程に戦闘的になるらしい。


「いや、大丈夫だよ。ダンとこれからどうすっかなんて話してたところだったから」


 そう言って彼らが座っている席の隣のテーブルに腰掛ける二人。お互いの近況報告をするがノワール・ルージュが長期間レーゲンスに行っていたのはここのギルドでは有名で、


「俺達はリッチモンドまで足を伸ばしてたんだよ」


 ストーンが言う。


「レイクフォレストの街には行ったかい?」


 デイブが聞くと全員がもちろんと言った。そして女性二人の目が輝いて


「あの街は最高ね。この大陸にあんな街があったなんてもうびっくり」


「ほんとほんと、空気は美味しいし緑は多いし。帰りたくなかったわよ」


 精霊士のジェニーと僧侶のアイリスが興奮して言っている。

 ダンとデイブはひとしきり女性二人の話を聞いた後でデイブがストーンに顔を向けると


「巡回したか?」


 と聞いた。


「ああ。変わってない。あの場所から動いてないのは確認した」


「なら安心だな」


「あっちで聞いたんだがあれを見つけたのはノワール・ルージュだって話なんだが」


 戦士のジョンが聞いてきた。


「その通りだ。おかしいと思ったんだよ。湖の向こう側には魔獣が出る、でもあの街の周囲にはでない。何か理由があるはずだと思ってね。それで街の周囲を巡回したらあれを見つけたって訳さ」


 デイブの言葉にやっぱりランクSは違うなと言うジョン。


「俺達というか普通ながら街の周辺に魔獣がいなければラッキーだ、で終わっちまう。それを何故だと思って実際に調べてくるなんてな」


「俺達は疑り深いんだよ」


 ジョンの言葉にデイブが笑いながら言った。


「レイクフォレストはリッチモンドの住民にとっては息抜きになっている場所だ」


 ダンが口を開いた。ダンが話始めると全員がダンに注目する。いつものことだ。無口と言われているダンがどんな話をするのか皆聞き耳を立てている。ダンは続ける。


「そのレイクフォレストが本当に安全かどうか。安全ならそれはリッチモンドとレイクフォレストの住民に言うべきだし、不安要素があるのならそれを取り除くのが俺たちの仕事だと思ってる。戦闘能力がない普通の市民が安心して暮らせる様に魔獣を倒すのが俺達の仕事の1つだしな。だからデイブと二人で原因を調べたんだよ。中途半端な状態なら住民が安心できないだろうと思ってね。結果あの魔獣は移動しない。だから安心だという結論になった。その事実を言った事で住民も安心できただろうし、俺達も何故あの街の周辺に魔獣が現れないのかという裏付けが取れてすっきりしたんだよ」


「流石だな、だからのランクSか」


 ダンの話を聞いていた戦士のシモンズが言った。

 冒険者は目先の金策とランク上げしか見ていないと思われがちだ。だが実際には街と街とを行き来する商人の護衛をし、金策と言いながらも街周辺の魔獣を討伐している。


 間接的にではあるが住民が安心して生活できるためにそれを側面から支えているのが冒険者だ。ただ、ほとんどの冒険者はそんな事は考えない。自分のやりたいことをやっているだけだ。でも目の前のダンはそうじゃない。自分のためと同時にそこに住んでいる人の為に何ができるかをいつも考えている。


「強くなるのは結果的に街の住民のためでもあるんだよな」


 ストーンが言うと俺とデイブはそういう考えだよとダンが言った。



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