第1話 (冥界)
冥界
少年は目が覚めると白くて長い階段を歩いていた。
周囲を見ると同じ様に男女が白い衣装に身を包んで緩やかな階段を間隔を開けて上に登っている。階段は大きく円を描いた螺旋状になっていて上の方に続いていた。子供から老人まで皆無言で何かの儀式の様に階段を一段ずつ上に登っている。階段の周囲はモヤがかかった様で何も見えない、見えないが上に続く階段だけは何故か見えている。ただ上に伸びている階段の先は見えない。途中からモヤがかかっている為だ。そうして次々と階段を登っていった老若男女がモヤの中に消えていく。
まるで操られる様に前の人に続いて階段を登っていく人達。まるでそうするのが当然の様に…
宮内暖 17歳男性。両親が外国人が名前を覚えやすい様にと暖という名前をつけたと聞いた。ただ彼は結局殆ど外国人と接することはなかった。9歳から17歳までずっと病院の個室で過ごしてきた暖には外国人どころか知っている日本人すら少ない。
9歳の時に発症した不治の病。現代医学では治療方法がなく延命治療をするだけだった。徐々に身体が動かなくなる奇病。意識ははっきりとしているが手足が段々と重くなり最後には全く動かなくなってしまう。16歳になった時には手足だけではなく口も動かなくなり食事を嚥下することすらできなくなっていた。
まだなんとか口が動いた15歳の時に両親が暖に最新のゲームをプレゼントした。フルダイブのVRMMOゲーム ”The Third World” 魔法と剣のファンタジーな世界を生き抜くゲームだ。
ゲームの中では5体満足に動かせ会話もできるこのゲームに暖はハマった。両親もこのゲームに登録をして冒険者となりゲームの中で暖と話をし、彼の希望や思いを聞いては医師や看護師に説明をした。
ゲームの中で暖は本名のダンという名前でプレイし、ゲームが開始されて1年も立つとトッププレイヤーの一人として周囲に認められる程になっていた。
ずっとベッドで暮らしていた暖にとってこのゲームはある意味人生だった。リアルではもう口も動かせずに体中にいろんな管が入っていて身動きもできないがゲームの中では毎日山や野原を駆け巡り、手にした武器を持ってモンスターを討伐していた。
そうしてゲームにのめり込んでいた暖だが病魔は確実に身体を蝕んでいた。
暖が17歳になって数ヶ月が経った時に暖の心臓の鼓動が静かに止まり彼の短い人生が終わった。