プロローグ
よろしくお願いします
『私達、これからもずっと、ずっと一緒にいようね』
『ずっと一緒にいてね?』
あの子の言ってた言葉の意味が、私が受け止めていたものと違うとは思わなかった。
『これ。結婚式の招待状なの。来てくれる、よね?』
差し出された、金色の箔押しのある封筒。
連名で印刷された差出人の名前を見ても、信じられなかった。
『おめでとう。そんな彼氏がいるなんて全然知らなかったぁ』
笑ってそう返している自分にすら、全然現実感が無くて。
『彼氏じゃないの。親戚が持ってきたお話でね』
視線を合わせず俯いたまま、恥ずかしそうに馴れ初めを語る姿に、視界が揺れ昏くなる。
突然、酸素濃度が薄くなったよう。ねっとりとした悪夢の中に引き摺り込まれたようだった。
その日どうやって家に帰ってきたのかも、次の日からどう仕事にいって帰ってきてと暮らしていたのかも、覚えていない。判らない。
けれど。
自分がちゃんとごはんを食べて、結婚式に着ていく服を他の友人たちと選んだりしていたのは意識していた。
息が苦しいと思っても、それは自我が芽生えてからずっとの事で。
あの子の言葉に縋ることで、それが楽になっていただけなのだと自覚した。
そうしてもう、今日はあの子の結婚式だ。
美容室に行って、セットして貰って、普段より華やかな化粧もして。
そうして、今。私は、会場に向かう途中で、道路で車に引かれそうになっている猫に向かって走り込んでいる。
どかん
凄い衝撃がきて。身体の痛みより先に『あぁ、これであの子が他の男と祭壇の前で誓いを交わす姿を見なくて済むんだ』とホッとしている自分を哂った。
【それが僕を助けてくれたキミの願いなら、叶えてみせよう】