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花鬼~紅葉、燃ゆる~  作者: 光沢武
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十一話

留吉が死んだ日、泉屋新兵衛は直ぐに家老の木村に報せを送った。


近江屋の顧客台帳の中に、新兵衛の名が書かれている事を木村は知っている。

お美代に続き、留吉がトリカブトで死んだのだ。

妙な風に疑われる前に、木村に何もかも打ち明けておくのが上策だろう。


報せを受けた木村は、典禅を伴い直ぐに泉屋にやって来た。

顔を蒼白にして泣きながら震える多江から辛抱強く話を聞くと、留吉の自殺だと分かった。


では、近江屋でトリカブトを盗んだのは留吉だったのだろうか?

近江屋の事件とお美代の事件とは関わりが無いのか?


そもそもの話、留吉が自殺をしたのは、お美代が死んだ事で多江が幸丸の侍女になり、暖簾分けの話が無くなったからである。

仮にお美代の死に、留吉が関わっているのならば、留吉は自分で自分の首を絞めた事になる。何とも間抜けな話では無いか。


唸る様にして自問する木村に、留吉の死体を調べながら典禅が言った。


「泉屋の身内が二人もトリカブトで死んだからと言って、それを関連付けて考えるのがおかしいのでは無いでしょうか?留吉がお美代様を殺害する動機があったとは思えませんし。今回の事は、やはり、ただの偶然としか思えません。」


「だが、留吉が誰かに頼まれてトリカブトを盗んだとしたら…」


それでも漸く見つけた手掛かりを手放すのが惜しくて、しぶとく二つの事件を結び付けようとする木村に、震えていた多江がはっと何かに気付いた様に面を上げて言った。


「…そう言えば、昨日、留吉さんが菊屋で藤乃様と会っているのを見掛けました。泉屋(うち)で話をしているのは何度か見ておりましたが、外に出て二人きりで会っているのが不思議で…その事もあったので、留吉さんに藤乃様と何を話していたのか聞いたのですが、激昂するばかりで、教えてくれなくて…」


「確かにここ最近、千代様の遣いで来た藤乃様の接客は、留吉が全て行っていたが…」


多江と新兵衛の証言に木村の顔色が変わった。


藤乃は木村の遠縁の出自である。今は千代の侍女となっているが、元々は加代と同じく、幸丸に仕えていて…あの東山の屋敷にも同行している。


「まさか、藤乃が…」


呻く木村に、周りの者達は何も言えず、ただ互いの顔を見るばかり。

答えの出ないまま、それでも留吉が死んでしまったのは事実であり、このままにしてはおけないとの事で、ここに至って漸く町奉行所へと報せる事となった。


木村と典禅は役人が来る前にはそれぞれの屋敷へと戻り、新兵衛親子は多江を中心にして取り調べを受ける事となったが、留吉の部屋から見つかったトリカブトの事もあり、やはり結論は同じく、自殺とされた。





翌日の夕刻、木村は公務を終わらせると、直ぐに加代の家を訪ねた。


留吉と藤乃が会っていたと言う多江の言葉が、木村を落ち着かない気持ちにさせていた。


藤乃が千代付けの侍女となったのは、実は東山の屋敷の件で兼元の不興を買ったからでは無い。

そこには、千代の侍女となった藤乃に、千代の動向を探らせる目的もあったのだが、思えば、反発覚悟での配置転換を、千代が素直に受け入れた事をもっと疑っておくべきだったのかも知れない。

藤乃が千代に気に入られていると聞いて、上手くやっていると思っていたが、藤乃からの報告は未だに木村の元に届いておらず、それは千代付けの侍女となってまだ日が浅く、千代からも警戒されているからだと気にしていなかったが、そうでは無いとすると…。


「くそっ、藤乃の奴め、どういうつもりだっ!」


木村は苛々としながら、母親の加代なら何か知っているのでは無いかと、乱暴に門を叩いたが加代の返事は返って来なかった。


療養中の加代がこんな時間に外に出ているとは考えられないので、木村は庭側から周って声を掛ける事にしたのだが、勝手口から膳を運ぶ加代の姿を目にして、咄嗟に身を隠した。


加代は慎重に膳を運び、土蔵の前で辺りを見回すとそっと中へと入って行った。


「加代は一体何をしているのだ…?」


不審に思いながら、木村はそっと土蔵に近寄ると、加代に気付かれない様に中の様子を窺った。


土蔵の中には蝋燭が立てられ、僅かな灯りが漏れている。

耳を澄ませば、何やら加代が誰かと話している様子で…


木村は思い切って土蔵の中へと足を踏み入れる事にした。

そうして、加代と居る人物を見つけ、目を見張る事になるのだった。


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