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カインの決意

クロード達との話し合いが終わったので、私達はサウスに一度戻ることにした。


私とニエルド、そして桔梗は、クロードの屋敷の庭から風に乗って離陸する。


バルデルは大空に舞う私達を見ながら、クロードに話しかける。

「ああやって空を飛んでいく姿を見ると、やはり化物と対峙したという実感がわいてくるな。」


「そうですね、さすが超越者というところでしょうか。」


「超越者じゃなかったとしても、俺はガイは大した男だと思ったよ。」


「そうですね。そして、あのキキョウという娘が作った薬を傷に塗ったら、瞬く間に傷が治っていきました……

やはり彼女もただものではありませんね。」


「ヘカテイアからの使者の話では、そのキキョウの活躍によって、毒を盛られた王妃が一命をとりとめたらしいからな。」


「そうでしたか……それならば納得できますね。それでは彼らが戻ってくるまでの間に、一仕事しましょうか。」



バルデルとクロードは私たちを見送った後、反乱した兵をセントラルに送還するための準備に取り掛かるのだった。


 *


私達は、飛蝙蝠でサウスへと向かって飛んでいく。

休憩しながら飛び続けて、三日後にウエスタンに向かうマグニとトールの軍勢を見つけた。


私達はトールの前に着陸して、ウエスタンとバルデルの調略が成功したことを告げる。


トールは驚いてはいたが、どこか納得をした顔で私に傅いた。

「まさか、我らが到着するまでもなくウエスタンを調略されてしまうとは、流石でございます。」


マグニが笑顔で私の肩を叩く。

「俺たちの出る幕はなかったようだな。ではサウスに帰還するとするか。」


私は首を振り、このままウエスタンへ進軍するようにマグニへ進言した。

「恐らくは、サウスとウエスタン、そしてセントラルの中央当たりで決戦を行うことになるだろう。その前に、一度サウスの軍とウエスタンの軍の顔合わせをしておきたいのだ。」


マグニは納得した顔になり、私の手を握った。

「わかった……また後で会おう。」


彼は全軍に進軍を命じる。

兵達は足並みを揃えて、ウエスタンに向かうのだった。


 *


それから四日後に私達はサウスへ到着した。


領主の館の応接室に入ると、カインとフレイ、そしてアルベルトとアケロスが出迎えた。


フレイが笑みを浮かべて、私に話しかける。

「いくらお前でも、こんなに早くウエスタンを調略できるとは思ってもみなかったぞ。」


私は静かに首を振った。

「いえ……フレイさんが話してくれた、超越者ジャンヌのおかげだと思います。」


不思議そうな顔をするフレイ達に、私はウエスタンのジャンヌ像前で起こった出来事やバルデル達が持つ武器が起こした現象を報告するのだった。



カインが複雑な表情をして、アケロスに問いかける。

「ジャンヌの件について何か思い当たることはないかね?」


アケロスは深く思案して、私と桔梗に問いかける。

「伝承では、ジャンヌの炎に焼かれた奴は骨も残らずに消えちまったと言うが、ガイとキキョウは母に抱かれるような温もりを感じたんだよな?」


私と桔梗は頷いた。

「しかもその温もりは、私達だけでなくバルデル達も感じたようだ。」


アケロスは納得したような顔をした。

「なぜジャンヌが五百年の時を経て、現れたのかはわからないな。だが、ジャンヌはお前と桔梗の理力を見て、ウエスタンの民達を託そうとしたのだけは分かった。」


そして、バルデルやナインソードの武器のこと思いだして吐き捨てるように言った。

「ガイのおかげで、ウエスタンの奴らも解ったようだが……いくら見事な代物でも、使うものを狂わせるような武器を作るのは三下以下だ。まあ、本気でやり直す気があるのなら、向こうから一人二人をこっちに連れてくるんだな。うちの工房で叩き直してやるよ。」


私はアケロスに頭を下げた。

「すまないアケロス、本当に助かるよ。」


アケロスは少し照れたような顔で私の肩を強く叩いた。

「お前がよく頑張ったからな、ご褒美の一つや二つぐらいはやらないとな。」


私はアルベルトに、ウエスタンへのミスリルの流通についての相談をした。


彼は少し思案した後、カインへ話を切り出した。

「ウエスタンの鍛冶職人達に作りたい武具を聞いて、その上で流通させるのはいかがでしょうか。注文に沿った鉱石を厳選する代わりに、料金はサウスの三割増し程度で流せば、皆が納得できるのではないかと考えています。」


カインは静かに頷くと、アケロスに問いかける。

「私は別にそれで構わない。アケロスはそれで良いかな?」


アケロスは渋々といった顔だがそれを受け入れた。



私の報告についての話が終わった後、フレイが意味ありげに笑った。

「狼煙が上がったのでな……ヘカテイアにドーベルとダナンを送って、こちらに組するように調略を進めているぞ。」


カインは決心した顔をして、静かに私達に告げる。

「もうここまで来たら、私は王位を継ぐ以外に道はないようだね……みんな、不忠者の私についてきてくれるかな?」


私達は顔を見合わせて、笑いながらカインに深く頭を下げた後、彼に向って叫んだ。

「我らはカイン公と共に新しい時代を作るのだ! 新しい王の下、立ち塞がる敵を粉砕することを誓います。」


カインは深く頭を下げた後、ニエルドに告げる。

「私は王位を継ぐ決心がつきました。ですが、出来ればセントラルを戦渦に巻き込まずに、ユミル王に謁見して王位を譲っていただく形を望んでおります。」


ニエルドは思案した後、私と桔梗を見て答えた。

「恐らくは、バルデル様を裏切った者達がセントラルへ戻った後に、フレイの出自とカイン公に王位継承権があることを知るでしょう。そうなれば、ホッド様と王の間で争いが起こるでしょうね。」


私はカインに献策をすることにした。

「カインさん、私と桔梗、そしてニエルド様をセントラルへの使者として送ってはみませんか? 私達が飛蝙蝠を使ってセントラルに向かえば、バルデル様を裏切った者達よりも早く王に謁見することが可能です。その時に、王と内密にお話しできる機会をニエルド様に作ってもらいたいですね。」


カインは静かに頷くと、ニエルドに問いかける。

「では、その件はガイ君とキキョウ君に任せるよ。ニエルド殿はユミル王の側近に働きかけをしていただけますか?」


ニエルドは笑みを浮かべながら頷いた。

「お任せください……実は、もう私の手の者に動くように指示しておりましてな……ご期待に沿える結果をもたらして見せましょう。」


カインは満足そうな顔をすると、席から立って私の肩に手を置いて耳打ちをした。

「ユミル王を何としても助けてほしい……できれば王位を継ぐ前に、フレイとあの方を引き合わせてあげたいんだ。」


私は、カインの頼みを聞いて考えを少し変えた。


私はニエルドに問いかける。

「しばらくの間、私と桔梗を王の親衛隊として推挙していただくということは可能ですか?」


ニエルドは少し思案したが、カインへ問いかける。

「しばらく、王にこの二人をお貸ししてもよろしいのですか?」


カインは少し悩んだが、決心した。

「ユミル王の命には代えられませんからね……ですが、後でしっかりと返していただきますからね。」


アケロスもニエルドに頼み込む。

「ガイはともかく……桔梗は絶対にサウスに返すんだぞ!」


ニエルドは苦笑しながら頷いた。


フレイは複雑な顔をしながらニエルドに伝える。

「くれぐれも、王の命を守るためということであって、本籍はサウスとして頂きたい。彼らはカイン公ではなく、アケロスとクラリス……つまり家族のために戦っているのだ。」


ニエルドは嬉しそうな顔をして、フレイを見つめた。

「フレイ……お前はカイン公と婚姻を結んでから本当に変わったな。親として、私はその気持ちに応えられるように全力を尽くすことを約束する。」



王についての話が纏まった為、私はカインにマグニ達をそのままウエスタンに進軍してもらったことを伝えた。


カインは納得した顔をした後、アルベルトに指示をする。

「しばらくの間、兵站を維持するようにして欲しいんだけど、大丈夫かな?」


アルベルトは微笑しながら頷いた。

「お任せください、一年でも二年でも兵站を維持して見せましょう。」


私はカインへ、ホッドとの決戦の場所がサウスとウエスタン、そしてセントラルのちょうど中間地点の平野付近で起こるだろうということを伝えた。


カインは深く思案した後、私達に静かに告げる。

「おそらくはユーフラト平原あたりになりそうだね。王から禅譲をしていただけたとしたら、私もそこへ出陣しようと思う……ガイ君、そしてニエルド様どうかよろしくお願い致します。」



私達は、この先の未来を突き抜ける為の一歩を踏み出すべく、意気揚々と拳を天井に挙げるのだった。

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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