表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/126

ウエスタンへの凱旋

民達が歓声を上げる中、私達はウエスタンの街に入った。


クロードが少し興奮しながら、私の手を取って笑いかけた。

「ガイ殿……バルデル様や皆を救ってくれたこと感謝する。」


私は静かに頭を下げてそれに応える。

「クロード様が私を信頼して、ウエスタンを預けて下さったからです。そういえば、先ほどの反乱による死傷者はどういたしましたか?」


クロードは顔を顰めて裏切った者たちのことを思い出す。

「バルデル様に組したものについては、ウエスタンにて手厚く遇する……だが、あの場で裏切るような者には容赦せぬ。殺しまではせぬが、野たれ死ねばよいのだ。」


私は桔梗を一顧して、クロードへ強い意志を込めて伝えた。

「クロード様、私からのお願いとなりますが……裏切って死んだ者には死化粧を、そして傷を負ったものには、桔梗に傷薬を作らせますゆえ、彼らをセントラルに送っては如何でしょうか。」


クロードは不思議そうな顔をして私に問いかける。

「何故そのようなことをするのだ? 彼らは、自分の主君が苦しい時に裏切るような卑怯者だぞ。」


私はバルデルの方を見ながら、彼の問いに答えた。

「バルデル様とあなたの度量をセントラルに示しておいた方が、後々の為になると思ったのです。それに……きっと、バルデル様もそう望まれているでしょう。出来れば、あの方がそう望んだという形でお願いしたいのです。」


クロードもバルデルのほうを向いて静かに頷くと、私に深く頭を下げた。

「私やバルデルのことをそこまで気にかけてくれるとは……もしガイ殿がもっと早くこちらの世界に来ていて、バルデル様にお仕えしていたらと、どうしても思ってしまう。」


ニエルドが私に笑みを浮かべながら話しかけてくる。

「それだけではございますまい? ホッド様が戻ってきた者たちに狭量な態度をとれば、それだけで敵の士気が大幅に下がるでしょうからな。」


クロードは少し思案した後に、快く私の願いを聞くことにするのだった。


 *


私達が領主館へ向かう途中、武器職人達が駆け寄ってきた。


クロードが訝しげな顔をする中、彼らは私に傅きながら問いかける。

「失礼を承知で申し上げます。我々の武器とアケロス殿が打たれた武器は何が違うのでしょうか?」


私は彼らがバルデル達やジャン達の武器を作った職人達だと察して、逆に問いかけた。

「そなたらは、あの武器をどういう気持ちを込めて鍛造したのだ?」


彼らは真っ直ぐな目をして答えた。

「最高の武器を作ろうという気持ちで作りました。」


私はさらに彼らに問いかける。

「そなたらにとっての最高とは、誰に向けてのものなのだ?」


職人達は自信をもって答えた。

「それは私達が持つ最高の技術をもって作っております故、誰にでも最高の武器になり得ると考えております。」


私は静かに首を振って彼らを問いただす。

「それでは何故あの武器に、虚栄心を満たさせるような性質を持たせたのだ? それに、あの武器は自分を主張しすぎる。あの感じだと、武器が持ち主の理力を使って、自分を発現させようとしているように見えたぞ。」


職人たちは急に黙りこくって、静かになってしまった。


私はまっすぐに彼らを見据えて言い放つ。

「そなたらの技量が高いことは認めよう……だが、私は本当に残念だと思っている。フレイ様から、おぬし等は高い矜持を持っていて、非常に頑固な者たちの子孫だと聞いていた。だが、このあり様はなんだ! 最高の武器を作ったという自負があるのであれば、今の私の言葉に対して怒るのが筋であろう。」


職人達はうつむきながら、私に問いかける。

「ですが……セントラルでは、そのような武器の方が喜ばれるのでは?」


私はバルデルとナインソード達を一顧した後に、職人たちへ怒気を放った。

「刃を交えたから分かるが、彼らは純粋に強さを求めていた。確かに理力を発現させねばという焦りもあったが、武人としての彼らをねじ曲げる要因となったのは、あの武器の影響に他ならない。お前達は、ナインソードが異形の物に姿を変えたのを見た後でも、今の言葉を言えるというのか!」


彼らがまた黙ってしまったので、私は彼らに告げる。

「私やマグニの武器は、それぞれに意志を持ちながらも自分の主人の力を生かそうとしてくれている。だが……お主らの武器は、自分が良ければそれでよいのだ。持ち主が理力に呑まれるのも無理はない。あの武器に良いように使われているのだからな。」


私はうなだれる職人達を背に、最後に一言だけ声をかけた。

「お主らはそれで良いのか? 名工は諸刃の剣を作る際に、使う者の体躯や動きを見てから作るとされていた。そうでなければ、剣が扱う者を切り刻むからだ。お主等が真の名工であるならば、今の言葉で察することがあるのではないのか?」


職人達は目を見開いた後に、バルデル達に駆け寄って地に頭をつけて謝罪する。

「申し訳ありませんでした……我らが間違っておりました。使用する方のことを考えずに、ただ理力の発現と所有欲を満たすような武器をお渡ししたのです。いかようにも処罰してくださいませ。」


バルデルとナインソードは、穏やかな顔をして彼らの謝罪を受け入れた。

「我々も未熟だったのだ……ガイ殿と手合わせをして、よく分かった。そして、お前達が作った武器が強力だったことは間違いない。今度、俺達に武器を作ることがあったら、その時は専用の最高の武器を作ってくれるな?」


職人達は涙を流しながら、バルデル達に平伏するのだった。



私はクロードに耳打ちをする。

「職人達があのように悔い改めているのであれば、私からサウスの商人ギルドに、ウエスタンへ良質なミスリル鉱石を流すように打診をしておきますね。」


クロードは穏やかな笑みを浮かべて、私の言葉に頷いた。

「とてもありがたい言葉です……感謝いたします。」



私達は、再度領主館を目指して道を進む。


残された職人たちは、私たちの姿が見えなくなるまで頭を下げ続けているのだった。


 *


領主館に戻った私達は、今後の方針について話し合うことにした。


私はクロードへ、トール率いる二千の兵があと二週間でウエスタンに到着することを伝えた。


クロードは少し考えてニエルドに問いかける。

「あなたの伝達網を使った場合、我らがカイン公に組すると表明するのを、最短で何日で伝えられますか?」


ニエルドは微笑してクロードに伝える。

「もう、私の手の者が動いております。今回は緊急の為狼煙を使わせていただくので、明日までには伝達が終わっているでしょう。」


クロードは安心したように頷くと、私に問いかけた。

「さて、この後セントラルがどのように動くと、ガイ殿はお考えかな?」


私は少し思案して、彼の問いに答える。



――ユミル王とホッド様の間で決定的な確執が起こるだろう。


バルデル様を裏切った者達が、セントラルに到着するまでに三週間はかかる。

彼らの報告により、ユミル王とホッド様の間で何らかの衝突が発生するだろう。

もし、ホッド様がその政争に勝てば、カイン公の処遇をどうするかの話し合いが行われる。

その後は、ウエスタンに恭順の意思を示したバルデル様の引き渡しを、サウスに持ち掛ける可能性が高いはずだ。


恐らく、その要求を断ったところで開戦となるだろう。


サウスはトール将軍以下二千の兵がウエスタンに向かっている為、手薄になっている。だが、セントラルがサウスへ向かって進軍することで、北の隣国(セレーネ)が、ノースに攻め込む隙を与えるというリスクもあるので、迂闊には動けないという状況に陥るだろう。



私の推論を聞いたニエルドは、満足そうな顔で頷いて同意した。


クロードは憂いを帯びた顔で私に問いかける。

「ウエスタンに兵が集まるのは助かるが、サウスが手薄になって大丈夫なのかな?」


私は微笑して静かに頷く。

「もしもの時は、ヘカテイアに援軍を求めようと思います。こちらはまだ反乱鎮圧の借りを返してもらってないですし、あちらはサウスとの関税を見直させる良い機会だと考えてくれるでしょう。だから、快く我らに協力していただけると思いますよ。」


クロードは、私の言葉を聞いて安心したようだ。

「確かに、ヘカテイアにあれだけ貢献した貴方が言われるなら、そうかもしれないですね。」



私はニエルドに笑みを浮かべて問いかける。

「そういえば、ユミル王が政争に負けた場合に監禁されそうな場所はわかりますか?」


ニエルドは嬉しそうな顔をして答える。

「王を助けていただけるのですね……それはありがたいことですな。」



私たちのやり取りをバルデルは呆れながら見て、傍らにいるデボラに呟いた。

「やはりガイ殿は並みの男ではないな……父上をセントラルから助け出す前提で話をしておる。」


デボラはバルデルに微笑んだ。

「そのような方だからこそ、バルデル様と親衛隊を救ってくだされたのでしょう。」


バルデルは明るく笑って、デボラの肩に手を置いた。

「確かにそうだ。俺は……ガイ殿に会えて良かったと思っているよ。」



クロードは、バルデルとデボラが幸せそうな顔をして寄り添っている姿を見て、これからの戦いについても希望が持てそうだと感じるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作を書いてみることにしました。

魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ