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バルデルとの立ち合い

私は戟を構えながらバルデルと対峙する。

彼の表情はとても穏やかだが、目は強い意志を持っていた。


私は笑みを浮かべて彼に話しかける。

「迷いのない良い目をされておりますな……存分に武を競いましょうぞ。」


バルデルは静かに笑った。

「ガイ殿のおかげで大分肩が軽くなったようだ。だが、ここからは武人同士の戦いだ……手加減はせぬぞ。」



バルデルの大剣が妖しくも美しい深紅に光った。

彼は一気に間合いを詰めると、私に強力な突きを放ってくる。

私は素早く右へ体を捻ってそれを躱すが、彼は大剣の重さを感じさせないような速さで、強引に左へ回転切りを仕掛けた。

とっさに私は身をよじりながら戟の柄で攻撃を受け流すが、回転は止まらない。

彼の頭上を一周した剣が斜め上から叩き付けられる。

私は素早く後ろに飛び下がって、その攻撃を回避した。



バルデルが嬉しそうに笑っている。

「並みの敵であればこれで勝負は終わっているのだが、やはり簡単にはいかぬものだな。」


私は彼の気配が変わったことに気付いた。



――どうやらバルデルはこの戦いを楽しみ始めたようだ。


彼は笑みを浮かべながら大剣を低く構え、一気に私に駆け出してくる。

私は戟を強く握って突きを放つと、バルデルは素早く右に体を捻って攻撃を躱すと共に大きく前方に飛んた。

彼は回転の勢いを殺さずに、体全体を使った強烈な横回転切りを仕掛けようとした。

私は身を低くしながら右前方に素早く駆け、石突を側面に打ち当てた。

回転の軸をそらされた大剣は私の頭をかすめて行く。

私はさらに蹴りを放って彼を吹き飛ばした。


バルデルは吹き飛ばされながらも、剣を支えにして踏みとどまった。



私は彼の一撃を称賛する。

「今のはさすがに肝が冷えましたな……見事な一撃でしたぞ。」


バルデルが私の目を見ながら不満げな顔をした。

「ヘンリーの時に使った武器を使っていないところを見ると、まだ余裕があると見える。そろそろ本気を出してもよいのではないか?」


私は武器に理力を込めて刀に変化させた。

「それは失礼しました。貴方の一撃は重いので、戟の方が戦いやすいのではないかと思っていたのです。」


バルデルは静かに笑いながら大剣を右下に構えると、苦笑しながら告げる。

「世辞はいらぬぞ、ガイ殿……ハルバードに似た武器と戦うのも悪くはないが、やはりヘンリーが倒されるほどの武器捌きを見ると、こちらのほうが得意なのはすぐにわかる。」



そして、彼は理力を込めて大剣をさらに赤く光らせる。


周りの空気がそれに応じるように震えていて、肌に振動が伝わってきた。


私は、刀を正眼に構えて剣気を放って、彼の理力に対抗する。


お互いに気合が十分となった中、バルデルが私に右下から回し切りを仕掛けてきた。

私は素早く後ろに下がって攻撃を躱すが、彼は回転の勢いを殺さずに頭上で剣を回した後、さらに右上から切りかってくる。

刀を下からすり合わせるようにして私はその攻撃を凌ぐが、彼は大剣を腰だめに構えなおして付きを放った。

私は体を捻って突きを交わすと同時に、理力を込めて彼の剣を一刀両断しようとしたが、彼の大剣は持ち主の意思を体現するように私の一撃に耐えきった。



バルデルは私から離れて、再度大剣に理力を込めた。

大剣があまりの理力の大きさに悲鳴を上げそうになっている。


私は彼の理力の大きさが何に裏付けされているのを察した。

「自分の覇業の為に、倒れていったものの分を背負っているのですな。」


彼は静かに頷いて、私に言い放つ。

「俺が今まで歩んできた者達の想いを込めて、最後の一撃を放つ……それを受けきれれば、お前の勝ちだ。」


私は静かに頷いて、今は遠い世界にいる戦友達の姿を思い浮かべた。


お互いの武器に理力で輝く中、私達は最後の一撃を打ち合うべく間合いを詰める。


バルデルは大剣を振りかぶって捨て身の一撃を仕掛けてきた。

彼の剣は深紅の光に輝きながら私に襲い掛かる。


私は渾身の力を込めた居合抜きを彼の大剣に放つ。

青白い光を帯びたその一撃は彼の大剣と激しく衝突して、私達二人を光が包んだ。


私達は光の中で、それぞれが背負ってきたもの……そしてどう生きてきたのかをお互いに感じた。



バルデルが満足そうに笑った後、静かに告げる。


――技量でも度量でも……お前には敵わぬよ。


バルデルの剣は役目を終えたように光を失い、砂の様に消えていった。



私は、彼の手を取ると静かに頭を下げた。

「よい勝負でした……最後まで貴方は、真っ直ぐに周囲の期待に応えようとされていたことが分かりました。」


バルデルは憑き物が取れた顔で私の手を握り返す。

「光の中でお前の生き様を見せてもらった。お前も死んでいった者の遺志を継いで、天下を統一したのだろう。そしてそれが故に身を滅ぼし、そして今ではそれを乗り越えている……俺にもできるだろうか?」


私は深く頷いて桔梗のほうを見た。

「私には彼女がいてくれました……あなたにもそのような方が居るのでしょう。」


バルデルはデボラのほうを見て静かに頷いた。

「そうだな、デボラは俺の為に身を呈して、ウエスタンまでの道を切り開いてくれた……今度は俺が彼女を支えてやらなければな。」


そして、私の手を上に揚げて叫んだ。

「ユミルの息子バルデル、全力を尽くしたがここに敗れたり! これより我らは約定に従い、ウエスタン領主クロード公の配下に加わる。」


ナインソードの面々やバルデルを裏切らなかった五百ほどの兵は、私に深く一礼をした後にクロードに傅いた。


クロードが私と彼らに宣言をする。

「ウエスタンはカイン公の傘下に入ることを表明する! バルデル殿、私とカイン公に忠節を誓えるか。」


バルデルは静かに答えた。

「もちろんでございます。我らはウエスタンとサウスのために生涯の忠誠を誓いましょう。」


ウエスタンの民達から歓声が上がる中、浄化されたミスリルの大剣を作った職人達は複雑そうな顔をして、私を見ているのであった。


 *


バルデル達がウエスタンに入ろうとした時、デボラが涙を流しながら彼に抱き着いた。


彼女の頭を撫でながら、バルデルはすまなそうな顔で語り掛ける。

「俺は王子でもなんでもなく、一介の武人となってしまったな。」


デボラはかぶりを振って、嬉しそうに彼に伝える。

「これで良かったのです……貴方は今まで十分すぎるほど、自分の責務を果たすように努力し続けました。これからは自分のために生きてください。」


バルデルは彼女の頬を優しく撫でた。

「そうだな……今度は生まれてくる子供のためにも、良い父親となれるように頑張ってみるとするよ。」


デボラは笑顔で頷くと、彼の胸に顔をうずめて嬉し涙を流し続けるのだった。



ニエルドが私に駆け寄り、笑みを浮かべる。

「噂以上の実力でございますな。最後の打ち合いの凄まじさには驚かされるばかりでした。」


私は会釈でその称賛に答えた後、バルデルに反旗を翻した者達の出方が気になって、彼に話しかけた。

「あの逃げ出した者達は、恐らくはセントラルに戻るでしょうね。」


「そうですな……ウエスタンからの支援が無くなった以上、兵糧が持たないでしょうからね。そうなれば少々厄介ですね。」


「そうですね、恐らくはフレイ殿の出自とカイン公の王位継承のことを手土産として帰還することで、保身を図るでしょう。」



ニエルドは静かに頷いて、私に言った。

「すでにセントラルとサウス方面には密偵を放っておきました。何か街道で異常があれば、フレイと私に知らせが行くようにしてあります。」


私は行動の素早さに驚いた。

「さすが尋問官を統べるものですね……絶対に敵に回したくないものです。」


ニエルドは笑みを浮かべて私の肩を叩いた。

「それはお互い様ですぞ……貴方にお会いしてからというもの、私の中の常識がどんどん塗り替えられてしまって、腰が抜けそうです。」


ここで、いつの間にか私の背後にいた桔梗が抱き着いてきた。

「さすがに今回は心配しました……ご無事で何よりです。」


私は桔梗の頭を撫でながら、優しく告げる。

「私がこうしてこの世界で真っ直ぐ生きていけるのは、お前がいたおかげさ……いつもすまないな。」


ニエルドが、そんな私達を見て悪戯っぽく笑って言った。

「お熱いですな……若いというものは良いものですね。」


桔梗が顔を真っ赤にしているが、私は彼女の頭を撫で続ける。


バルデルはそんな私達を見て、クロードに呟いた。

「あの光の中で、俺はガイ殿の生き様を知った……彼も俺と同じで色々なものを背負って歩み続けて、一度は全てを失ったが、この世界で懸命に生きている。あいつに出来たんだから、俺だってやれるはずさ。」


クロードは嬉しそうな顔をしてバルデルの肩を叩いた。

「私と一緒にウエスタンを良くして行こうじゃないか……デボラもきっと喜ぶさ。」



バルデルは笑顔で頷くと、傍らから離れないデボラの手を取って、ウエスタンの門を堂々とくぐるのだった。

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