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ナインソード

バルデルは若い貴族達を必死で止めたが、彼らの意志は固かった。


彼らはバルデルに懇願する。

「我らナインソードはライルのようにはなりませぬ。どうか本気で理力を解放させてください。全力で戦いもせずにクロード公の配下になるのは、汚辱でしかないのです。」


バルデルは苦悩したが、彼らの目を見て諦めたように言い捨てた。

「好きにするがよい……だが、暴走した時は命がないと思え。」


若い貴族達は嬉しそうな顔をしてバルデルに傅き、戦いの場に赴くであった。


 *


バルデルの陣から九人の貴族達が進み出た。


彼らは軽装の防具を身に着け、マグニのロングソードより一回りか二回り大きい大剣を手にしている。

その中から一人の貴族が大股で私の前に進み出た。


彼は大剣を構えて名乗りを挙げる。

「俺はバルデル様の親衛隊、”ナインソードのヘーニル”だ。超越者のガイよ、我が剣によりお前をたたき伏せて見せようぞ。」


私は戟を構えてそれに応えた。

「カイン公の将軍、ガイだ。そなたの腕がどれほどのものか見定めさせてもらおう。」



お互いの名乗りを終えた後、ヘーニルが私に攻撃を仕掛けてきた。

彼は反撃を恐れずに、前に出ながら大剣を左足下から横凪ぎに振り上げる。


――強力な一撃だが、やはり重量がある分速度が遅い。


私は余裕をもって後ろに飛び下がると、がら空きの胴に石突を当てようとする。


だが、その瞬間にヘーニルの大剣が鈍い赤色に光り、人とは思えない速度で切り返しをしかけてきた。

私は即座に戟を回転させて、戟の月牙で彼の斬撃を受け流す。


ヘーニルは渾身の攻撃を躱されて驚いている。

武器を合わせた瞬間に、私はどの様にして彼が理力を発現させているのかを理解した。


私は笑みを浮かべながらヘーニルに告げる。

「私は猛獣とは違って、武人なのでな……多少の奇術程度では揺るがぬぞ。」


彼がもう一度私に斬撃を仕掛けようとした為、私は戟に理力を込める。

青白く輝いた戟を斬撃に合わせて上から叩き付けると、ヘーニルの大剣は浄化されるように白く光った後に砂のように崩れ去った。


ヘーニルが、とても信じられないといった表情で私を見た後に、傅いて負けを認めた。

「完膚なきまでに打ち破られた……このような形で愛剣を失うとは思ってみなかったものだが、なんだか解放されたような気持ちだ。俺の仲間たちともぜひ立ち会って欲しい。」


 *


立ち合いを見て、バルデルは驚嘆した。


ヘーニルの理力を込めた切り返しはとても見事だった。

だが、ガイはそれを容易に受け流しただけでなく、理力を込めた一撃で彼の大剣を浄化してしまったのだ。


そして、彼に負けた後のヘーニルはとても清々しい顔をしていた。

あの呪われた武器から解放されたような、そんな表情をしていたのだ。


ふと、壮年の貴族たちのほうを見ると、あまりの驚きに打ち震えているようだった。



その後、ガイはさらに五人のナインソードをことごとく打ち破り、彼らのミスリルの武器を浄化していった。


壮年の貴族達が、思いつめたような顔をして叫んだ。

「この役立たずどもめ、なにがナインソードだ……もはや、こんな茶番に付き合ってはいられぬ! バルデル様の首を手土産にすれば、命が助かるかもしれぬ!」


彼らは兵士に命じると、バルデルめがけて突撃した。


 *


壮年の貴族達が、兵を率いてバルデルに向かって突撃を開始する。

おおよそ千ほどの兵がバルデルに反旗を翻したようだ。



私は、武器を浄化された六人のナインソードに叫んだ。


「私はバルデル様に加勢するぞ!」


彼らは剣を交えたことで、私のことを信じる気になったらしく、私に一礼をするとすぐに、近くの兵からロングソードを奪った。


私がバルデルの方に駆け寄ろうとする。


まだ立ち合いをしていなかった三人のナインソードが、私達に先んじて反乱兵に突撃した。


その時、ナインソードの剣が赤黒く光って、彼らを包み込んでしまった。


彼らの顔から角が出て、筋肉が異常に盛り上がっていく。

二メートルを超える巨人になった彼らの姿を見て、兵士達は絶望した表情を浮かべた。

「ライルの再来だ……あの異形の化物が襲い掛かってくる……」


壮年の貴族達は、笑みを浮かべた。

「皆の者、全員一時撤退せよ! 理性を無くしたあの化け物をバルデルにぶつけて、共倒れさせればよい。」



彼らは死にもの狂いで巨人から逃げ出した。


バルデルは悲痛な顔で叫んでいる。

「ヘンリー、俺のことがわからないのか! 頼むから正気に戻ってくれ!」


私はバルデル達の前に出ると、周囲に響き渡る声で叫んだ。

「こやつらは私が鎮めてみせる。だから皆、ウエスタン門前まで下がるのだ!」


先ほどまでの戦いを見ていた彼らは、素直にウエスタンに撤退して行く。


バルデルは、必死に私へ懇願した。

「勝手なことだと解っているが……頼む、あいつらを殺さないでくれ。」


私は静かに頷くと、三人の巨人に対峙するのだった。


 *


三人の巨人は、狂ったような笑みを浮かべながら私に向かってきた。


彼らは重厚な大剣をまるでロングソードのように振り回してきた。



――さすがにこれを受け流すのは少し辛いかもしれないな。


私は戟を刀に変えて居合の構えをした。

一番手前にいる巨人の一撃に私は強烈な居合を放つ。

彼の大剣は見事に切り裂かれ、彼は意識を失って人の姿に戻っていく。


いつの間にか私に追いついていたニエルドが、素早く彼に近づくと肩に担いで素早く離脱した。


次の巨人が、私に大剣を振り下ろす。

私は後ろに飛び下がって躱したが、さらにもう一人の巨人が私の胴めがけて凪払いを仕掛けてきた。

あえて私はその攻撃に対して前に飛び込む。

そして、巨人の胸を蹴り上げながら宙返りをして、その攻撃を回避する。

業を煮やした巨人が凪払いからの袈裟斬りを仕掛けたところへ、私も理力を込めた一撃を合わせた。


大剣が真っ二つに切り裂かれて、彼もまた意識を失って人に戻っていった。


今度は桔梗が鞭を使って彼を引き取り、ウエスタンの街のほうへ消えていく。



残った巨人は笑みを浮かべているようだ。


私も笑みを浮かべて話しかけた。

「どうやら、貴殿は意識を残しているようだな?」


巨人が名乗りを上げる。

「我はナインソード筆頭のヘンリー……バルデル様とガイ殿のおかげで何とか意識を戻したようだ。こんな姿で済まないが、立ち合いを願えるかな?」


私が静かに頷くと、ヘンリーは大剣を悠然と構えた。

彼の大剣から赤黒さが消え、鮮やかな赤色に変わる。


私は静かに笑いながら、彼に言い放った。

「よい気迫だ、かかってこられよ。」


ヘンリーは大剣を右肩につけて、私との間合いを詰めていく。

彼は自分の間合いに入った瞬間に、剣を頭頂部あたりに上げて、回転させるような切り上げを仕掛けてきた。

私が二歩下がってその攻撃を回避すると、彼はさらに剣を回して私の右肩への踏み込み斬りを放つ。

その攻撃に対して、私は下から強烈な斬撃を打ち当てる。


大剣が大きく弾かれたヘンリーは驚きに目を見開く……私はその隙を見逃さず、渾身の理力を込めた縦切りを彼の大剣に叩き込んだ。


強力な理力を受けた彼の大剣は、名残惜しそうに赤い光を放った後に砂のように崩れ去った。


ヘンリーの体が元に戻り、力なく崩れ落ちる。

「自分の力を出し切って負けました……いかようにも処断くださいませ。」


私はバルデルを一顧した後に、彼に優しく話しかけた。

「バルデル様から、何としても貴殿らを救ってほしいといわれているのです……あの方に感謝することですな。」


ヘンリーは涙を流しながら、彼を心配するバルデルに感謝するのだった


 *


私はバルデルの前に進み出て、静かに告げる。

「ご期待通りに貴方の精鋭を打ち破りました。」


バルデルの目から傲慢さが消え、私に素直に感謝する。

「部下たちを救ってくれたこと、真に感謝する。俺はウエスタンに……」


彼がそこまで言いかけた時に、私は笑みを浮かべた。

「約束は約束です……最強の相手をまだ倒しておりませぬ故、最後の立ち合いをいたしましょう。」


クロードが思わず叫ぶ。

「ガイ殿! 勝負はもうついておられるではないですか。なぜそうまでして戦いを望むのですか?」


バルデルが穏やかな顔をしてクロードに告げる。

「ガイ殿は私を一人の武人として扱ってくれているのだ。私の誇りを尊重してくれた以上、それを拒むのは非礼に当たる。」


私とバルデルは、互いに深く礼をして武器を構えた。


お互いの武器が理力により輝きを増す。


眩い青の理力と、鮮血のような深紅の理力……いずれにせよ、この立ち合いの終局を示すように私達の武器は輝いていた。

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平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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