駆け落ち将軍と忍者
ようやく凱に勘違いの内容が明かされます。
文章校正しました。(2020/5/17)
名士と謁見後、アルが私達を連れて宿屋へと案内してくれた。
宿屋の女将は恰幅が良く人の好さそうな感じだ。
そして優しそうな笑顔を浮かべながらアルから話を聞いている。
最初は頷いていたが、アルから何かを聞いた後『まぁ!なんてことでしょう!!』という顔をして、私へ駆け寄り両手で私の肩をバンバン叩く。
『~~!?』
と叫んで激励?した後、桔梗のほうへ向き直り、満面の笑みで親指を突き出した。
なんと言うか、『私、あなたの味方ですからね☆彡』みたいな…。
桔梗はチラッと私のほうを向いた後、耳まで真っ赤にしながら私から目を逸らして…しゃがみ込んでしまった。
この世界に来るまで桔梗は、からかった時は少し赤くなることはあってもこんなに真っ赤になるほど動揺することはなかった。
さすがに私も心配になり、桔梗の背中をさすりながら尋ねる。
「大丈夫か桔梗…どこかおかしいのか?」
桔梗は弾かれた様にその場を離れて叫んだ。
「―っ! だっ…大丈夫です!? きっ…き…気にしないで下さい!」
それを見た女将さんとアルがニヤニヤと私たちの方を眺めていた。
ひとまず桔梗はそっとしておくことにして、私は宿のカウンタを眺めると、奥に絵本があるのに気づいた。
女将さんに絵本を指さしてあれを貸してほしいとジェスチャーしたところ、満面の笑みで桔梗を見ながら親指を立てた。
そして全部の絵本を貸して貰えることとなった。
一方の桔梗は顔を赤くしたり青くしたりしながら、『ダメ押しでとんでもないことをしてくれた……』という顔となり、最後には諦めたようにうなだれてしまった。
*
アルが私と桔梗に手を振って屋敷に帰って行った後、女将さんが部屋に案内してくれた。
扉を閉め、二人っきりになる。
落ち着かない雰囲気を変える為、とりあえず桔梗に部屋にあった水差しの水を飲ませて落ち着かせることにした。
「どうした桔梗…いつものお前らしくないぞ? アルや女将さんは一体私たちのことを何だと思っているのだ。」
桔梗は私に土下座をしながら事の顛末を話してくれた。
「申し訳ありません凱さま!!」
*
桔梗からの説明を受け、思わず私は口に含んでいた水を吹き出した。
「ぶっ…私と桔梗が真実の愛のために国を捨てて駆け落ちしただって!?」
桔梗が申し訳なさそうな顔をする。
「最初、アルが私と凱さまの関係を婚約者と勘違いしていたので、身分が違いすぎるのであり得ませんと返したつもりでした。それが何を勘違いしたのか、駆け落ちということになっておりまして…」
―なるほど、だから絵本を借りたいといったときにあの対応か…
こちらの言葉を知るには絵本を使うのが手っ取り早いと思っていたのが、思いっきり裏目に出てしまったようだ。
―桔梗との子供…か…
想像した瞬間、私の鼻から一筋の血が流れた。
「…何を想像していらっしゃるのでしょうか……?」
訝しげにこちらを見る桔梗に、私は多少慌てながらも提案した。
「た…確かに、前の世界の状況から考えると、駆け落ちというのもあながち間違いでは…」
桔梗が血の気の引いた顔で私の言葉を打ち消し、ドアの向こうに向かって突進する。
「いけませぬ!恐れ多すぎて…かくなる上は何としても誤解を!!」
私は必死で桔梗を押さえながら、桔梗になるべく優しく微笑みかける。
「どのみち身分など今の我らには関係なくなったのだ。それで周囲が納得できるのであれば良いのではないか?」
一瞬…呆けた顔をした桔梗が慌てて表情を読み取られないよう私に背を向けて、
「―っ! わわ…わかりました…で…ですが、あ…あくまで私たちの中では、かり…仮の駆け落ちという形ですからね!!」
と”仮”を強調しながらしぶしぶといった形で了承してくれた。