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サウスの躍進と王の苦悩

2020/6/10 誤字修正しました。

教えてくださって、ありがとうございました。

ヘカテイアの反乱鎮圧から一ヵ月ほど経った。



王都(セントラル)では旅の商人達がサウスの発展ぶりを喧伝している。

彼らは、サウスの統治がいかに素晴らしいかを、仲間の商人達に伝え始めた。


名領主カイン公とそれを支える才媛フレイは当然のことながら、領主の息子達の評判も非常に高い。


海の守り手の英雄と称されるマグニはサウスの民全般から愛され、神算の商人王と称されるアルベルトは商人や職人から尊敬されていそうだ。



さらに、イースタンの至宝のアケロスまでいるのだ。


彼がサウスに移住したことで、サウスのミスリル産業が飛躍的に発展したことは間違いない。

今やサウスの至宝となったアケロスだけでなく、その娘のセリス嬢もミスリルの鉱石を選別する才に恵まれ、商人ギルド発展に大きくかかわっているらしい。



そして、何より最近の話題となっているのが、白銀のマントを羽織ったアケロスの養子だ。


風の噂に過ぎないが、この養子が短期間でサウス沖の海賊が全て調伏させ、海賊達が彼のことを新たな頭として慕っているというのだ。



セントラルの商人達は、そんな噂を話半分で聞きながらも、確実にサウスが躍進していることに、興味を持つのだった。


 *


アルテミスの王、ユミルは側近から、サウスに関する噂を聞いて頬を緩めた。

「カイン公にサウスを任せて正解だったな。よく治めているようで何よりだ……」


ちょうどその時、フレイからの使者が王宮に到達した。

ユミルはサウスの近況を直に確認するべく、王子と側近、そして貴族達を王宮へ招集するのだった。


 *


宮殿の大広間で(ユミル)は悠然と玉座に腰かけながら、フレイが送った使者から書簡を受け取って目を通す。

書簡には、サウスの現状などについての報告が書かれているようだ。


玉座の前には、第一王子のバルデルと第二王子のホッドが鎮座しており、側近や貴族達の反応を伺っている。


ユミルはフレイからの書簡を見て、感心した顔で使者に問いかけた。

「噂で聞いてはいたが、商人ギルドの売上がこれほどまでに伸びたのか。いったいどんな手段を使ったのだ?」


サウスからの使者は傅いたまま、報告する。

「アルベルト様の方策により、商人ギルドから職人への徴収額を増やしました。そのかわり、ミスリルの買い付けから精錬までを取り扱うことで、職人達の不満も解消しております。さらに、良い調度品を作る職人のギルド加入による優遇を施したことによって、他の商人達もギルドに魅力を強く感じるようになり、加入者が飛躍的に増加しました。」



さらに、ユミルが書簡を読み進めて笑みを浮かべる。

「ほう……サウス市民は、存外にカインやマグニのことを気に入ったそうだな。」


使者は嬉しそうに答える。

「そうでございます。特にマグニ様は、サウスの民から”海の守り手の英雄”と称されており、サウス地方では知らぬものがいない位の人気者となりました。」


ユミルがトールのほうを見て微笑した。

「トール、実はな……カイン公にお前の息子を養女の婿にしたいと言われた時に心配したのだ。果たして彼は、領主の跡取り候補としての重責に耐えられるかと。だが、良い結果となったようで安心したぞ。」


トールは目尻を下げて、サウスにいるマグニのことを思いながら答える。

「ありがたきお言葉にございます。恐らく、カイン公の教育が宜しいのでしょう。不肖の息子をよく導いてくださっているようで、感謝するばかりです。」



王は、二人の息子へ優しく声をかける。

「お前達もマグニに負けぬように、しっかりと為政者として大事なことを学んでいかなければな。」


第二王子(ホッド)は、不機嫌な顔をしながら小さな声で呟いた。

「俺は知っているぞ……何が英雄だ。下賤な酒場の娘と結婚した不埒者が……」


第一王子(バルデル)は、そんなホッドの呟きを耳聡く聞きつけて、彼を大声で非難する。

「ホッド、何か言いたいことがあればそのような小声では聞こえぬぞ? 王の息子であるならば、もっと堂々とものを語らねばならぬぞ。」


ホッドは忌々し気にバルデルを一瞥し、黙りこくった。



ユミルはそんな二人を嘆かわしげに見た後、フレイの書簡をさらに読み進める。


そしてある部分で目が留まり、真偽を確かめるために使者へ尋ねる。

「このガイというのはいったい何者なのか? セントラルでは、彼がサウス近海を襲っていた海賊の全てを調伏して、彼らの頭になったという噂が流れているのだ。だが、フレイからの報告ではアケロスの養子としか書かれておらぬ。」


側近や貴族達が騒めく。

「サウス近海の海賊の頭になっただと?」

「頑として我らへの臣従を拒んだ海賊どもが……一体、どんな手段を用いたのだ?」

「そもそも、その噂自体が本当なのだろうか……」


バルデルが呆れた顔をして周囲の貴族達へ語り掛ける。

「皆の者、よく考えるのだ。カイン公がサウス領主に就任してから、まだ二か月もたっておらぬぞ。私が考えるに、民は事実を捻じ曲げて大げさに噂をするものだ。実際は、カイン公が大金をばらまいてサウス近郊の海賊どもを雇い、それを海軍などという大層な拍付けをした。まあ、その程度が関の山だろうさ。」


バルデルの筋違いな妄想に、使者は心の中で舌打ちをする。


使者はバルデルに一顧もせず、ユミルの問いに真面目な顔で答えた。

「海賊の調伏の件ですが、ガイ様は優れた力量と叡智により海賊達の信頼を勝ち取りました。サウス一帯を束ねる海賊の親玉達が彼の器量に心酔して、自分から配下にして欲しいと願い出たのです。そして海賊達は、ガイ様を筆頭とするサウス海軍として編入された後も、アルテミス近海の護衛や輸送業務をすることを厭わず、むしろ積極的に()()()()()()()()()()と尽力しているのです。」


バルデルは、自分の予想もしなかった途方もない手腕と功績に、目を見開いて驚く。


ホッドが笑みを浮かべながら、先ほどの仕返しとばかりにバルデルへ嫌味をった。

「変な勘繰りを入れて、相手を貶める行為は、自分の品位を下げるだけになりますぞ。」


バルデルの顔が羞恥と怒りに染まりかけたところで、ユミルが二人を窘める。

「二人とも止めぬか! そなたらがいがみ合ってどうするのだ。」



ユミルは気を取り直して、静かにトールに確認した。

「以前、マグニに立ち合いで勝利したのも、このガイと申すものだったな?」


トールは、真面目な顔でユミルへ返答する。

「私の息子が全く歯が立ちませんでした……あれは人の強さとは思えませぬ。」


ユミルが興味深げに使者に問いかける。

「そのガイとマグニは、今現在どのような関係になっているのだ?」


使者が笑みを浮かべて答える。

「マグニ様の良き親友として、あの方を陰に日向に支え続けております。」


ユミルは笑みを浮かべて満足げに頷いた後、書簡の先を読み……驚きのあまり、書簡を手から落としてしまった。


バルデルが書簡を拾い上げてユミルに渡したが、彼はまだ放心した状態となっている。

「父上、どうなされたのです……書簡には何と書かれていたのですか。」


しばらくした後、ユミルが静かな声で周囲にその内容を伝え始める。

「カマル王とアイシャ王妃がサウスへ訪問中に、ヘカテイアで大規模な反乱が起こったそうだ。」


側近や貴族達が騒ぎ出す。

「馬鹿な……サウスは一体どうなってしまうのだ。」

「サウスの交易が全滅してしまうのではないか?」

「カイン公は、一体どうするおつもりなのか!」


バルデルとホッドはあまりの一大事に驚きつつ、カイン公の力を削ぐのは今だと思った。


バルデルは、ヘカテイアの反乱がカインが無計画な海賊の調略をした為に、生じたのではないかと主張する。

これに対してホッドは、商業ギルドがヘカテイアに大きな負担を強いた為に、政情が不安定になったのではないかと主張した。


ユミルは、首を振って二人の主張を否定する。

「お前達はカイン公が失脚をするのを望んでいるようだが、残念ながらそういうことではない。」


王子達や貴族達が困惑する中、ユミルは話を続ける。

「ヘカテイアの反乱における首謀者が、サウスに陰謀を仕掛けた。そして、カイン公がそれを見事に看破したのが反乱の原因だ。そして書簡の続きには、カイン公がその危難を無事乗り越えたと書いてある。」


周囲の者達の目が驚きで見開かれる中、ヘカテイアの特使が到着したとの連絡が来た。


ユミルはその先を説明するにはちょうど良いと思い、特使を大広間に迎えるように指示を出すのだった。


 *


ヘカテイアの特使、アルドがカマルからの親書をユミルに手渡して傅いた。


ユミルがそれに目を通た後、アルドに問いかけた。

「カマル王が書かれたこの書簡は事実なのか? ガイとキキョウとやらは、ここまで貴国に()()()()()()()()というのか……だが、にわかには信じられぬ話だな。」


アルドは微笑しながらユミルの問いに答える。

「ユミル王もそう思われたでしょう……私も、実際にその場にいなければ、間違いなく信じることは出来なかったと思います。」


ユミルは穏やかな笑みを浮かべ、二人の王子を一瞥した後に語った。

「古今より、王は天意の下に生まれるとされる。カマル王やアイシャ王妃、そしてそなたが奇跡のような智謀を持つ持つ者と出会えたことは、天の采配だったのかもしれぬな。」


アルドはユミルに深く一礼をして、ヘカテイアの意思を伝える。

「カマル王は、今回のへカテイア反乱の鎮圧に対するカイン公とフレイ様の助力、そしてガイ様とキキョウ様、そしてマグ二様とアルベルト様の貢献を生涯忘れぬと申しております。その気持ちは私共だけでなく、ヘカテイアに住む者すべての者の総意であります。」


ユミルは鷹揚に頷き、アルドにねぎらいの言葉をかける。

「ヘカテイアとの友好を考えれば、当然の行いだ……以後の対応はカイン公と外務官のフレイに任せるが、今後の貴国の発展を切に願っている。」


バルデルが尊大な態度でアルドに問いかけた。

「サウスではなく、アルテミスに対して恩義を感じるべきではないのか? 彼らがどれほどの働きをしたというのだ。」


アルドが書簡の内容を話してもよいのかを確かめるために、ユミルの顔色を窺う。

ユミルが静かに首を振ったため、アルドは静かに答えた。

「私共は、今回の件でアルテミスが盟友として支援してくださったこと、重々感謝しております。そして、ユミル王が命じられたとおりに、以後の対応につきましてはカイン公とフレイ様と協議させていただこうと思います。」


バルデルがなおも食い下がろうとしたので、ユミルは彼を一喝した。

「くどいぞ、バルデル! ヘカテイアの特使に対して、あまりにも無礼な振る舞いであろう。」


そして、威厳のある声でアルドに告げる。

「そなたらの気持ちはよく伝わった。カマル王に伝えるが良い……面白い話を聞かせてくれたことに感謝すると。」


アルドは少し思案したが、そのまま深く一礼をして大広間から下がっていった。


ユミルは錫杖を持って立ち上がり、皆の前で宣言する。

「カイン公はサウスの統治だけでなく、今回のヘカテイア反乱の件でも素晴らしい活躍をした。彼の功績に報いるためにも、彼と彼の家臣達を王都へ招聘し、何らかの褒賞を与える必要があると考える。」


大広間にいた二人の王子以外の全ての者達が、当然のことだろうと考えて深く頭を下げて同意した。


そのとき、錫杖が今までにないほどのまばゆい光を放った。


皆がその光の眩しさにひれ伏す中、ユミルだけが知っていた。



―錫杖がサウスの方面に向かって一直線に光を放ったことを……



 *


大広間から皆が下がった後、ユミルは物憂げな顔で一人呟いた。

「サウスに巣くう海賊全てを手中に収め、五千ものヘカテイアの兵のほとんどを寝返らせただと? そんなことが出来るのは伝承の超越者ぐらいなものだ……」


だが、サウスからの使者、トール、そしてアルドのガイを語るときの表情を見て希望を持つことにした。

「彼らがガイのことについて語る時、確かな信頼と尊敬を強く感じた……恐らくは、一廉の人物に違いないだろう。そして、カインも彼のことを信頼しているに違いない。」


そして二人の息子のことを思い出して嘆いた。

「あの二人に、カインの十分の一でも良いから国や民のことを思う心があれば良いものを……これでフレイが私の娘だと知れたら、どんなことになってしまうのだろうか?」



最近のカインの躍進を考えると、どうしても考えてしまう。



―いっそのことフレイの出自を公表してしまいたい。



これまでの功績や能力からから考えれば、カインに王位を継がせたくなってしまうのだ。


だが、それはとても危険な賭けだ。

貴族達はバルデル派とホッド派に二分されていて、自分達が王の側近となる日を心待ちにしているのだ。

カインに王位を譲るつもりがあることに気付けば、全力でカインを潰しににかかるだろう。

最悪の場合、王子達が結託してカインを潰そうとするかもしれない。


サウスは今勢いがある上に、へカテイアはカイン達に深い恩を感じている。

そんな状態で戦端が開かれれば、多くの民が血が流すことになりかねないのだ。



ユミルは苦悩したが、まずはカイン達に会ってからこの国を未来を考えることにした。


玉座の近くに置かれた錫杖が、王が触れてもいないのに輝き続きはじめる……



王の意思とは関係なく光る()()は、王の手から国が離れ始めていることを示しているようだった。

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平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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