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海賊達の調伏

マグニ達が乗る帆船がこちらに到着した。


帆船から渡り板が下されて、マグニが私に駆け寄る。

「ガイ、やっぱりお前はとんでもない奴だな。本当に船が沈んだ時は驚いたぜ。」


私は笑顔でマグニの肩を叩く。

「マグニが敵を一身に引き付けてくれたおかげだ、君がいなければこの作戦は上手くいかなかった。」


マグ荷が照れくさそうな顔をしながら、海賊たちのほうを不思議そうに見る。

「それで…船が大きく揺れたり、戦いが終わった後に敵と仲良く笑いあうといった感じになっているようだが、結局今はどういう状態なんだ?」


グエンが私に傅きながら答えた。

「我々はこの方に敗れ、降伏した。海に落ちた仲間についても同様に降伏をさせるので、合図の許可をほしい。」


マグニが私の方を見るが私は静かに頷いた。


グエンが手を挙げると、見張り台に海賊が昇り、その上にある旗を燃やした。


グエンが舳先に立ち松明を四回振ると、海上にいる全ての海賊達が武器を捨てた。


 *


アルベルトとドーベルがこちらへ渡り、状況を確認する。


私からグエンたちのことについて聞いたアルベルトが、少し難しい顔をして悩んでいる。

「なるほど…グエン殿の家族がヘカテイアで人質になっているということですね。」


私は深く頷く。

「そうだ…彼には助けてやると約束した。」


アルベルトが両手を私の方に乗せ、じっと私の目を見て尋ねた。

「今回の戦い…私には腑に落ちないことがあります。」


私は彼をを静かな目で見返した。

「なんか今回の戦いに問題があったか?」


アルベルトはかぶりを振る。

「いえ…戦果は十二分でしょう、本来であればもっと敵と味方に死傷者が出たでしょう。」


私は静かに頷いた。

「なるほど…なぜ彼らを殺さなかったかが気になるといったところか。」


アルベルトも静かに頷く…。


私はあえてマグニとグエンにも聞こえるようにアルベルトと話した。

「アルベルト、薬と毒の境目はなんだと思う?」


アルベルトは少し思案する。

「薬は私たちにとって有効なものが薬、そして害となるものが毒といったところでしょうか。」


私は彼に説いた。


 *

 

―例えば薬草で考えてみようか。


たとえ薬草でも使い方次第でそれは毒にもなりえる。

使い道を誤ったからと言ってその薬草自体には罪はない…

罪があるとすればそれを使ったものだ



―それは敵でも同じだ。


その時には敵だとしても、次は味方になることもある。

味方となった敵は我らに益をもたらすことすらあるのだ。

また、敵方の兵と言ってもその兵には家族がいる。

そしてその家族は民としてその地の礎として生きている。

兵士を無用に殺すのであれば、民の恨みを生み出し…禍根を残すことになるのだ。


 *


アルベルトはマグニを一顧した後、私に問いかける。

「道理はわかりました。では彼らを味方にすることによる益とは何でしょうか?」



私もマグニを一顧してアルベルトの問いに答えた。


 *


―まず初めに彼らを臣従させるメリットだ。


このことによりヘカテイアとの交易を障害なく行うことが出来るだろう。

また、海賊たちも護衛任務や運搬任務で報酬を得ることができれば、生活が成り立つようになる。

そして、彼らの家族が富むことになれば、サウスの新しい交易相手ともなりうるだろう。



―そしてヘカテイアに対して圧力をかけられる。


今回の件について、ヘカテイアは無かったことにしたがるだろう。

こちらはテリアを捕縛し、グエンを味方につけている。

そして、今回の襲撃について誰が裏で手を引いたのかは知っている。

それを元にヘカテイアに圧力をかけ、今後の関税などの条件について、かなり有利な立場で交渉できるようになるはずだ。



―最後にカインとアルベルトの度量の広さを示せる。


前サウス領主と商人ギルドの失態にたいする民の不信感はいまだ深く根付いている。

だが、今回の勝利と海賊の調伏によって彼らはその認識を改めることになる。

恩赦で懐柔した海賊の一派の件だけでなく、襲撃した海賊をも許して臣従させた。

その偉業を見たサウスの民は新領主と商人ギルドの慈悲深さと辣腕ぶりを強く感じることになるだろう。


 *


アルベルトが微笑を浮かべて私に言った。

「そうですね…ガイはそこまで考えるでしょう。ですが…それは建前ですね。」


私はグエンの手を取っていった。

「まあ…そうだな、直接グエンと海賊たちと対峙した時に、お前たちが気に入ったというのが一番の理由だ。」


グエンが驚いた顔をしたが…感極まったのか涙を流して頭を下げた。

「そこまで俺らのことを認めてくれたというのか…」


私は彼の肩を優しく叩いて言った。

「誰かに命を握られるのではなく、自分の意思で主を選び…そして誇り高く生きてくれ。それがグエンに対する私の願いだ。」


グエンだけでなく、周りの海賊たちも感極まって泣いている…


照れくさくなった私は、アルベルトのほうを向いて言った。

「アルベルト…マグニに教える為とはいえ、少し私に意地悪をしすぎではないか? おかげでこいつらが完璧に私に心酔してしまったのだが。」


アルベルトは苦笑する。

「なんというか…今回のガイのやり方はお義父さん(アケロス)そのものなので、今の内に仕返しておこうと思いましてね。今回の一件は父さんとお母さんにかなり尽力してもらう必要があるので…。」


私はマグニのほうを向き重要なことを伝える。

「マグニ、今回はたまたま敵がこちらの味方になってくれるような相手だった…だがな、逆にどんなに親しい相手でも、お互いの信念の為にどちらかが倒れるまで戦わなければならない時がある。」


マグニが私の方を見て聞いた。

「その時は…ガイはどうするんだ?」


私は彼の眼を見て伝えようとする。

「相手を全力で叩き潰す…そしてその者の遺志を背負って戦場を生き抜いていく…」


だが、そこで桔梗の顔が浮かんだ…そして言い直した。

「だが、それでは駄目だった…やはり自分の信念を貫き、そして護りたい者のために戦わなければならない。そうでなければ結局すべてを失うことになるだろうな。」


マグニは今までの話のことを聞いて色々と考えていたようだが、深く頷いて答えた。

「ガイ、アルベルト義兄さん…今の俺ではまだそれを理解できるところまで達していないが、心に留めておく…これからも色々と為政者として必要なことを教えていただければありがたい。」


 *


私はグエンに命じて、横倒しになった帆船のミスリルの帆の回収をさせた。

ミスリルの帆の回収が終わったころにダナンの船がこちらへ来た。


ダナンが驚愕の表情でグエンと私たちを見ている。

「こいつは…一体どういうことだ? グエン…まさかお前、一隻の船にこれだけの被害を出されたとでもいうのか!」


グエンが私とマグニを見ながらダナンに行った。

「この二人は化物だ、お前がやっても同じ結末だったぜ。」


そしてグエンは海賊達と一緒に私の方を見て言い放つ。

「そして…この方が俺たちの新しい頭だ!」


私は思わず吹き出した。

「おい、グエン! 勝った後、私はお前に行ったはずだ…サウスに仕えろと、忘れたのか?」


私は助けを求めるように桔梗を…と思ったが彼女は取り調べ中のため、アルベルトを見た。


アルベルトが微笑しながら私に言った。

「ここまで心服している相手に、私が主になれというのは酷というものです。その代わりと言っては何ですが、商人ギルドとしては全面的に協力しますよ。」


私は少し思案した後に答えた。

()()()()…忘れないでくれよ。」


アルベルトは私の言葉に深く頷いた。


私舘はダナンに海に落ちた海賊たちの救助を頼むと共に、戦利品についての話し合いを行うことにした。


まず初めにアルベルトが、横倒しになった帆船についているミスリルの帆は貰うということを宣言した。

ダナンは少し悔しそうな顔をした。

ミスリルの帆はかなり有用な上、莫大な富になりうる価値があったからだ。

だが、海に浮かんだものはこちらが貰うという風に約束していたので仕方なく応じた。


私はグエン達の船についての処遇についてダナンに告げた。

「グエンたちの船については、私が貰う。」


ダナンが目を剥いて怒った。

「アルベルト、こいつは俺たちとの約束を破ろうとしているぞ!」


私はグエンの方を見ながらダナンに説明した。

「こいつらは私の配下になった…つまりは、今ダナンが乗っている船は全て俺の船ってことだ。それにお前はアルベルト、いや商人ギルドと約束はしたが私とは何の約束をしていないよな?」


ダナンは歯噛みしながら納得がいかない顔をしている。


私はグエンの方を見ながらダナンに告げる。

「新しい頭として、こいつらを食わせる必要があるのだ。それにな、子分の持ち物を守るのは頭の役目だ。」


グエンと海賊たちがまた感極まって、私のほうを見て大泣きしている。


ダナンはグエンたちの方を見た後に、表情を緩めた。

「全く…あいつらがあんなに心酔した顔でお前を見ていると、こんなちっぽけな船のことなんてどうでも良くなった。わかったよ、あれはグエン達…いやお前のものだ。」


そして私の手を握って言った。

「グエンは弟みたいな存在だったからな…殺さないでくれて嬉しかったよ。あいつらのことをしっかり頼むぞ。」


私は笑顔で答えた。

「そうだな…海賊だけにしておくのは勿体ないからな、色々とやらせるさ。」


ダナンが一瞬あっけにとられた顔をした後に大笑いした。

「お前は本当に欲張りなやつだよ、本当に海賊に向いている。」


アルベルトはそんな私たちを見て嬉しそうに笑っていた。


 *


海賊たちの救助が終わり、こちらの乗せられる分以外の海賊については、一時的にダナンが預かることになった。


そしてダナンの船は滑るように海の向こうへ消えていく。

私達が彼らを見送る中…桔梗がすっと私の後ろに現れた。

「凱さま、テリアの取り調べがほぼ終了しました。」


 *


桔梗からの報告をまとめるとこうなる。


どうやら、テリアは戦いに勝った後、そのままサウスに交渉に行き、アルベルトの命と引き換えに自分が商人ギルド長になるようにカインと()()させるつもりだったようだ。

そしてギルド長となったテリアはヘカテイア有利の条件で交易を行い、自分は甘い汁をそこで吸う。


グエンの妻子については、ヘカテイアで約束通りには暮らさせている。

交易にグエンを使う必要があったからだ。

ただし、グエンが裏切ったということが分かれば、すぐに刺客が贈られる手はずにはなっている。


定期連絡は一月毎で、次の連絡まではまだ余裕がある。


 *


アルベルトは少し思案した後に、桔梗と共に船室へ行く。

しばらくしてから書簡を一通ドーベルに渡し、急いで小舟でヘカテイアに行くように指示をした。


そして私達にサウスに帰港しようと提案した。


私もそれに同意し、桔梗とともに渡り橋でサウスの船に戻ろうとした。

その時グエンが私に頼んだ。

「お頭は、折角だから俺らの船でサウスに寄港してください。」


桔梗が思わず私のほうを振り返る。


そして、グエンが桔梗に言った一言に彼女は頭を抱えた。

「姐さん! よろしくお願いします。」


桔梗が怖い笑顔で私に迫ってくる。

「凱さま…まさか…()()やってしまったのですか?」


私は視線をそらそうとしたが、ガッチリと桔梗に頭を掴まれた。

そして、『私が敵地で思わず登用した猛者達の処遇の根回し』を皮切りとした彼女の苦労話…いや、説教をこんこんと受けることになった。


グエンと海賊達は呆気にとられた顔をして私たちをみて…大笑いした。

「あれほど勇ましかったお頭が小さくなっているぞ。」

「ありゃあ完璧に尻に敷かれてるな。」

「真のお頭は姐さんか? これはおっかねえ。」


マグニが遠い目で私達を見ながらアルベルトに言った。

「俺のシェリーは可愛い嫁さんでよかったよ…ガイは苦労するだろうな。」


アルベルトも遠い目をして言う。

「キキョウさんはね…イースタンの恐怖と衛兵に噂されていましたからね。」


マグニが身震いしながら、アルベルトに言う。

「まあ…規格外のガイにはお似合いの相手ってことだな。」


アルベルトとマグニが顔を見合わせて笑う。


桔梗が何かに気づいて二人のほうを見ると、彼らはそそくさと渡り板で船に乗り込みサウスに向かって船を進めた。


私もグエンにアルベルト達へ続き、サウスへ進路をとるように伝える。


私達の船は海賊たちの陽気な笑い声に包まれながらサウスに凱旋することになるのだった。

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平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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