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王からの返書

サウスの街からに王都へ送った使者が戻った為、私達は屋敷の応接間に呼ばれた。

応接室にはすでにカインとフレイ、さらにマグニ、そしてアルベルトが座っている。


使者が持ち帰った王からの返書には、こう書かれていた。


 *


フレイ、賊の恩赦については認めようと思う。

だが、その後に私がお前に強く伝えたいことを書いたのでよく読むがよい。


まず初めに、数々の調度品を見たが、どれも素晴らしいものだった。

ごまんとある作品の中で、これほどのものを見つけたのはお前の審美眼が優れていたからだろう。

…が、むしろこういった時は、もっとカインの為に欲を出すのが妻の務めというものだ。

皆、お前のことを称賛はしていたが、清廉潔白だけでは領主の妻としてやっていくのは厳しいものだ。

ただ…そうだな、お前は昔から生真面目なところが取り柄だった。

今からでも遅くない、カイン公と仲睦まじく暮らす中で…そういった性格を直すのもまた一興というものだろう。


 *


王の手紙を読んだフレイは意味ありげな顔でカインのほうを見つめた。


カインは何かに気づいた様子で一瞬動揺したが、微笑しながらフレイに感謝した。

「君のおかげで王の側近が贈り物を無下に扱わず、正当に王が調度品を評価してくれたよ。」


フレイも微笑しながら王のことを想う。

「あの人は…良いものについてはしっかりと評価する人だからな。」


カインはアルベルトに問いかけた。

「それで、商人ギルドはどうかな? お前のことをしきりに持ち上げているのではないかな。」


アルベルトが苦笑しながら答えた、

「そうですね…信頼される程度でよかったのですが、薬が効きすぎてしまい、皆が恐縮してしまっています。」


アケロスがアルベルトの肩を叩いて、カインに商人ギルドでのアルベルトの振る舞いを伝え、彼を褒める。


そんなアケロスを見て、カインが悪戯っぽく言った。

「アケロス、君にしては珍しいね。アルベルトをそんなに持ち上げる君を見るのは初めてだ。」


アケロスがじろりとカインを睨みながら言い返す。

「今までのアルベルトが、それほどだらしなく見えていたってことだ。まあ、今回の件が出来るくらいなら、セリスの夫として及第点ってところだな。」


そしてアルベルトのほうへ向いてニヤリと笑った。

「…という訳だから、しっかり努力しろよ。」


アルベルトは嬉しそうな顔で頷いた後、カインに一つ相談をする。

「ところで、商人ギルドに面白そうな人材がいました。」


カインが興味深げにアルベルトの顔を見る。

「ほう…お前が興味を持つということは、かなり期待出来そうだな。」


「ドーベルと申す者で、サウスの交易にかかわっているものです。彼のことが気になったので調べさせました。」


アルベルトはドーベルに関する書類を見ながら私たちに説明してくれた。


彼は元々この辺の交易関係や海運関係の指揮を執っていて、その優秀さから将来を有望視されていた。

だが、今回のイースタンの陰謀に加担しなかったため、バロンに疎まれて海上警備などの危険な部署に回された。

だが、彼は持ち前の調整能力で海賊などの対応などに臨み、彼らと一定の距離を保って付き合うことが出来るようになったそうだ。


カインが思わず漏らした。

「その男は絶対に欲しいところだな…アルベルト、彼を登用できるかね?」


アルベルトが心得たという顔で、二度手を叩いた。

「すみません、父さんならきっとそう言うと思っていたので、事前に彼へ屋敷に来るように伝えておきました。」


ドーベルが入室するが、彼は部屋の中の顔ぶれに少し緊張したようだ。

だが、感動した様子でアルベルトに傅いた。

「口約束ではなく…本当に私を取り立ててくださるとは、生涯の忠誠を誓います。」


アルベルトが彼の行動に驚いて、必死で彼を立ち上がらせようとする。


カインが苦笑しながら、ドーベルに告げる。

「暫くはアルベルトの側近として、彼を支えてくれないかな? もしその働きが目覚ましいものであれば、君を副ギルド長として推薦しよう。」


ドーベルは恐縮しながらも、カインに感謝する。

アルベルトは折角なのでドーベルに海賊の状況について確認することにした。


 *


ドーベルが説明してくれた内容をまとめるとこうなる。


現在海賊はサウス南方の海で、サウスから南の国へ出港した船を襲撃するそうだ。

逆に南方の国からこちらへ来る船については、極力襲わないようにしているらしい。

これは、サウスの商人ギルドが自分達にしたことに対する報復と同時に、南方の国の王が海賊たちに便宜を図って、こちらに圧力をかけることで、交易を有利に行いたいという思惑があるようだ。


私はふと疑問に思ったことがあってドーベルに聞いた。

「そういえば…この国の名は何というのだ?」


ドーベルが不思議そうな顔をして私を見るので、代わりにカインが答えた。

「ドーベル、ガイ君はね…異国から来たもので、まだこの国のことをよく知らないんだ。よく考えたら君たちには教えてなかったね。この国の名前は”アルテミス”、そして南方の国の名は”ヘカテイア”だよ。」



カインがドーベルにその先の説明を求め、彼はその先の説明を始めた。


恐らく、鉱山で働いている異国の賊を恩赦で開放することで、海賊たちに彼らの鉱山での待遇がしっかりと伝われば、ほとんどの海賊は納得すると思われる。


ただ、一部の海賊の中に、今回のサウスの粛正を逃れた商人ギルドの重鎮がいるようで、彼らは強硬に抵抗するだろう。

彼らは元々ヘカテイアと密約を交わしていたようで、海賊たちは彼らに思うところはあったが、手は出せないようだ。


どうやら、その密約というものが、彼らがサウスから逃げる際、ありったけの金を衛兵たちに金を握らせて、ミスリルの帆を付けた帆船を三隻とミスリルの帆をつけた強襲用の小舟を十隻を強奪するといったものだったようで、このために海賊たちは大きな軍事力を手に入れてしまったそうだ。


これに対し、サウスに残っているミスリルの帆をつけた帆船は一隻のため、海賊の討伐自体が難しいというのが、現状ということになる。


 *


私はドーベルの説明を受けた中で、戦略上必要なことを確認していく。

「ドーベルさんは、この辺の海域には詳しいのですか?」


「そうですね、海上警備の仕事をしていたのである程度は分かります。」


「この辺は海流とかは激しいですか?」


「いえ、そこまでは…その為にミスリルの帆船が自由に動けるといったところはあります。」


「なるほど…もし、そのミスリルの帆船をすべて沈めたら、彼らは降伏すると思いますか?」


「それができれば…ギルドの元幹部は降伏するでしょうね。ただ、海賊の頭は強硬に抵抗する可能性はあります。」


「なるほど…わかりました。」


そしてカインのほうを向いて、今回の作戦に必要なことを確認した。

「カインさん、マグニに直属の兵はいますか?」


カインは少し考えた後に、マグニのほうを見て言った。

「マグニ、君が良いと思う兵士をそうだな…二十人ほど登用してもらおうか。」


そして私のほうを振り返って微笑した。

「帆船で防衛となれば、それくらいで足りるかな?」


やはりカインは有能な為政者だと思いながら、私はそれに答える。

「そうですね、十分足りると思います。あと、出来ればそうですね…今回の作戦後の報告について、後でフレイさんの指示した通りにしてくださるような方々だとありがたいです。」


カインはちょっと複雑そうな顔をしたが、アケロスの方を見て頷いた。

「そうだね…ガイ君達は、自分の家族のために僕に尽くしているからね。」


私は桔梗のほうを見て確認すると、彼女は肯定の意思を示すように静かに頷いた。


私は穏やかな表情ながらもカインの目を真っ直ぐに見て伝える。

「私にとっては貴方も十分大切な人なんです。まあ…家族の次といったところですが、私にとってカインさんは重要な友人です。だから、こんなところで躓いてほしくないんですよ。」


カインが眼を見開き、いつもの微笑ではなく本当に嬉しそうな顔で私の気持ちに応えた。

「私もガイ君のことを重要な友人だと思っている。だから君やキキョウ君の意思を尊重しよう。」


そして彼はフレイのほうを向いて頼んだ。

「そういうことだから…事後処理は頼めるかな。」


フレイは当たり前だという顔をして私たちに微笑んだ。

「まあ、そういったことは私に任せておけばいいさ。お前達はその海賊を存分に料理すれば良い。」



そんな私達を見てドーベルは気付いたようだ。


―私達は海賊のことなど歯牙にもかけておらず、その先を見ていることに。



今までサウスの町の民から恐れられていた海賊のことがあまりにも小さなことに思えて、ドーベルは思わず笑ってしまった。


アルベルトがそんな彼に気づいて彼の肩に手を置いた。

「どうだいドーベル、私の仲間達は?」


ドーベルは嬉しそうに答えた。

「ええ…私は本当に幸せ者です。貴方だけでなく、このように素晴らしい方々に出会うことができたのですから。」


アルベルト優しげな笑顔を浮かべ満足そうに頷いた。

「では、私達はそろそろ自分たちの仕事をしていこうか。」


ドーベルはアルベルトに深く礼をすることでそれに応えた。


退出する前に、アルベルトはフレイに何かを耳打ちしする。

フレイが目を見開くが、すぐに優しい目に変わりアルベルトの肩を優しく叩いた。

そしてアルベルトとドーベルは応接間から退出した。


私達もよい頃合いとなったので、応接間から退出することにした。


 *


話し合いが終わり、カインとフレイが二人っきりになる。


フレイがカインに聞いた。

「気づいたか?」


カインが苦笑して答える。

「王の悪戯好きにも困ったものですね。私は…ガイ君あたりが気付くのではと思って冷汗が出ましたよ。」


フレイが意地悪な顔をしてカインの顔を覗き込んだ。

「…で、お前はどうなんだ…その気はあるのか?」


カインがフレイの腰を抱いて笑顔で答えた。

「王に言われなくても…私は自分の意思で自分の好きな人を抱くのですがね。」


フレイは彼の肩に手を回してキスをして言った。

「アルベルトは気づいたぞ、退出の際にできれば弟のほうが良いと私に耳打ちしていた。」


カインが困ったような顔をする。

「まったく…手紙に”孫が見たい”だなんて…本当に困ったものです。ですが、私は…ガイ君と違うので、今日は君を寝かしませんよ。」


フレイは微笑しながら答えた。

「ほう…それは楽しみだ。」


二人は、仲睦まじげに応接間を出て自分たちの部屋に戻っていった。


 *


そのころ…私は部屋の中で盛大にくしゃみをした。

「また…誰かが私の噂でもしているのか? まさか、桔梗ではあるまいな…」


そんな想像をしながらも私は窓の外を見つめる。

潮の香りが海から運ばれて私の鼻をくすぐった。


何かを誘っているようなその香りに私は万感の思いを込めて呟く。

「私は…どうするべきだろうか…このまま進んでいけば、私達の力はこの世界にとって無視できないものになるだろうな。」


ふと気配がして振り返ろうとすると、桔梗が心配そうな顔をして後ろから私に抱き着いた。

「凱さま…ご無理をされてはいませんか? 何か苦しいことや困ったことがあったら私にも話して下さい。」


私は手を後ろに回して彼女の頭を優しく撫でた。

「大丈夫だ、桔梗…今の私はもう何も縛られることはない。そう…世界ですら私を縛ることは出来ないさ。」


桔梗が私の返答に一瞬困ったような顔になるが、冗談めいた顔で私に聞いた。

「ではここにいる一人の女には?」


私はその質問の意味が分かって顔が熱くなったが、彼女のほうに向きなおり唇を奪った。

「これが答えってことでは駄目かな?」


桔梗は嬉しそうに私の顔を見つめて囁く。

「いつも凱さまは、皆の幸せを第一に考えています。でも…二人だけの時は、私だけの凱さまでいてください…」


私は彼女の頭を優しく撫でながら窓の外を眺め、こんな幸せな時間がずっと続いてほしいと願いながら呟いた。

「そうだな…桔梗、君は私がどんな立場になってもずっと傍にいてくれた…」


桔梗が意を決したように私の目を見つめて涙を一筋流す…そして、はっきりと告げた。

「凱さま、自分がしたいようにしてください。そう、誰かの為ではなく、私の為でもなく…自分がこの世界でどう生きたいかを考えてください。私は今、十分に幸せです…だからこそ、凱さまが決めた道を最後まで一緒に付いていきます。」


私は桔梗を抱きしめ…彼女が見ている前で初めて涙を流して本心を伝える。

「過ぎたる力は…結局周りのものを狂わせる…さらに自分も…そして自分な大事な人さえも…私はそれが怖かった。本当は…お前とほんの小さな幸せを噛み締めながら、静かに穏やかに生きていきたい…」


だが、私の頭の中でこの世界で出会った大事な人たちの顔が浮かぶ。

「でも…私はカインやアケロス達を見捨てることはできない。私の力で彼らを助けることができるのに、何も見なかったことにして、自分だけ幸せになるなんてことはやっぱり出来ないんだよ。」


桔梗は優しく私の背中を摩って諭した。

「ならば、そのすべてを手になされませ。凱さまにはそれだけの力がございましょう? 私も一緒に戦います。前の世界では天下のために戦われましたが、今度の世界は私との平和な生活を築くために戦ってください。真の男としてこれ以上に戦い甲斐のある大義はないのでは?」



私の心は決まった。



―天下ではなく桔梗と一緒に幸せになるため、この命を懸けて戦う。



私は桔梗にもう一度だけ口付けをして告げる。

「そうだな、愛する女のために、今一度…私は全力で戦おうと思う。だから桔梗…私に付いてきてくれ。」


桔梗は嬉しそうに私の顔を見る。

「良い顔に戻られましたね…一緒に幸せをつかむために戦いましょう。」


私は彼女の手をつなぎながら一緒に窓の外を見て…遥か彼方にある幸せを絶対に掴んでみせると決めたのだった。

ネタバレになるので前書きには書きませんでしたが、

カインとフレイの会話の意味が分からなかった方は王の手紙を縦読みしてみてください。

…つまりはそういうことになります。

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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