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アルベルトの方策

アルベルトはアケロスとセリスと共に、商業ギルドの本部へ行った。



商業ギルドの本部に、調度品を購入してもらった職人達が呼ばれていて、アルベルトとアケロスに感謝していた。

「噂で聞きましたが、貴方が進言をしたことにより、カイン様がアケロス様を通じて私共の調度品を購入し、王に献上したそうですね。」


アルベルトは何も答えず穏やかな笑みを浮かべる。

その代わり職人達の作品を称えた。

「私は貴方達の調度品を見て、これほどまでに芸術に対して真摯に向き合っている物があるのか…と感じ入りました。恐らく貴方達は、どのような土壌でも自分が表現したいものを表現できることでしょう…だからこそ貴方達にサウスの将来を託したいのです。」


そして、彼らを商業ギルドに入会させ、お抱えの職人として支援をしたいと告げた。


これに驚愕したのは商業ギルドの商人達だ。

「お待ちくださいアルベルト様、彼らはサウスの前領主からも見放されたような技量の持ち主ですぞ…彼らに投資して、もし失敗されたらどうされるつもりか?」


アルベルトはこともなげに答えた。

「その時は私を解任すれば良い事では? 私は自分自身の目を信じています。もしや…貴方達は自分の審美眼を信じずに領主や身分の高い人の価値観のみを信じて商売をするとでも言うのですか?」


職人達がそんな彼に感服し、忠誠を誓った。

「貴方に全てを任せます。我らの力、いかようにも使ってください。」


商人達は、いまだに不満げにしていたが、一人の男がアルベルトの前に進み出る。


思わずアルベルトはその男を見た。

男は、スラリとした長身、顔は赤毛で切れ長の透き通るような緑目を持っている。

全体的に見れば知的な青年といったところだが、荒事にも慣れているような感じもする。


アルベルトがその男に尋ねる。

「貴殿の名は?」


男がアルベルトの問いに答え、彼の対応を称賛する。

「ドーベルと申します…貴方のその対応に感服しました。私はサウスの街の交易を担当しておりますが、貴方の申されることは、いちいちもっともでございます。商人たるもの、自分の目で確かな物を見定めてそれを仕入れて売るもの…他人の価値観に全てを委ねるようでは商売など出来るはずがないのです。」


そして、周囲の商人たちに向かって告げた。

「お前らは一体何をしている? バロン様の時には自分達の意見を取り入れて貰えぬと嘆き、こうして真っ当な上司が来た時には、その目を疑って責任を押し付ける。俺は…そんなのは嫌だ! だからこの人にすべてを賭ける。それで駄目なら仕方がない、俺の見る目が無かったということさ。お前らはどうするんだ? 自分で自分の価値すら見つけられないような奴が商人なんて名乗れるのか?」


商人たちが逡巡する…そしてアルベルトに賭けることで皆が一致した。


アルベルトはドーベルに感謝した。

「助かりました。ドーベル…その名前、覚えておきますね。」


ドーベルが笑って商人らしい答えをした。

「上手くいった時は、是非とも取り立てて頂きたいものです。」


アルベルトは微笑を浮かべて静かに頷いた。


 *


商人たちの意見が一致したので、アルベルトは次の方策を発表することにした。

アケロスとセリスを皆の前に立たせ、彼は宣言する。

「イースタンはセントラルの直轄地となりました。そうはいっても、サウスはこれまで通り鉱石を買い取って加工することになるのですが、ミスリルの鉱石の買い付けには、皆様が良く知っているアケロスとその娘のセリスに行わせることにします。」


周囲が騒めいた。イースタンの至宝が商業ギルドのために動くとなると、これは大きな儲けのチャンスになるからだ。」


皆がざわめく中、すかさずアケロスが言った。

「俺はアルベルトがギルド長である間の専属契約ってことにしているからな。工房ができたら鉱石の選別は娘のセリスが行うことになる。」


一人の商人がアケロスに確認をする。

「貴方の実力を疑う者は、この中には全くおりません。ですが…あなたの娘さんがミスリルの選別をできるということはどう証明してくださいますか?」


アケロスがアルベルトに顎でしゃくって指示をする。

アルベルトが手を叩くと、数点のミスリルの調度品とミスリルの鉱石が並べられた。


アルベルトが周囲を見てそれらを見せて説明した。

「それぞれの調度品の原料のミスリルを職人達に用意させました。彼女はこれらの調度品については事前に何の情報も与えていません。これから、彼女にその調度品の材料がどれかを当ててもらうことで信じてもらおうと思います。」


セリスがその中の調度品の一つを取り、そして鉱石をとって職人達をみる。

それを作ったと思われる職人がセリスの前に出て頷いた。


周囲の商人たちがどよめいた。

アケロスだけでなく、その娘も金の卵を産む鶏だったとは全く思っていなかったからだ。


セリスは次々と調度品の原料を当てていくが、一つの調度品の前で止まり…一瞬怪訝な顔をした後、笑顔で言った。

「悪戯好きな方が居ますね。この調度品の原料はここにはありません。」


悪戯を仕掛けた職人は、セリスを試そうとしたことを謝罪しようとした。

しかし、セリスが一つの鉱石を手に取って彼に問いかけた内容に、驚愕の表情を浮かべさせられた。

「あなたが混ぜたのはこれでしょう? 調度品とは違う…そうですね、これは楽器などに使われた原料なのでは?」


職人が目を見張りながら思わず頷き、周囲の商人たちは彼女の才能が本物であることを認めざるを得なくなった。


 *


セリスのことを商人たちが認めた為、アルベルトが次の方策を打ち出す。

「このように、アケロスだけでなくセリスもミスリルの鉱石の選別が出来るということは、サウス内で加工に適したミスリルが容易に区別できるようになるということです。」


商人達と職人達が頷く、さらに彼は続ける。

「私は商人ギルドのお抱えの職人については特別にこのミスリルを定価の四割引きで卸そうと考えております。」


あまりにも自分たちに有利な内容に職人達が色めき立った。逆に商人たちが心配そうな顔をする。

「その代わり、職人が売り上げた商品の三割は私共、商人ギルドが頂くという形でいかがでしょうか?」


今度は商人達の目が輝いた。そして、職人達が難色を示す…いくらなんでも三割は暴利だからだ。


だが、アルベルトは穏やかな笑みを浮かべていった。

「無駄なミスリルを仕入れなくても良くなるということは、それだけ原価が下がるでしょう。その上で四割引きでミスリルを手に入れられるメリットを考えればどちらが有益と思われますか?」


職人達の中で考え込む者が出てくる。

望まない用途に使えるミスリルの鉱石を仕入れてしまうことも多く、そういう時は往々にして加工自体ができないため、大損をするものも少なくなかった。

イースタン以外でなかなか技術が浸透しないというのもそう言った事情があるのは否めなかったと、彼らは自身の苦労を思い出し、それがなくなることのメリットについて考え出した。


彼は少し意地の悪い笑みを浮かべて遠くを見るような目で彼らに告げる。

「そうですね…ギルド員以外の方々にも、ミスリルの販売は考えております。たとえ定価で降ろすといっても…今までの状況からすれば、言い値で買いたいという方々はたくさんいらっしゃると思うので、無理にとは言いません。」


結局職人はメリットのほうが大きいと判断し、その案を飲むことにした。


アルベルトはさらに続ける。

「そこで、提案ですが…アケロスは用途別にミスリルを精錬することができます。ミスリルの購入を二割引きで我慢できる方は、彼に精錬してもらうというのも手ですね。」


アケロスが思わずアルベルトのほうを向き…そしてセリスが自分に向けてくる視線を感じて察した。


―私達がこれだけ働くのだから、お父さんも頑張ろうね!


アケロスは、『俺が何でこんなことを…』と思ったが、可愛いセリスの為にと諦めた。

だが、気持ちが収まらないため、歯軋りしながら小さく呟いた。

「あの野郎…最初からセリスを使って俺を嵌める気だったな…。」


だが、彼のことを少し見直した。


―前は頼りない奴だと思っていたが…ここ最近のアルベルトはなかなかやる。



商人たちが彼を見る目が一変し、彼にすべてを任せてみようと思っている。

就任して早々、あそこまで人の気持ちを惹きつけ信頼させることができるのは、一種の才能だろう。



アケロスはアルベルトの肩を叩いて、笑いながら言った。

「そういうことなら、俺も精錬についての弟子を取りたいもんだ。ちゃんとミスリル達(あいつら)の意思を尊重できる弟子を育て、その先へ卸す際もしっかりとした職人に卸す。卸す先はきっちりお前が管理するんだぞ。」


アルベルトはアケロスに認められたのが余程嬉しかったのか、笑顔で大きく頷きながらカインにそれを伝えると約束した。



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