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マグニとの戯れ

ある程度の方針が決まったため、応接室から出る中、私はカインに頼みごとをした。

「カインさん、明日からしばらくの間、マグニと海岸で少し海上での稽古をしたいのですが…彼の身を少し借りてもよいでしょうか?」


カインがマグニに聞く。

「マグニ、時間は取れそうかい?」


マグにが生真面目な顔でに答えた。

「そうですね、朝食を食べる前であれば、巡回の任務に支障もありますまい。」


私はカインへ感謝し、マグニと早朝に海岸で落ち合うことにした。


 *


次の日の早朝、私と桔梗は海岸へ向かった。

日が昇り始めたばかりの太陽が、まだ静かなサウスの街並みを明けの色に染めていく。

その幻想的な風景に少し酔いしれながら、私達は波止場に到着した。


昨日のうちにカインに頼んで用意してもらった小舟が2隻あり、一隻は私、もう一隻は桔梗に乗ってもらった。


しばらく待つとマグニが慌ただしくやってきた。

「ガイ…すまない、なかなかシェリーが離してくれなくってな。」


よく見ると彼の首元にキスマークが…桔梗がそれを見つけて顔を赤くしている。


私は彼を小舟に乗せ、彼に海戦の経験について改めて聞いてみた。

「マグニは海戦の経験はあるのかい?」


「どちらかというと陸が多かったからな…海はなかなか勝手が難しいな。」


「海でこのような小舟に乗って戦う場合は鎧がつけられない、というのはわかるな。」


「そうだな…沈んでしまうからな。」


「では弓が多い理由もわかるな。」


「鎧をつけていないやつが多いから、射貫きやすいってことか。」


「そうだ、相手の弓の射程に入るということは射掛けられるってことを意識しながら戦ったほうが良い。…だがマグニの場合は少し特殊だろうな。」


私は桔梗に目配せすると、彼女が音もなく彼に礫を投げた。

マグニはそれを見ることなく手を動かし、彼のロングソードがそれを見事に守っている。

マグニは私たちを咎めた。

「危ねえな、何しやがる。」


私はマグニをなだめながら説明する。

「マグニの場合はこうした不意打ちにも強いから、矢を射かけられても早々には当たらぬってことさ。」


「なるほど…確かにそういった意味では俺は海戦向きなのか?」


「いや…どちらかというと隊長として指揮をしっかりしてもらいたいと思っている。ただ、万が一ということがあるからな。私と少し遊んでみないか?」


「遊ぶって何を?」


「こうするのさ」


私は船を大きく踏みつけた。船が一気に揺れてマグニが投げ出されそうになる。

思わずマグニが叫んだ。

「おいおい危ねえって! 落ちるだろうが。」


私は笑いながら答える。

「交代に船を揺らして、どちらが先に落ちるかって勝負だ。」


マグニが面白そうだと食いつき始めた。

「ほう…勝負か、そういう遊びは大好きだぜ。じゃあ次は俺の番だ!」


マグニは小舟の手すりをつかみながら思い切り船を揺らした。


―あいつも少しはこれでぐらつくだろう


マグニはそう思っていただろうが、その予想を裏切り、私の足は船の床に張り付いているかの如くに動かない。


私は小舟の穂先に立って、思い切り船を踏みつけた。

船が跳ね上がり、マグニがとても良い音を立てて海に落ちる。

桔梗が櫂を使ってマグニを引き上げた。


マグニは私の方を見て、穂先に立ったままであることを見て驚愕した。

「なんで落ちねえんだ? あれだけ揺れて、しかもそんな細い場所で。」


「慣れってもんさ、まだ続けるかい?」


「当たり前だ、勝つまでやるさ。」


その後マグニは時間になるまで数十回ほど私に海に落とされた。


 *


「明日もやるからな。同じ時間でここで待ち合わせだ!」


さんざん海に落とされてずぶ濡れのマグニは、そう言いながら屋敷へ戻っていった。


小舟の上で桔梗がぼそりと呟いた。

「相変わらず…大人げないですね。」


私はマグニを見送りながら桔梗へ笑いかける。

「最初が肝心なのさ、彼は向上心があるからな。」


「一回ぐらいは手加減してあげてもよかったのでは?」


「彼の場合は、そういったのは嫌いだからな。そのうち勝てるようになるかもしれないぞ?」


「そう言いながらも凱さまって、絶対負ける気がないんですよね。」


「そうかな?」


「ええ…どんな勝負もずっと負けないようにしっかりと策を練って、その上、誰よりも修練して臨んでましたからね。」


「まあ…勝負の世界ってそういうものさ。」


桔梗が船着き場の舟止めに鞭鎌(ハーケンウイップ)を巻きつけて小舟をよせる。

「鎖鎌と違って、これはかなり便利ですね。」


「そうだな、今回の海戦ではこいつを使ってもらうことになりそうだ。」


私は桔梗と海戦について話し合う…が、お腹が小動物のような声をあげたので、早々に引き上げることにした。



 *


次の日、また次の日、そして十日程の早朝の時間を使ってマグニは私との遊びに励んだ。

どうやら、シェリーにその話をしたようで、今日は彼女も来ている。


シェリーがマグニに声援を送った。

「マグニ~私が来たんだからしっかり勝ってよね!」


マグニが真剣な顔で私を見ていった。

「おう、任せとけ! ガイ…悪いが今日の俺は一味違う。」


私は妙に気合が入ったマグニを見て聞いた。

「ほう…ずいぶんな気合の入り様だな、何か秘策でも?」


マグニは舟止めに座っているシェリーを見て少し照れながら言った。

「今日勝ったらおやすみのキスを二回してくれるというのでな…まあ愛の力だ。」


桔梗が顔を赤くしながらも私の目を見て何かを伝えた…。


―マグニさんのほうがよっぽど甲斐性があるのでは?


そんな風な何かを感じたが、遊びとはいえ真剣勝負の場だ…そんな煩悩をかける場ではないのだ。



丁度、次の段階かと思ったので、マグニに一歩進んだ修練の提案をすることにした。

「マグニ、私と棒術で勝負してみないか?」


「棒はちょっと俺のほうが不利だな。シェリー、俺にあれを投げてくれ!」


シェリーが布に包まれていた棒をマグニへ投げて、マグニはそれを受け取った。

「俺はこれぐらいの長さがちょうどいいからな…というか、キキョウが俺にそろそろ武器使わせるころだから練習しておけとこっそり伝えてきた。」


私が桔梗のほうを見ると、彼女は素知らぬ顔をしてシェリーに笑いかけた。


なんだろう? この疎外感は…と思いつつ、私はマグニと立ち合いを始めることにした。


 *


流石に私との遊びで鍛えただけあって、マグニは揺れる小舟の上でも安定している。

私はマグニに先に仕掛けさせることにした。

「マグニ、いつでもかかってくるが良いさ、船の上での戦いを教えてやる。」


「言ったな? 後悔するなよ。」


マグニが棒で私に突きを放った…が、私はとっさに船の縁を右足で蹴って船を揺らす。

左に体勢を崩したマグニの脇腹に蹴りを食らわせて、彼を海に落とした。


思わずシェリーが叫ぶ。

「マグニ! ちょっとガイ君、もう少し手加減してよ。」


マグニが船に上がって納得したような顔をしている。

「大丈夫だシェリー、なるほど…この前の遊びの応用ってことだな。」


私はマグニに伝える。

「海上の戦いは圧倒的に船に乗っているほうが有利だ。船から落とされる前に相手を海に落として処理するのがとても合理的なんでな。」


…といきなり船がひっくり返りそうになり、私は縁に飛び…マグニは落っこちた。

桔梗がいつの間にか水中にもぐって、私たちの船をひっくり返そうとしたのだ。


桔梗が悔しそうな顔をして私を見て、マグニに言った。

「こういう風に水中から襲ってくることもありますけどね。」


マグニが再度ずぶ濡れになりながら…桔梗に笑いかけた。

「キキョウも中々の巧者だな。」


そして船に上がって私に向き合ったのだが…私はそれどころではないものを見てしまった。

マグニが固まっている私を訝しげに見ている。

「よし、もう一度やろうか。あれ、おい…ガイ…どうした?」


私の視線は…船に上がった桔梗の水に濡れた体に釘付けとなった。

―健康的に均整が取れていて、私よりも背丈が低いのに胸元の肉置きのよい彼女の躰の線がくっきりと…。


普段は、そういったものをなるべく見せないような服装をしている彼女のあられもない姿に目が離せず、思わず生唾を飲み込みかけた瞬間に、私は海に突き落とされた。

マグニがそんな私を見て、笑い転げている。

「あっははは! ガイの弱点はキキョウか、一本とれたぜシェリー。」


シェリーがマグニを称賛し、桔梗に笑いかけた。

「やるじゃないマグニ、桔梗ちゃんナイスよ。」


どういう状況か分かった桔梗が一気に赤くなった。

悲鳴を上げて胸元を両手で隠してしゃがみ込み、私のほうを見て鋭く睨む。


―いや…それは私のせいじゃないだろう。


という突っ込みをしたくなったが、不覚を取ったのは事実だ。

その後は、先ほどの光景を忘れるために、容赦することなくマグニを何度も海に叩き込んだ。


先に舟止めに上がった桔梗がシェリーと何か話している。

そして、また真っ赤になっているということは何か私のことでも言っているのだろうか?


そんな私に不意打ちをしようとしたマグニだったが、もうその手は食わない。

私は小舟の舳先に強烈な蹴りを入れ、そのまま宙返りして彼の背後に飛び降りる。

そして無防備な彼の背中を両手で押し、海に叩き込んだ。



その後も数日間、早朝に彼と小舟の上で手合わせをした。

当然のことながら、あのような絶景…いや事故は起こらず、私はマグニを海に叩き込み続け、彼は負け続けはしたが、徐々に船上での戦いに慣れていった。

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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