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サウスの街にて

カイン達は、サウス就任後の状況把握などで忙しく、暫くは手を離せなくなった。


その間、自由にしてもらいたいと彼に言われたため、私と桔梗はアケロス、クラリスと一緒にサウスの街に繰り出すことにした。


領主の館近くは、元は貴族お抱えだった職人の工房が多かったようで、活気はないが、品の良い調度品や服が売られている。


アケロスは数件の店を回った後、クラリスに聞いた。

「どうだ、クラリス? お前はどう見る。」


クラリスは少し考えて、店の品についての感想を答える。

「そうね…かなり良い腕をしているわね。ただ、あなたの鍛冶とは真逆って感じはするわね。でもね、調度品とか作るならそのほうが良いのよ。」


アケロスが界隈の中でも特に落ちぶれた店に入りながら、我が意を得たりという顔をする。

「そうだ、こいつ等は芸術家だからな。そういったやつらは自分の美ってやつを持ってなきゃいけねえ。俺とは逆なほうが矜持があって良いんだよ。だが…サウスの元領主はそういうのが分かってねえみたいだな。」


奥から職人が出てきてアケロスに笑いかけた。

「そうなんだよ、あの領主は芸術ってやつをわかってねえ。ミスリル使って作れなんて言うけれど、別にミスリルなんざ使わなくっても、見事な物を造ることが出来るんだよ。」


私もその店に入り、一つの磁器を見て惹かれるものを感じた。

「ほう…これは、なかなかの技術ではないのか? 白磁に藍の装飾、かなりの腕と見た。」


職人が嬉しそうな顔をする。

「おお! 兄ちゃんわかってるじゃないか。一昔前は、王族だってこぞって欲しがるような品だったんだぜ。」


アケロスがその磁器を見て目を細めた…そして、職人の肩を叩いて言った。

「良い物っていうのは、別に数年で廃れるものでもないさ…見る目がある奴に見せれば真の価値をわかってもらえるってものだ。」


そして私が気に入った磁器を手に取り、金属札(プレート)を見せた。

「とりあえず、これで買わせてくれ。」


職人は驚いた顔をしたが、喜んでプレートの印を受け取った。

「ほう…あんた、イースタンのお偉いさんだな。イースタンには見る目があるやつがいるようだ。」


アケロスが答える。

「今はサウスの領主の部下だがな。」


職人が何かを察してさらに驚いていたが、アケロスは手を振りながら戻ってきた。

「ガイ、悪いな。こいつは名品なんでな…カインへの土産にするぜ。」


私は少し照れくさくなったが、アケロスの気持ちに感謝する。

「アケロス、私が選んだものを良いものだと認めてくれたというのが…とても嬉しいよ。」


アケロスは私の肩に手を置いて笑って言った。

「ガイ、()()()()()()()()()()()()()()()()()…だから材質ではなく、本質っていうものを見ることができるんだ。俺に修練用の武器を望んだようにな、それを忘れるなよ。」


その後、アケロスとクラリスは寂れている店に入っては自分の目に留まったものを買い漁った。


そして一度屋敷に戻るといって、私達に小遣いを渡して行ってしまった。



桔梗が先ほどの二人を思い出し、嬉しそうに言った。

「お父さんとお母さん、すごく喜んでましたね。」


私もあの光景を思い出して、乾いた笑みが浮かんだ。

「そうだな…あの二人すごい剣幕だったな。あれほどの名品がこんなに眠っているなんて…もっとないのか、店の奥からどんどん持ってこい! みたいな感じで目の色変えて職人に詰め寄ってた。職人が目を白黒して、言われるがままに物を出していたよな。」


桔梗がちょっとだけ心配そうな顔をした。

「でも…あんなに買っちゃって、大丈夫だったんでしょうか?」


私はその問題を解決する人がまた頭を抱えるだろうと思ったが、何となくやることは分かったので笑って答えた。

「大丈夫だ…元は取れるさ。」


桔梗がなんだろう? と首をかしげている。


私はとりあえず、せっかくだから市場にでも行こうと誘うと、彼女は嬉しそうに私の後をついてきた。


 *


丘を下ると、そこは一般の人々が買物をするような手ごろな食べ物や、服などが売っていた。

桔梗が物珍しい果物を見つけて商人に聞いた。

「おじさん、これなんですか?」


「おお、嬢ちゃん可愛いね。あれは彼氏さんかな?」


「そ…そんなところですね。」


顔を赤らめて答える桔梗を見て商人が私に向って言う。

「おーい、そこの彼氏、サウスで有名なこの愛の実を買っていかないかね? 今なら恋人価格で安くしとくよ。」


愛の実…なんだろうそれは。


とりあえずそれを買ってみることにして代金を払うと、商人が果物に筒を二つ付けて私達に渡した。

「それを一緒に吸って飲むんだよ、良いもんだろ? 恋人同士密着しながら飲めるんだぜ…だから愛の実さ!」


桔梗の顔が一気に赤くなった…そして私の方を見ながら飲むべきか飲まざるべきかで悩んでいる。

商人が埒が明かないといった顔で、私達の肩を寄せさせた。


商人が呆れた顔をして大声で私に言った。

「まったく、兄ちゃんはだめだね~肝心な時に…男なら腰に手を回すぐらいしないとな!」


周囲の人たちが商人の声を聴いて振り返り、私達を見て冷やかす。

「おい彼氏! いいとこ見せねえとな。」

「あら~あの子ったら赤くなっちゃって可愛いわね。」

「初心だな、全く見てられねえぜ!」


そしてちらりと桔梗のほうを見ると真っ赤な顔で下を向いていた。


「とりあえず…飲んでみるか」


「そ…そうですね」



―あまりに緊張したせいか、果物の味がどんなものだか記憶に残らない。


桔梗も同じようだったようで、真っ赤になりながら…そしてよろけて私に抱き着いてしまった。


周囲がさらにはやし立てる。

「おお~嬢ちゃんのほうが大胆だ!」

「あの子のほうが勇気あるわね。」

「おいヘタレ! 嬢ちゃんをしっかり支えてやれよ。」


心臓の鼓動が高鳴る中…ようやく私たちは愛の実とやらを飲み干した。


商人がどや顔で私たちを見て笑った。

「どうだったかい? サウス名物の愛の実は…おやおや刺激が強すぎたみたいだな。」


桔梗はもう何が何だかという状態で真っ赤になってしまって何も言えない。


私は一応強がった。

「そ…そうだな、なかなかのものだった。」


商人は大笑いして私の肩を何度も叩き、そして耳打ちをした。

「あの子…お前にべた惚れだぜ。もう一回ぐらい一緒に飲めば見事に落とせるぜ。」


―何をどう落とすというのか?


という突っ込みしなかったが、私と桔梗はそこから退散しようすると…悲鳴を聞こえた。


私はすぐに悲鳴がする方に駆け出す。

桔梗も一瞬反応が遅れたがすぐ私の後に続いた。


 *


どうやら通りで船乗り達と酒場の娘が喧嘩をしているようだ。


娘が船乗りに引っ張られている。

「いいじゃねえか、少し付き合えよ。」


「嫌よ! そもそもあんた達、お酒の代金払ってないじゃないの!」


「うるせえ! いいから着いてこい。」


私は桔梗に耳打ちした。

「丁度良い…マグニを呼んできてくれないか?」


桔梗は頷くと、屋根伝いに屋敷のほうに飛ぶように消えていった。


―さて、マグニが来るまで時間稼ぎでもするか。


私は船乗り達を怒鳴りつけた。

「何をしているか! 酒を飲んだ代金も払わず…しかも娘を拐かすとは恥を知れ!」


船乗りたちが私を見て笑った。

「なんだぁ? まさか俺たちとやるのか?」


私は彼らに挑発的な笑みを浮かべた。

「やると言ったら…どうする?」


彼らは私の挑発に見事に乗り、殴りかかってきた。



―なるほど、人数は十人程度といったところか。


さて、まずはこちらに来る三人から相手にするか。



手前の男が、右から私に殴りかかってくる。

私はその拳を左手で軽く払い、右手でカウンターの突きを顔に放った。

まともにカウンターを食らった彼がそのまま崩れ落る。


次の男が左から殴りかかって来る。

私は水面蹴りを彼に仕掛け、足を払われた状態になった相手の背面に、回転の勢いに任せてひじ打ちをかました。彼は思いっきり吹き飛ばされて酒場の壁にその身を打ち付けて気絶した。


三人目の男が私の背面から殴りつけようとしたが、私はそのまま右裏拳を彼の顔面に仕掛けて怯ませ、その勢いで左上段蹴りと右飛び背面蹴りの連脚を彼の顔面にたたきつけて吹き飛ばした。


船乗りたちが私を厄介な敵とみなしたようだ。

遠巻きに私を囲み、一気に襲い掛かろうとしている。


少年一人に大の男が七人、あまりにも酷い状況に娘が叫んだ。

「あんた達、プライドってもんがないの? あんな子一人によってたかって。」


船乗りが娘に怒鳴り返す。

「うるせえ! お前今のこいつの動きを見てねえのか? あいつは明らかにやばいんだよ。」


私はさらに不敵に笑った。

「いいんだぞ、もう少し人数を集めても…な?」


船乗りたちが激昂した。

「ふざけんじゃねえぞ! 俺たちを馬鹿にするのもいい加減にしやがれ。」


その時、どこからか神速の勢いでこちらに近づいてくる音がする。

私は思わず笑みを零した。


―やはりあいつはやる男だな。


その音が近づいてきて止まり、その音の主が叫ぶ。

「何をしているか! 大の男達が、か弱い娘をこの様にいたぶるとは絶対に許せん…サウスが新領主カインの息子、マグニが貴様らを成敗してくれるわ!」


船乗りたちがマグニを見てせせら笑った。

「ほう…貴様が新しい領主の息子だと? 威勢は良いが、この人数に勝てると思っているのか?」


民衆たちが興味深そうにマグニを見ている。

私は屋根の上の桔梗によくやったと目で褒めた。


マグニがミスリルのロングソードを光らせて叫ぶ。

「御託は良いからかかってこい。」


 *


勝負はあっけなかった。

あのロングソードを持ったマグニに、船乗り程度が敵うわけもなく、彼は手加減して殺さないようにしながら彼らを捕縛した。


私はサウスの市民たちに向かって叫んだ。

「さすがはカイン公の息子でありながら、王国随一の腕を持つとして有名なマグニ殿だ、七人もの賊を一瞬にして倒された。」


マグニが困惑しながらこっちを見る…が、私の目を見て気づいて宣言した。

「今日より、領主カインの剣としてサウスの街は私が護る。皆の者安心するがよい!」


市民たちがカインとマグニを称え、そしてその日中にサウスの街に噂が流れた…

王国最強の騎士のマグニがこのサウスを守るだろうと。


 *


領主の館にマグニと一緒に帰る際に、彼は言った。

「これでは道化のようではないか? お前はあいつらを簡単に倒せただろう…。」


私は彼の()()問いには答えず一言だけ言った。

「私では意味がないんだよ…そういったことは立場がある人がやるべきだ。」


マグニが考え込みながら、私のほうを見て笑う。

「お前は…変わった奴だな、その年なのに妙に老成して見える。そして為政者としての考え方を知っているようだ…今回は、借りとして貰っておく。」


私はそんなマグニに笑い返した。

「あなたはとても素直でいい人だ、きっと良い為政者になれるさ。」


彼が私に握手を求めた。

「出来れば、今後はあなた…ではなくマグニと呼んでくれ、俺はガイと良き友人になりたい。」


私はマグニの手を取ってそれに応えた。

「わかった、マグニ…この世界でまたそういった友人ができたことが嬉しいよ。」


マグニは一瞬きょとんとした顔になったが、嬉しそうに私の背中を叩いた。

「変わった奴だな、だがよろしくなガイ!」


桔梗はそんな私達のやりとりを見て、とても嬉しそうな顔をしていた。

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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