それぞれの願い
セリスの理力関連のセリフが気になった方は14話の最後の方~15話を見ていただければ良いと思います。
フレイ達が王都に到着し、サウスの商人ギルドがイースタンへの仕掛けた陰謀が明るみになる。
当然のことながらセントラルは騒然となった。
サウスの商人ギルドの上層部は全員処罰された上に、本件についてバロンに関係した貴族も例外なく粛清の対象となりセントラルの勢力図が大きく変化したらしい。
また、サウスの領主も今回の件に連座して粛清の対象となった。
実質的に空席となったサウスの領主にだれがなるかで揉めたそうだが、王の鶴の一声によりカインが領主となることになった。
当然のことながら不満を述べる者もいた。
しかし、カインがイースタンのミスリル鉱山を含めて自身の領地を返上した事や、今回のイースタンの陰謀に対する見事な対応の功績、そして、商人ギルドの上層部不在によるサウスの状況の複雑さから、カイン以外にサウスの領土を任せる大義名分がなく、さらに王命だったため誰もそれに反対することができなかった。
そしてカインはガイが立ち合いに勝ったことからトールへとんでもないことを頼んでいたのだ。
*
トールはカインの頼みを聞いたとき、血の気が引いた。
「…いくらなんでもそれは、考え直す気はありませんか?」
カインは彼にしては珍しく、威厳のある声でトールを見据えていった。
「武人たるもの、一度約束したことを違えることは叶わぬものではないのですか? 貴方は私に約束しました。ガイ君がマグニに勝利したら私達の願いは叶えると。」
トールが苦悩する…が、カインの真意に気づいて肩を落とした。
「分かりました…だが、これは私の一存では決められぬこと。そして…そうですね、今生の別れになるかもしれませんのであいつに別れを言わせてください。」
*
カインが王に謁見した際のとんでもない発言により、周囲は非常に動揺した。
彼は王の前で堂々と言い放ったそうだ。
「王は、私がもし背いたときにフレイを賜ってでも、私の反乱を止めようとされていたと聞きました。私はこれほど王に愛されていることに、いたく感動しております。つきましては、わが忠誠を示すため、フレイを妻とし、もし彼女と私に子ができましたらその子にサウスの領土を継がせたく思います。」
王都へ向かう中、カインに王が話していたことを伝え、自分の身を賭してでも何とかしようと思っていたフレイだったが、彼がそのような大胆な態度に出るとは予想できず、この時ばかりは色をなくして動揺した。
周囲の者達は失笑し、『カイン公は何と子供に対する情がない人間だ』という声が広がる。
だが、次のカインの発言により、それが間違いだったことが解った。
「そうですね、フレイに子供ができなかった時のことを考え、わが養女の夫となったマグニをサウスの後継者として、暫定的に教育をしたく思います。現在サウスの街は指導者達をなくして、政情が不安定となっております。彼がこの混乱を収めることができれば、将来的にサウスを任せるのも面白いかと。」
トールから良く言い含められていたマグニは、静かにカインのほうを眺めていた。
ただの力だけで戦うだけではなく、こうなった以上は今後はそういった戦いもしなければらないのだと…
周囲の人間は理解した…カイン公は今回の件は自分にも責任があると思っていて、その責をこうした形で取ろうとしているのだと。
その状況の中、最後にカインが提案したことを周囲は認めざるを得なくなった。
「そして、不肖の我が息子に関しては菲才の身ではございますが、経営や鉱山の管理をずっとさせてまいりました。つきましては商業ギルドで修行させたく存じます。」
ここぞとばかりにトールは、アルベルトの鉱山での見事な采配ぶりを説明し、周囲の人間もアルベルトの辣腕ぶりに感心した。
王はそれに対して、表情を変えず、一言だけカインに返した。
「好きにせよ、お前の息子のアルベルトは新しい商業ギルド長に任命する。」
謁見が終わった後、王は側近に漏らしたそうだ。
「やはりカインは恐ろしい男だ…彼はイースタンを手放して、自分が欲しかったそれ以上の物を全て手に入れていった…」
側近が微妙な顔をする。
「われらは彼が独占していたミスリルを手に入れて、彼に面倒なサウスを押し付けることができたではないですか。」
王が静かにかぶりを振る。
「愚かな…貴族どもは、尋問官だったフレイの情報を恐れて下手な動きはできず、しかも我が国随一の剣士とそれを上回る猛者がサウスにいるために、武力での制圧も難しい。そして、商業ギルドも彼の息子に掌握される…これ以上の完璧な状況があるものか。何がミスリルを手に入れただ。アケロスがサウスにいる以上、我らはその上前を撥ねるのが精いっぱいってところよ。」
側近はそれ以上何も言えず固まった。
王はそれでも…と穏やかな笑みをしながら呟いた。
「フレイにはすまないことをしたが…今となっては彼女を手元に置いて正解であった。あれがカインの元にいるだけでも数少ない歯止めとなろうて。」
*
それから少し時間がたった後、私達はカインとフレイから送られた早馬で、すべて上手く行ったとの連絡を受ける。
アルベルトとセリスはカインとフレイの結婚を祝うために王都へ向かうことになった。
街の人たちは私達家族がサウスへ行くのをとても残念に思ったが、王命のため仕方なく受け入れた。
私達の方はといえば、イースタンの街中にある燕月亭で、アケロスとクラリスと一緒に引っ越しの準備をしている。
アケロスは、セリスが商業ギルドでアルベルトと一緒に働けるよう、カインを通じてトールに頼んでおいたようだ。
アケロスが私と桔梗に耳打ちをした。
「実はな…セリスはミスリルの鍛造はできないけれど、ミスリルの金属の意思は読み取れるんだぜ。」
桔梗がなるほどという顔をしていた。
「セリスさんは、私があのミスリルの水筒で薬師の理力を発現させた時に言ってました。」
―凄いですキキョウ様、やっぱり薬師の理力をお持ちだったのですね!
なるほど…やっぱりということは、二つ考えられるということか。
桔梗が薬に精通しているから理力があると考えた場合の”やっぱり理力を持っていた”。
桔梗の薬師としての理力があることを感じることができたから、の”やっぱり理力を持っていた”。
セリスの場合は後者だったというわけだな。
と…いうことは、アケロスはまさか…。
「カインの奴がアルベルトを商業ギルドのほうにもっていきたいと言っていたからな、セリスにミスリルの買い付けができるように俺が指導してやるのさ。」
「アケロス…セリスと一緒に過ごす時間を増やしたいからとかじゃないよな?」
「馬鹿野郎! 俺はまじめに言ってんだ。まあ…ちっとは考えたけどな。」
―考えたのかよ…
呆れた顔をする私と桔梗にアケロスが問いかけた。
「それで、お前らは何をトールに頼んだんだ?」
私達は答えた。
「「アケロスとクラリスさんと一緒に、サウスに新しい燕月亭と鍛冶場を作って一緒に住むってことです。」」
アケロスは嬉しそうに笑いながら私たちの頭を撫でた。
「全くよ…お前らは欲がなさすぎるぜ。」
クラリスはそんな私たちを抱きしめて言った。
「サウスでも一緒に楽しく暮らしたいものね。」
私と桔梗はそんな二人の顔を見て嬉しそうに笑った。
本作を読んでくださりありがとうございます。
これにて第二章が完結しました。
文書校正やプロットの見直しなど色々とありましたが、
書ききれたのは皆様のおかげだと思っております。
ブックマークされた方々や、感想や評価をくださった方々、
そしてこの作品を読んでくれた人たちのおかげでモチベーションを維持できました。
第三章はサウスの街が舞台になります。
少しプロットを書くので更新に時間はかかると思いますが、
しっかり進めていこうと思いますので、本作を今後ともよろしくお願いいたします。
最後になりますが、いつものお願いになります。
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