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アルベルトとフレイ

このひとつ前の話「マグニとアケロス」ですが、

マグニ年齢が22歳で考えていたのに、16歳の頃から8年間と書いてしまっていました。

16歳のころから6年間に修正してあります。

大変申し訳ありません。

アケロスがマグニと色々としていた頃。


アルベルトがフレイと二人で話したいと希望したので、

カインはフレイを屋敷に招くことにした。


 *


屋敷の一室でフレイとアルベルトが二人っきりになる。


フレイがアルベルトに聞いた。

「それで、私に何を話したいのだ?」


アルベルトはそれには答えず微笑しながら、紅茶をフレイに勧めた。

「そうですね、少し紅茶でも飲みながらお話でもしませんか?」


部屋の空気が少し気まずい、フレイが訝しげな眼でアルベルトを見続けているからだ。

だが、アルベルトはそんな彼女の目が、以前あった時に比べて少し変化があったことを感じた。


フレイがアルベルトに問いかける。

「話だと? 何を話すのだ…婚姻の後見人のことか。」


アルベルトが穏やかな顔をしながら、フレイを見て言った。

「ええ、そういった話や少し昔の話でも。」


フレイが納得したような顔になった。

「なるほど…お前の母の話がしたいのだな。単刀直入にそういえば良いものを。」


部屋の空気が一段下がった。

アルベルトは少し考える、彼女が本質的なところで人を拒絶するのが何故かは()()()()()()()()

だが、それは彼女のせいではない。彼女の周りの人が彼女をそうさせたのだ。


アルベルトが少し寂しそうな顔をする。

「私は、元服の時やその直後にイースタンにフレイ様が視察に来られた時に良くしていただいたので、別にその話だけをしたかったというわけではないんですが…私にとってあなたは叔母のようなものでしたので。」


フレイが冷笑を浮かべる。

「馬鹿馬鹿しい、お前の母は私のことを憎んでいただろうに、よくもそんなことが言えたものだ。」


そう言いながらも、フレイはアルベルトに聞いた。

「お前の母…いや、クレアは病で死んだということだが、その死んだ時のことを教えてくれるか?」


アルベルトは静かに答えた。

「そうですね…母は苦しそうではありましたが、父に言っていました。貴女はいつも私を優しく労わってくれていたと、私は幸せだったと…。」


フレイは静かに首を振った。

「すまない…辛いことを聞いたな。」


「いえ…かまいません、その後のことを続けてもよろしいでしょうか?」


アルベルトは懐からフレイに手紙を手渡した。

「母は私にフレイ様がこのイースタンに再び来ることがあれば、これを必ずお渡しするのだと言っていました。…そうですね、とても大切なことだったのでしょう。今際の際だというのに、私の手をとても強く握ってそう言い残した後、穏やかな顔で逝きました。」


フレイが手紙を受け取る。

「ほう…あの女が私に? 恨み言でも書いてあるのかね。」


「どうでしょうね、貴女はそうではないということをよく知っているのでは?」


「馬鹿な…なぜそう思う?」


アルベルトは周囲の気配を確認して誰も近くにいないことを確認した後にフレイに耳打ちした。

「私は母から貴女の出自など、すべてのことを聞いております。その上で、貴女と話しているからです。」


フレイの目が再度冷徹に変わり、そしてさらに部屋の空気が冷たくなる。

「それで、それを知っているお前がどうしてそんなに冷静に私と話していられる? トール曰く出来人ということらしいが、腹の中では何を考えているかわからぬな。」


アルベルトは一瞬悲しそうな顔をするが、フレイをまっすぐ見て諭した。

「私が何を考えているにせよ、判断をするのはその手紙を見てからにしませんか。証拠を見ずに憶測で判断するというのは、貴女らしくないのでは?」


アルベルトに諭されたフレイは手紙を開けることにした。

ほんの手のひらサイズの飾り気のない封筒、だがそれはこの二人だけの部屋の中で大きな存在感を放っていた。

フレイは意を決して二年間開けられることがなかった手紙の封を開けた。


 *


―手紙にはこう書かれていた。


この手紙があなたの手に届いているということは、私はもう死んでいることでしょう。

そして、貴女が再びイースタンに来ることが出来るようになれたということか、反乱の嫌疑をかけられてカインが投獄されるようなことになったということでしょう。

私はできれば前者であってほしいと思うけど、もし後者だったとしても私はあなたに伝えたいことがあるの。



~もしも私に対していくばくかの責任を感じるこころがあるのであれば、カインがどんな状態であろうと彼と結婚しなさい~



私は確かにあなたの素性を調べてしまったがために全てを失ったわ。

でも、カインはそんな私を全力で愛してくれた。あなたの影が見えないくらいにね。

だから先に言っておくわね、私達の恋の勝負は私の勝ちよ。

恐らく私が死んでもカインは私のことを忘れないでしょう。

それに、私たちにはアルベルトという、とても素晴らしい息子ができたのだから。


でも、貴女は駄目ね…過去や自分の素性に縛られてまったく前に進めていない。

きっと私が死んだ後も同じように何かと理由をつけて自分で自分を縛るでしょう。

フレイ、私はそれは大きな間違いだと思うの。


貴女の出自は確かに大変なことだけれども、それは貴女自身のせいでない。

そして、それを理由にカインがあなたを選べなかったと思っているなら、それはあまりに馬鹿げているわ。

あの人は、そういったものをすべて乗り越えてでも自分が護りたいものを救いに行く人だもの。


それにね、あなたは生まれながらにすべてを失ったと思っている。だけど、私は生まれた後にあなたに関わったことで、一度カイン以外のすべてのものを失ったわ。


本当なら貴女にカインを渡したくはないけれど…もう時間がないみたいね。


あの人ってなんだかんだで優秀だから、私が死んだら後妻を取らされるでしょうね。

きっと私のことや急激に発展したイースタンの件があるから王の息がかかった人が選ばれることになることでしょう。


だから責任をもって、王の子供のあなたが妻になってあの人を守りなさい。

王の毒牙からあの人を守ってやれるのは貴女だけなのだから。


そして、アルベルトのこともお願いね。

あの子、元服の儀式であなたにあった後のことを話していたけれど、あんなに立派な人はいないって褒めていたわ。

きっと貴女が後妻になれば母として慕うでしょう。


フレイ…月並みな言い方だけど、幸せになるのに遅すぎることはないわ。

だから、もう自分を許してあげてね。


クレアより、親愛なるフレイへ



手紙の最後のほうは、病で苦しかったのか字が震えていた。

だが、それ故か、とても強い意志を感じさせる。


フレイは手紙を読み終えた後、静かにアルベルトに問いかける。

「お前はこれを読んだのか?」


アルベルトは頭を振りながら答えた。

「母より貴女以外には見せるなと…ですが、おおよその内容は推測できます。」


フレイが何とも言えない顔をしながら嘆息する。

「クレア、お前は…本当に馬鹿な女だよ…」


そんなフレイにアルベルトが尋ねた。

「キキョウさんのお話を聞いてどう思いましたか?」


フレイは少し思案する…そしてその結果を伝える。

「あの娘の生い立ちや生き方も大概だとはおもう。だがな…どんな状況でも、自分の気持ちを絶対に曲げずに好いた男と一緒に居続けたという点では大したものだと思う。それが故だろうな、彼女が最後には幸せになったというのは。」


アルベルト微笑しながら試すようにフレイに言った。

「貴女はそうなれる自信はありますか?」


フレイはそれには答えず聞いた。

「お前はもし私がカインの後妻になったとしたら私のことをお母さんとでも呼ぶのか?」


アルベルトは静かに笑って言った。

「もちろんですよ。恐らく私の妻もそう呼ぶと思います。」


フレイが困ったような顔で言った。

「まだ男も知らず、子供すらいないのにもうお母さんか…人生というのは分からぬものだ。」


先ほどまで静かでそして冬のような空気だった部屋が、春の雪解けのようにやさしくそして暖かくなったのをアルベルトは感じた。

過去は過去と割り切るのは難しい。

でも、母は父にこの上なく愛されていて、私は父に愛されていた。

そしてこの人はこの人で父のことを愛していたのであれば、やはり幸せになってほしい。


フレイが部屋を退出する際に優し気な顔でアルベルトに伝えた。

「お前はカインとクレアの両方によく似ている。そしてその性格はきっと二人の良いところを受け継いだのだろう。だから…私もお前が好きだよ。」


アルベルトはとてもうれしそうな顔をしてフレイに深く礼をした。

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