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マグニとの手合わせ

トールとマグニは、立ち合いについての約束を果たしてもらうために、カインの屋敷へ赴いた。


カインは立ち合い場所をイースタンの門前にしようとトールに提案した。

「十分な広さと、皆が見える場所のほうが良いのではないでしょうか。」


「なるほど、確かに広場では狭すぎるな。マグニ、それでいいか?」


「ああ…かまわないぜ」


アケロスがトールに問いかけた。

「さて、こちらはそちらの要求は聞いたら、そちらはこちらに何の見返りをよこしてくれるのか?」


トールが答える前にフレイが言った。

「それは勝者が決めることであって、まだ貴公らは勝ってはおられぬだろう?」


カインもそれに同意した。

「そうですね、勝利した時にこちらが希望を伝えるということでよろしいでしょうか?」


トールとフレイはそれに頷き、トールが条件を付けくわえた。

「マグニの個人的な強さは国でも一番二番を争うほどだ、それに勝つとするならば…そうだな、カイン公と、アケロス殿、そしてそこの少年少女…そしてアルベルトの願いをかなえてやろう」


 *


私とマグニはイースタンの門前で対峙した。


街の皆と討伐軍の兵士たちが私たちの立ち合いを見ようと門外に集まっている。


私はミスリルの戟を構え、ミスリルのマントを翻す。

マグニはミスリルのロングソードを構え、軽装ながらも薄いミスリルの肩当と胸当てを優しく軽く手で叩いた。


―ふむ、彼にとって防具や剣が戦友というものか。


あの愛で方は一緒に戦ってきた友を労っている。そういった想いだろう。

武具や防具をあれほど愛するということならば、きっとそれに武器防具は応えてくれる。

彼は典型的な武人なのだろう。


マグニの身長は背丈は一メートル九十センチほどといったところか。

おおよそ私よりも二十センチは高そうだ。

茶色の短髪に青い目をしており、よく鍛えられた体をしている。



私は戟を中断に構え、マグニを見据える。

マグニは両手でロングソードを構えた。


そして、トールが腕を振り下ろし、立ち合いの開始が告げられた。


 *


―まずは一合と行こうじゃないか。


双方ともに動きを止めて、間合いを測る。

ロングソードは確かに長いが、戟ほどではない。


マグニが間合いに入りそうになった瞬間、私は突きを出して牽制した。

彼は少し後ろに下がって、自分の間合いに持ち込むタイミングを狙い続ける。

マグニのロングソードが私の間合いに入った瞬間、私は戟を突き出し引き戻した。

ロングソードが戟に引っかかるが、その瞬間にマグニが動く。

私は、戟を右に捻ってロングソードをマグニの手から飛ばそうと図るが、彼はその勢いに逆らわず、そのまま側方に回転して私の右背後に着地する。

マグニが剣にかかる力を自然に流した為、ロングソードが戟から離れた。

マグニは私の脇腹めがけて水平切りを放つが、私は戟を地面に突き刺して上方へ飛ぶ。

彼の剣が戟の柄に当たると同時に私は彼の額を蹴り飛ばして距離をとった。


マグニが嬉しそうに笑っている。

「ハルバードのような武器だな。弱兵が使うと大したことはないが、お前のような奴が使うと厄介なものだ。」


そして、彼が静かに剣を握りなおす。


彼の愛剣はそれに応えるように淡く光り始めた。


 *


討伐軍の兵士たちが騒めき始める。

「親善のための立ち合い…だよな? 副隊長が本気で理力を込めている。あの少年は死ぬかもしれないぞ。」

「トール隊長! さすがに親善試合でこれはやりすぎでは?」


トールが兵士たちを一喝する。

「何を寝言を言っているのか! 強者同士の立ち合いとは、本来は殺し合いというもの。貴様らは教練中に敵に出会ったときに、今は教練中なので殺し合いはしません…などと戯けたことを抜かすのか。」


トールはカインとアケロスの方を見たが、彼らは静かに頷いていた。


桔梗は少し冷めた目をして、アケロスにそっと呟いた。

「ああやって強い人が出てくると、凱さまって子供みたいに喜ぶんですよね…」


「ガイって、そういうところありそうだよな。普段は理性的に見せているけど、中身はどう見ても戦闘が大好きですって感じがするからな。」


「お父さんは、良く凱さまのことを見てますね。」


「まあ…良く見なくても、あいつは分かりやすいがな。」


 *


―どこかで私の噂をしているようだが、第二合と行こうか。


マグニの目が変わったということは、大体こちらの間合いが分かったということだろう。

ではこういうのは如何かな?


マグニが間合いを詰め、ロングソードが間合いに入った瞬間、私は剣に戟を当て、そのまま素早く彼の右足へ薙ぎ払いを仕掛ける。

マグニは当然のことのように足を持ち上げて薙ぎ払いをかわし、私に袈裟切りを仕掛けた。

私は薙ぎ払いの勢いに任せるままに右前方へ体を翻して斬撃をかわし、そのまま戟の柄を回転させて石突を彼の胸元に叩き付けて間合いを取る。


マグニが石突の衝撃で呻いた。

鎧をしているとはいえ、直接的な衝撃はやはり胸元に響くだろう。


マグ二が私の顔を見て本当に嬉しそうな顔をしている。

「お前も随分と楽しそうな顔をしているな。やはり同格の強さの奴がいなければ、修練の楽しさなど半減するものだからな。」


―思えば隠遁生活に入ってからはこういった直接の戦いはなくなった。

だからかもしれないな、強者と出会えた時にこうやって心が躍ってしまうのは…。

心のどこかで、またこうやって自分の力を出し切れる相手と立ち合いたいと願っていたのだ。


私はマグニに笑い返した。

「難儀なものだ、せっかくの平和を楽しみたいと思っても、強者と出会うとどうしても心が昂る。」


 *


桔梗がアケロスにまた呟いた。

「ああなると、もう駄目ですね。歯止めが利かない状態です。」


アケロスが桔梗の頭を撫でながら呟いている。

「あの顔はもう楽しくて仕方がない顔だ、お前は本当に苦労したんだな…」


カインが苦笑しながらアケロスを見て言った。

「君がいつもしてることを考えると、そんな風に人のことを言える立場ではないと思うのだが…」


アケロスは、そんなことは無いという顔をして桔梗の頭を撫で続けた。


 *


―第三合、そろそろお互いに慣れてきた頃か。


さて、これに対してはどう来るかな?

私はマグニの頭めがけて戟を振り落とす。

マグニは首を軽くかしげて頭への直撃を回避すると同時に、戟の月牙にロングソードを引っ掛けて振り上げた。

そして、ものすごい力で戟ごと私を引き寄せ、蹴りを入れて体勢を崩そうとする。

逆に私は引き寄せられる力を利用し、ロングソードを支点に前方に宙返りして彼の後ろに降り立ち、そのまま彼の背面から突きを放つ。


―通常であれば、ここで勝てているが()()()()はそんなに甘くはない。


マグニは私のほうを見もせずに、後ろ手に剣を下ろし私の突きを防いだ。

そして、身を翻して、私から間合いを取る。


 *


マグニは笑みを浮かべながら私を称賛する。

「今のはさすがに危なかった。こいつが守ってくれなければきつかったよ。


私もマグニ()を讃えた。

「ほう…大したものだな、そこで剣が守ってくれると信じているとは。」


マグニが剣を見ながら微笑する。

「こいつは、アケロスさんが俺のために作ってくれて、ずっと一緒に戦い続けた戦友だからな。」


 *


―さて、第四合、そろそろ本気で行きたいところだ。


マグニの目が光り、ロングソードがまばゆい光を発した。

そして一気に距離を詰めてくる。

私はマグニが間合いに入ったところで突きを放つが、彼は見事な剣さばきで戟の刃を叩き、そのままの勢いで剣を回転させて私の首筋にカウンターを仕掛ける。

マグニは会心の笑みを浮かべたが、私は戟を叩かれた勢いを利用して柄を押し上げ、石突でロングソードの刀身を殴りつけた。

マグニは驚愕の顔を浮かべつつも、そのまま切り返しに移ろうとした。私はそれを先読みして、彼の腕をつかんで引き倒す。

バランスを崩し、そのまま倒れこむマグニへ戟を回転させて刃を振り下ろす。


 *


トールが思わず私の勝利を宣言して動きを止めようとした。


だが、マグニが叫んだ。

「まだ終わってはいない、止めるな!」


―その言葉通りに彼の手が振りあがる。


ロングソードが絶妙な位置で盾となって私の攻撃を止めた。


私はあえてマグニから距離を取り、彼に立ち上がるよう促した。


彼は静かに立ち上がり、私のほうを見つめている。


私は彼に問いかける。

「まだ、やり足りないことがあるのだろう? そんな顔をしている。」


マグニはとても良い顔をしながらロングソードを撫でて私に言った。

「そうだな…温情をかけていただき礼を言う。まだ、こいつがやり足りないと言っているのでね。」


 *


―次で勝負を決めるか。


彼の顔がそれを物語っている。

私は彼と本気で打ち合いたいと思い、戟を刀に変えた。


マグニが感心して私に言う。

「まさか…武器まで変化させるとは、本当に化け物だな。そしてそれがあんたの真の得物か、なめられたものだ俺も。」


私はそれには答えず、静かに刀を抜いた。


マグニが気合をいれ、ロングソードを力強く握る。

彼の剣がさらに輝きを増し、彼は人間離れした動きで私の懐に飛び込んできた。

彼の両手から放たれる切下ろしを、私が刀で受け流すと、さらにそこからかち上げを仕掛けてくる。

私はそれを刀振り下ろして流すと、彼はそのまま剣の柄で私の顎を狙ったが、私はすかさず後ろへ飛びのきその力を逃がした。

マグニがバランスを崩しながらも体勢を整えようとする。

そして私はその一瞬の隙の間に刀を鞘に納めた。


マグニはなんとか体勢を持ち直して、私の首めがけて水平切りを仕掛けた。

私は居合を放ってロングソードを下から弾き、そして、渾身の力で二の刃をロングソードへ放つ。

さすがのマグニも二の刃を防ぎきれず、ロングソードが彼の手から離れた。



勝負がついたことを悟ったトールは手を挙げて宣言した。

「勝負あり、勝者はガイ君だ…。」

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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