フレイへの献策
フレイが思わず私のほうを見た。
「ガイ…と言ったな、自分が言っていることが分かっているのか?」
私は部屋の中にいる全員に、この献策の説明をすることにした。
*
―まず、サウスの領主はこの陰謀を知っていたに違いない。
陰謀の規模からいって、サウスの領主がこの陰謀を知らないわけがない。
陰謀など知らないと白を切ったとしてもサウスの街の商人ギルドが雇った賊がイースタンを襲っただけでもかなりの失態だ。
ましてイースタンの女子供を奴隷に落として南方へ送るなんてことは領主が目をつぶらない限り出来るはずがないのだ。
だからこそサウスの領主も商業ギルドに連座して責任を取らせるという大義名分はある。
―次に、イースタンを直轄領にすることについては問題ない。
採取したミスリルの鉱石を国が管理して卸す形にすれば良い。
国はミスリルの鉱石を卸すことで収益を得ることになる。
そして、カインを国が警戒するならば、カインにミスリルの鉱石を売らなければよいのだ。
―最後に、サウスの街にカインが領主として赴任する。
恐らく、商業ギルドを処罰すると物流などに影響が出て問題が発生する。
だが、ミスリルがあったとはいえイースタンをここまで発展させたカインの手腕はかなり高いものと思われる。
そして、超越者とはいえ、実力があるものを登用して戦場を一任できるという度量がある。
彼は、きっと私情に走らず、商業ギルド内の有益な人物を取り立てて、サウスの街を復興することができるだろう。
―ミスリルの選別できるアケロスもサウスの街に来てくれるだろう。
彼は私達に言った。この街を捨ててでも養子にする覚悟があると。
そして彼は自分の家族のことは身を挺して守りきる男だ。
私と桔梗、そしてセリスもサウスの街に行くとなれば、クラリスと一緒にサウスの街に来てくれると信じている。
そうすれば、ミスリルの選別が出来る上に鍛造もできるアケロスの元、サウスの街はミスリル加工で一大産業を築くことができる。
*
私の献策を聞いたフレイは考え込むようにしてアケロスに問いかけた。
「イースタンの至宝とまで呼ばれたあなたが故郷のイースタンを捨てるなんてことができるのか?」
アケロスは私たちを見てしばらく考え込んだ…そして何か気づいて私に問いかけた。
「ガイ…お前は祭りの後、イースタンの街の奴らに慕われていていて幸せそうな顔をしていた。サウスの街に俺たちが行くということはあいつらと離れるってことになる。本当にいいのか?」
桔梗が私のほうをじっと見ている。
彼女の言いたいことはわかっている
―誰が為の献策か? そう”お父さん”は聞いている。
私はアケロスの問いかけに答えた。
「私はイースタンの地が確かに好きになった。そしてそこで暮らすのも悪くはないと思った。でもこのままではいつかイースタンは戦乱に巻き込まれてしまう。今回はたまたま勝利することができたが、このまま続ければ死者が出はじめ、最後にはイースタンは欲の塊につぶされる…そうなりたくないという思いもあった。」
アケロスがさらに聞く。
「それは前の世界でやっていることとあまり変わらねえな。自分が全部背負ってそれを何とかしようとしている。だが…”という思いもあった”ってことは、ほかに何か考えがあるんだろ? 聞かせてみな。」
私は意を決して答えた。
「私は、頑固なアケロスと優しいクラリスさん、さらにセリス姉さん、そして何より桔梗と幸せに暮らしたいんですよ。だからそれだけは私自身のために絶対に守りたい。それ以上の贅沢は望まなくてもいいかな…と。…無責任なように聞こえるけどそれが本音なのさ。」
アケロスが優しく笑いながら私の肩に手を置いて言う。
「頑固は余計だ。俺は前に言ったよな? お前は少し気負いすぎると。民だのなんだのそんなものはカインに背負わせとけばいいんだ。」
カインが苦笑しながらアケロスにぼやいた。
「君も、ガイたちの養父なんだからもっとしっかりと背負ってほしいね。」
アケロスがカインのぼやきを無視してフレイに言った。
「俺は、カインがサウスに赴任するように取り計らってくれるなら、別にイースタンから離れてサウスに行っても良いぜ。」
そして…小さな声でフレイに頼む。
「でもなセントラルに単身赴任は駄目だ。愛しい嫁さんと、可愛い娘二人…ついでにガイも一緒に居なければ俺は嫌なんだ。それくらいの贅沢は聞いてくれるよな?」
アケロスの願いに苦笑したフレイはカインに問いかけた。
「まあ…アケロスたちの気持ちは決まったようだ。カイン公、あなたにその覚悟はあるか?」
カインは深く頷いて感慨深く昔を思いながら、フレイの問いに答える。
「私がこのイースタンに赴任してから大分経ちました。最初のころに比べて街は豊かになり人々も笑顔で生きることが出来ています。だから、私がサウスに行ったとしても民たちは幸せに暮らすことはできるでしょう。」
「サウスは南方との交易でかなり重要な拠点でもある。そこの領主になるということは今まで以上の困難を伴うかもしれぬのだぞ?」
「どのみちガイ君たちがいなければ、我々はジャン達に殺されていたでしょう。一度死んだと思えば何とかなるものですよ。」
フレイが何かを考えて逡巡する…そして意を決したように伝えた。
「そのためならどんなことをしてもかまわないな?」
カインがあっけにとられたような顔をしてフレイを見てそして強い意志を込めて答える。
「貴方がそういうことを言うということは、よっぽどのことですね…覚悟しておきます。」
フレイが一瞬ギラリを目を光らせてカインの顔じっと見つめたが、すぐに冷静な表情に戻した。
桔梗のほうを見ると何かを察した目をしながらフレイを見つめている。
―何かものすごく嫌な予感がする。
だが、今はそれに気を取られているわけにはいかない。
バロンの取り調べを終わらせて、この一件を終わらせる必要があるからだ。