追われる商家風の男
凱や桔梗は異世界に来たばかりなので異世界の言葉がわかりません。
第一章は、前の世界の言葉は『』、異世界の言葉は「」で書くようにしています。
校正完了しました(2020/5/17)
私は桔梗がある程度落ち着いてきたところで、現状について確認することにした。
「さて桔梗、ここがどこだか分かるか?」
「いえ、まったく見覚えがない土地としか…」
周りはそこそこ草の丈があるのに整地がされている道があるということは、この道を進むことで集落か街があるとは思う。
とりあえず、道沿いに進んでみるかと思案しているところで…何かの気配を感じた。
―これは”誰か”が危険な”何か”から必死に逃げる気配だ。
この感じ方からすれば、まもなくこちらへ向かってくるだろう。
桔梗も当然ながら気づいたようで、緊張した面持ちでこちらを見ている。
私は腰に刀がないことに気が付き、桔梗へ確認した。
「桔梗、お前は武器を持っているか?」
桔梗が申し訳なさそうに私に答える。
「いえ、あいにく持ち合わせてはおりませぬ。」
―だが、歴戦の兵の私たちにはそういったことはあまり問題ではない。
桔梗の目は言葉よりもそれを語っており、私はすぐに指示を出すことにした。
「そうか…ならば礫を使うしかないか。」
「そうですね。」
追われる気配が近づく中、私達は手ごろな小石を懐に入れて左手に砂を手に握りこんだ。
*
それから間もなく、商家風の男が薄汚れた3人の男に追われてこちらへやってきた。
商家風の男は私を見るなり怯え切った表情で何かを叫んでいる。
『~!!~~!?』
―何を言っているのかは解らないが、必死に助けを求めているのは解る。
「いかが致しますか?」
こちらを見ながらも、もう助けようとしている桔梗に私は叫んだ。
「知れたことよ…桔梗!」
桔梗が街道脇の草むらに音もなく隠れる。それと同時に私は先頭にいる薄汚れた男のこめかみへ向かって軽く礫を投げた。
*
商家風の男が慌てながらも私の背に隠れる。
特に男からは殺気も害意も感じなかったため、敵ではないと判断して私は一歩前に出て薄汚れた男を見る。
―夜盗…のように見えるが…この世界でも追剥のようなものを業とする者がいるのだろうか?
身なりは汚いが、持っている武器はそこそこに手入れをされた曲刀で、どこか不釣り合いにも感じる。
こめかみに当たった礫のせいで、顔をしかめながらも、その瞳は私に対する怒りで染まっている。
商家風の男よりも邪魔な私を先に始末したくなったようだ。
「どちらに非があるのかは分らぬが…まずは火の粉を払うとするか。」
男たちの正面には私、そしてその後ろには追われていた男。
礫を投げた瞬間に桔梗は草の陰に隠れてるため、男たちは桔梗に気づいていない。
先頭にいた男が私に切りかかろうとした瞬間、ヒュッと風を切り裂く音がして側面から礫が飛んでくる。
「…相も変わらず良い腕よ」
私はそう呟きながら、側頭部に礫が当たって怯んだ男の首筋に手刀を叩き込んで気絶させた。
男から曲刀を奪い、側方に気を取られて反応が遅れたもう一人の男の顔へ砂を投げかける。
目潰しをくらった男が動揺した隙に曲刀の峰で籠手を打って武器を落とさせ、返す刀で首筋を峰打ちし意識を刈り取る。
最後の一人は、状況を見てこちらに敵わぬと見るや全力で逃走を図った。
―が、我が忍びはここで逃走を許すほど甘くはない。
草むらから放たれた礫が容赦なく男の後頭部を直撃する。
平衡感覚を失った男の足を草むらから飛び出した桔梗が払って、男を地面に叩き伏せた。
*
男たちを片付けて拘束しようとしたが、手ごろな縄が無かった為、男たちの衣服を曲刀で切り裂いてその布で後ろ手に縛りあげた。
男たちを縛り上げた後、振り返って商家風の男を見ると…
彼は歓喜の表情を浮かべており、ひざをつきながら両手を合わせてこちらを拝んでいた。