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バロンの誤算

フレイがイースタンからの使者から街の様子について聞く。

「食料を急に買い漁っているようだが、イースタンではいったい何をしているのか?」


彼がフレイに笑みを浮かべて答える。

「それは、王都より遠路はるばるイースタンまで来て下さった遠征軍を歓迎するための祭りの準備をしております。」


フレイが混乱して使者を問いただす。

「何を言っておるのだ? なぜ我々を歓迎せねばならぬ。」


彼は申し訳なさそうにフレイの問いに答える。

「まことに恐れ多きことながら、イースタンに攻め寄せた賊は、先にフレイ様に謁見した使者が申した通り討伐済みにございます。無用の遠征をさせてしまったことに対し、カイン様がせめてもの歓待をしたいと考えられたのです。」


フレイは使者の返答を一笑に付した。

「馬鹿なことを言うな。まさか、200もの賊と黒狼のジャンを我らが来る前に撃退したというのか?」


使者は真面目な顔をして答える。

「そのまさかにございます。そして、フレイ様へのカイン様からの親書も預かってございます。」


フレイが信書の中身に目を通し、ある一文を読んだ瞬間に固まった。


そして使者を一瞥すると、トール達へ告げた。

「どうやら、我々は何かの陰謀に巻き込まれているかもしれぬ。」


いち早くトールがフレイの表情を読み取った。


―あの冷静なフレイが動揺している。


思わずトールがフレイを問いただす。

「どうしたというのだフレイ、何が書いてあったというのだ?」


フレイはそれには答えず、マグニに問う。

「マグニ、お前だったら100人のイースタン兵を指揮して蛮族200人とジャンを相手に死者なく勝てるか?」


マグ二が質問の意味を察して答えた。

「そうだな…少しきついと思うぞ。なんせ門とイースタン兵をかばいながら戦わなければならないからな。俺一人で時間無制限でやらせてくれるなら()()()()()()()()が、敵の数が多いからどちらかの相手をしている間に門を破られると思うぜ。」


フレイがトールとマグニの双方を見ていった。

「その出来ないことをやったとカイン公は親書に書かれているのだ。」


トールが使者のほうを見て問いかける。

「カイン公は気が狂われたのか?」


主君を気が触れた者扱いされて使者が激怒した。

「トール様は我が主君を侮辱なされるのですか! たとえイースタンが辺境の領土とはいえあまりなお言葉、それほどまでに疑念をいただかれるのであれば、イースタンの街へ来ていただき、カイン公と直接お話をしなされ。」


フレイがひとまず使者を宥めてとりなすことにした。

「本件の真偽はともかく、アルベルトとセリス嬢の婚姻の後見人には私がなろう。」


使者がフレイに深く礼をする。

「尋問官、及び王国騎士の前で礼を失する態度をとりました。いかように処罰して下さってかまいません。」


フレイはそれには及ばずと使者を下がらせ、バロンの目を氷のような目で射抜いた。

「バロン…これでイースタンについて何もありませんでしたなんてことになったら、わかっておろうな?私が貴様を騒乱罪…いや内乱罪で告発することになるからな。」


バロンは蛇に睨まれた蛙のような顔でフレイの視線に怯えて弁明する。

「そそ…そのようなことがあるわけがありません、被害も出さずイースタンが勝利するなどど…マグニ様もおっしゃっていたではありませんか、自分にも無理だと。マグニ様ができないことをイースタンができるわけがございません。」


マグニがジロリとバロンを睨んで言った。

「出来ないじゃなくて、イースタンの弱兵をかばいながらは難しいということだ。」


トールがマグニの肩をたたいて皆を諭した。

「とりあえずイースタンに到着すればすべて分かるものだ、見えない物を想像して騒いだところで始まるまいさ。」


 *


討伐軍がとうとうイースタンに到着した。


イースタンの街から歓声が上がる。

そして、衛兵たちが威勢の良いラッパを吹き討伐軍…いや遠征軍を歓迎した。


イースタンの街の門からカイン、アルベルト、そしてアケロス、アケロスの娘、そして見慣れない白銀のマントを羽織った二人の少年少女が出て来て()()()を出迎える。



カインがトールとフレイに深く礼をして感謝の意を述べた。

「王都からの遠路はるばるイースタンまで援軍に来ていただきありがとうございました。」


トールが全軍の停止を命じる。


軍靴の規則正しい音が止まり、イースタンの街からの歓声と美味しそうな食べ物の香りだけがそのまま残った。


フレイがカインに挨拶をする。

「カイン久しいな。奥方のことは残念だったな。」


「お久しぶりです、フレイ様。そうですね、2年前の流行り病で亡くしてしまいました。」


そしてフレイが穏やかな顔でアルベルトとセリスを見て言った。

「あのアルベルトが立派になったものだ。王都での元服の儀で最後に見たときが十五といったところだったか? そしてあれがアケロスの娘か、なかなか良い夫婦になれそうではないか。」


「そうですね。あれからフレイ様にあっておりませんでしたので、とても喜んでおります。二人の結婚の後見人になっていただけると使者より聞きました。感謝いたします。」


挨拶を済ませたフレイが尋問官の冷徹な顔に戻りカインを問いただす。

「さてカイン公。賢明な貴公であれば、今回我々が来た真の意図について理解しておるのだろう?」


カインが穏やかな笑みを浮かべながらフレイの問いに返答した。

「もちろんでございます。イースタンにかけられた陰謀に乗せられてしまい、賊が我がイースタンと組んで王都に反乱を起こした…とでも我々を邪魔に思う輩が企んでいる。…といったところでしょうか。」


フレイが忌々しそうな顔を一瞬した。

しかし、今までの経緯とイースタンの街の状況を見て、自分たちは無用の兵を出してしまったと察した。


そしてトールに告げた。

「ひとまず、イースタンの歓待を受ける。そして…バロンを騒乱罪で取り調べる。」


バロンが狼狽えて逃げようとしたが、マグ二がすぐに取り押さえて言った。

「まさか俺から逃げられるとでも思っていたのか?」


バロンが必死にフレイに懇願する。

「おお…お待ちください、何か…何かの間違いです。こんな馬鹿なことがあるはずがありません。賊どもが確かにイースタンに集結していたのです。」


カインがバロンに静かに答えて木箱を目の前に置いた。

「確かに賊はイースタンを襲った。そして蛮族は現在罪を補うために鉱山で働いている。そしてな…。」


バロンの前で木箱を開けて塩漬けの首を転がした。

「これがなんだか分かるかな?」


バロンが驚愕の顔で後ずさりして呟く。

「ば…馬鹿な…こ、こんなことが…」


フレイやトール、マグニもその首を見て息を呑んだ。


それはまさしく黒狼のジャンの首だったからだ。


バロンが激しく狼狽して呟く。

「そんな…まさか…まさか…イースタンは、本当に…」


カインがバロンを一瞥してバロンの言葉の先を続けた。

「そのまさかだ、イースタンは戦いに勝利してこうして残り続けている。」


バロンは激しく後悔した。


―すべて上手くいっていたはずだったのに何故?


上手くいっていたと思っていたのは自分だけで、実際は何もかも失敗していたのだ。


―どこで…どこで計算を誤った?


ありえないはずの失敗、そしてこれから払わねばならぬ代償。


それは自分を冷たく射貫くフレイの視線、そしてトールやマグニ達を含めた討伐軍全体のの怒りを込めた視線がすべて物語っているようだった。


カインは穏やかな声でフレイとトール達に歓待の意思を再度伝える。

「この男の取り調べは任せます。ひとまず遠路はるばる来た貴方達を歓待させてもらえないでしょうか。」


フレイ達はバロンを一瞥すると、カインに深く頭を下げ了承した。

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平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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