金属札の力
この話から第二章となります。
文章校正しました。(2020/5/19)
アルベルトとセリスの結婚式から数日後、
私と桔梗はアケロスとともにカインの屋敷に呼ばれた。
応接室に通されるとカインとアルベルトが部屋にいる。
カインは私達に深く礼をした後、私と桔梗の手を握って感謝した。
「今回の件は本当に助かった、君たちが居なければイースタンの街は壊滅していただろう。」
そして私達の首元で光る金属札に視線を向けた後、アケロスに話すよう促す。
アケロスが私達の方を見て頭をかきながら、苦笑しながらプレートについて説明する。
「ああ、そういえば言っていなかったな…その金属札は理力を込めると他の国の奴らとも意思疎通できし、会話とかも簡単にできるんだぜ。」
私と桔梗が顔を見合わせてアケロスを見た。
アケロスが当然だという顔で胸を張った。
「そりゃあ、領主が信頼するやつって話になれば、色々な使者とかとも会う可能性がある。そこで言葉が通じませんじゃ話にならねえって寸法さ。だがな…」
アケロスが腕を組みながら、感慨深い表情で私達を見つめて問いかけた。
「初日にお前らが寝た後にクラリスと話していたんだが、絵本指さしたり料理指さしたりして身振り手振り交えながらこっちの言葉を覚えようとしてたよな。」
私達は、アケロスに頷いて同意する。
そしてアケロスがカインのほうを向いて呆れた顔で語りだした。
*
―俺はその夜にこいつのところ行ってそういった経緯も話したんだ。
だがな、こいつはこう言って怯えるんだよ。
「こんな辺境に言葉も通じねえような遠方の国から武術の達人が何の前触れもなく来たなんて信じられん! 伝承の超越者かもしれないって」
俺はとりあえず話聞いてみろって金属札をお前らに渡してみることにしたんだ。
*
アケロスはそう語った後、アルベルトの方を一顧した。
「おめえは、最初から信用できるとカインを説得しようとしてたな。」
アルベルトは照れくさそうに私達のほうを見て微笑む。
アケロスが私たちのほうに向きなおって頭を撫でて再び語りだした。
*
―俺は家に戻ってカインと話し合った件をクラリスと話した。
クラリスは俺にこう提案した。
「ああやってコミュニケーションをとろうとしているんだから、暫く様子見てやってはどうしょう。どう俺たちや街の人たちと関わろうとするのかを見ていけば、それで人となりもわかるだろう」
俺も確かにそれはそうだと思ってそれに同意した。
―それに、宿に最初に来た時のガイの顔はとっても酷かった。
キキョウは少し吹っ切れている感じだったが、ガイの方は表向きは隠してはいるが、何か色々なものに疲れている顔をしている。
だが、一晩経ったらガイは少しまともな顔になっていた。
俺とクラリスはそのことで、ガイとキキョウがもう少し二人っきりで話す時間が必要なんだろうと気がついた。
*
アケロスは私たちのほうを見て優しく微笑んだ。
「まぁ、言葉は分からずともお前らの場合は大体の雰囲気は察せたな。」
そして感慨深い表情で、私たちの肩を叩く。
「結局のところ、お前らはきっちりとそれは解決できた。」
ただ、その後にものすごく悪戯っぽい顔をして私たちに耳打ちする。
「それに…なかなか良いものを見させてもらったぜ。」
アケロスの悪戯っぽい表情を受け、桔梗が顔を赤らめている…私も心なしか顔が熱くなった。
さらに彼がにやりと笑いながら言った。
「それに、重要な時には何だかんだんで会話通じただろ?」
そういえばそうだ、メディの時やアケロスへの飛蝙蝠の依頼などの時に通じている。
コミニュケーションが取れなければならない時にはしっかりと取れているのだ。
アケロスがそのことについての説明をしてくれた。
「まあ、そういう大事な時は必死で相手にどう伝えるかを考えて気持ちを込めるもんだろう? そもそもの会話ってそういう理で動いているのだから、まあ正しいイメージだわな。」
なるほど、確かにあの時は相手へどう正確に伝わるかのイメージを考えて、相手にどう伝わるのかを考えながら誤解がないようにしっかりと説明しようとしていた。
さらにアケロスは私達に金属札に理力を発現させたかについても説明する。
「理力の説明はセリスから聞いたようだから、それで理力が発現したっていうのは納得できるな?」
「正しい理を理解して具体的なイメージができていたということだな。」
「まあ…実際のところ、お前ら結構そういう異国の言葉と触れ合うの慣れてそうだから、段々とと無意識に金属札へ力がこもっていたと思うぜ。」
確かに不自然なぐらいに会話をすることができていた気がする。
よく考えてみればセリスやクラリスとの会話もいつの間にかに自然に出来るようになっていた。
あまりに当たり前に出来すぎていて、そういったことについてはあまり考えていなかった。
私はふと疑問に思ったことを口に出した。
「金属札を外したら、もう言葉は通じなくなるのか?」
「お前らの場合それは大丈夫だと思うぜ、俺と違ってそもそもの前提が違いそうだ。相手の言葉やしぐさから何を言っているのかを理解出来ている。まったくカインやアルベルトみたいだぜ。」
アケロスがカインとアルベルトのほうを向いて信頼の目を向ける。
「こいつらは流石に領主の親子だけあって、相手の表情やしぐさなどを見て、何考えているのかを見通すのがうまいからな。」
そして、ジト目でカインのほう見て呟いた。
「まあ…超越者に関しては実際に見てなかったせいか目が曇ったようだが。」
カインは苦笑しながら弁解する。
「アケロス…あまり私を苛めてくれるな、あの件は本当にすまないと思っているんだ。まさか、実際の超越者が伝承とこんなに異なっているとは思いもしなかったのだからな。」
そしてカインは改めて領主の威厳のある顔つきに、私達に告げた。
「イースタンの領主として、君達を正式に迎え入れたいと思う。」
アケロスが呆れた顔で笑っている。
「俺の養子って認めたんじゃないのか?」
カインが困った表情で、アケロスを諭している。
「あのな…君はそうやって色々と順番を飛ばしてくれるが、領内を治めるには色々と大変な手順があるんだ。あんなとんでもない戦果を挙げた英雄をどう処遇するのか? あの子らはどこから来たんだ? といった市民からの関心を処理するのだって結構大変だったんだからな。」
アケロスが下らなさそうな顔でカインを一瞥して言った。
「へっ…お前がガイたちに頼み事したんだから、それはお前が処理する問題だろうが、俺たちは知らねーよ。」
そして私たちのほうを向いて希望を聞く。
「…で、ガイとキキョウ、お前らの望みは?」
―私たちの答えは決まっている。
「アケロスとクラリスの子供として生きたいです。」
アケロスが満面の笑みを浮かべながらカインに釘を刺す。
「だとよ、分かっなカイン…あまりこいつらには無茶なお願いはしてくれるなよ。」
カインがさらに困ったような顔をして私達に語りだす。
「それについてのことで相談したいのだが…」