納得
2020/5/15
誤字訂正しました。
教えていただき、ありがとうございます。
文章校正しました。(2020/5/18)
桔梗が鞭鎌をアケロスから受け取った数刻後、戦になるという領主からの布告で、イースタンの街は騒然となった。
私達は正装したアケロスと共に白銀のマントを纏って、街の広場の壇上へ案内された。
動揺する人々の前で、カインが声を上げる。
『イースタンの街の市民達よ、安心するがよい、ここにいるアケロスの養子は若年ながら戦の天才として、数々の勝利を収めてきた者だ。我らは寡兵だが、必ず勝利を収めることができる。』
市民の一人が胡乱げに私を見て叫ぶ。
『こんな子供に何ができる、俺たちはおしまいだ』
だが、他の市民が私が持つミスリルの刀に気づいてざわめき始めた。
『あいつは…アケロスの工房の前で人とは思えないような動きを見せた奴だ。』
『俺も見たぞ、目にも止まらないような演武をしていたんだ。』
『私も見たわ、まるで歴戦の兵のような動きだった。』
私を疑っている市民がさらに声を荒げる。
『お前らは見たかもしれないが、俺は信じないぞ!』
カインが首を横に振りこちらを静かな目で見た。
私はその意図が分かり、頷いた。
カインが市民の前で腕を上げて、一人の衛兵を呼んだ。
『分かった、その少年が信用できないというならば、そうだな…ベルク、その少年と打ち合って見よ。』
カインの言葉に従い、一人の衛兵が私の前に進み出る。
ベルクが嬉しそうに私へ言った。
『お前の強さはライアンから聞いていて、是非手合わせしたいと思っていた。戦の前とはいえ、ここで手を抜くとまずいのでな。全力で行かせてもらうぞ。』
ベルクと呼ばれたその衛兵は、挨拶もそぞろに槍を手にいきなり私に突き出してきた。
私は体を左に半身ほど捻って攻撃をかわす。
白銀のマントがひねった方向に翻り、市民の目を引いた。
*
市民たちからどよめきの声が上がる。
カインはガイとベルクを立ち会わせたのは、市民の納得を得るためと自分を正当化はしていた。
だが、ガイのあまりに人間離れした動きにその背中が冷たくなった。
―ライアンからの報告は聞いていたが、あの少年の動きは異質だ。
ほんの一瞬の動きだが、それで十二分に分かる。
人間離れした反応でベルクの攻撃をかわしたのだ。
人々の目が立ち合いを行う二人に釘付けになる。
ベルクは舌を巻いた。
『中々良い動きをする…』
そして、槍を引き戻し私の胸元をめがけて槍を突き出した。
槍は風を切り、私の胸へ非情にも突き刺さろうとしている。
ベルクはもらった…と勝利を確信し笑みを漏らすが、私ははすっと横に下がって造作もなくそれをかわした。
それと同時に槍をの柄を横手で掴んでベルクを引き寄せる。
そして、バランスを崩したベルクの背に自然と回り膝を軽く蹴った。
私は跪くような形になったベルクの背に足を乗せ、首元に刀を突き付ける。
私はベルクに問いかけた。
『どうする、続けるか?』
ベルクは苦笑しながら槍から手を放して降参した。
『いや、十分だ…市民もわかってくれたようだからな。』
*
この場にいた者たちはは確信した。
―この少年なら我々に勝利をもたらしてくれると。
広場にいた市民たちから歓声が上がる。
『なんだありゃ、人の動きじゃねえ!』
『勝てる、俺たちは勝てるぞ!』
『カイン様万歳!』
アケロスが私の腕をとり天にかざして言った。
『お前が主役だ。』
市民たちの熱気がさらに上がり、衛兵たちの戦意も高揚していった。
*
広場の熱気が静まり返り、街の人々が戦で被害を受けないように、それぞれの家や店に戻っていく。
喧騒がやんだ広場に残されたベルクにカインが確認する。
『全く恐ろしい動きだ…ベルク、手加減はしていないな。』
『あの状況で下手な芝居などをすれば、我らが暴徒と化した市民に殺されましょう。』
『そうか…ご苦労だった。』
ライアンが私の肩を抱いて、興奮した様子で語りかける。
『ベルクは結構やる奴のはずなのに全く歯が立たないか、やっぱりお前は大した奴だよ。』
私は広場の様子を思い出しながらライアンに返事をした。
『これで明日は少しは動きやすくなるかもしれないですね。』
『まあ、俺だって最初は半信半疑だったからな、どう考えても無理そうな作戦な上に、敵の動きをまるで予言するように説明するんだからな。』
『まあ、明日を楽しみにしていてください。』
『戦で楽しみっていうのは不謹慎だな…。』
『そうですね、確かに…。』
そう私は言いながらも、心は高揚している。
生粋の武人な私は戦が近づけば、気持ちが昂ってしまうのだ。
桔梗が私の顔を覗き込みながら複雑な顔をする。
「凱さま…」
私は彼女の肩に優しく手を置いて言った。
「大丈夫だ桔梗、今回は家族のために戦う。だから無理はしないさ…。だが、少し痛い目にあってはもらうがな。」
―まさか、また戦場に立つ日が来るとはな。
私は不敵な笑みを浮かべながら、明日来ようとしている敵へ思いを馳せた。