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自分の意思で

アケロスの怒号と共にテーブルに轟音が響いた。

『ふざけるんじゃねーぞ!』


執事が慌てて衛兵を呼ぼうとするのをアルベルトが止めた。


アケロスが激昂して叫んでカインの胸ぐらをつかもうとする。

『お前、ガイとキキョウがどんな経緯で世界を越えた(こっちへ来た)のか聞いていたんだよな? そして超越者が災厄を呼ぶとか言ってたよな!』


私はアケロスの腕を掴んて必死に止める。

『ガイ、離せ! こういうやつは一回ぶん殴らなければ、一生治りゃしねえ!』


桔梗が全力で叫んだ。

『”お父さん”、待ってください!』


”お父さん”と呼ばれたアケロスが思わず桔梗の方を見る。


桔梗はアケロスの目をまっすぐ見て静かだが強い意志を込めた声で懇願した。

『お父さんは、私達に()()()()()()()()()()()()()言ってくれました。だから…このことが、やりたいことかどうかだけでも聞かせて欲しいのです。』


アケロスの体から力が抜ける、そして桔梗の頭の上に優しく手を乗せた。

『そうだな…ガイ、キキョウ、お前たちが判断するべきことを、俺が勝手に決めちゃいけねえな』


そしてカインを一瞥してドカッと乱暴にソファーに座った。


桔梗がアケロスの手を両手で包んで優しく言った。

『でも、お父さんが私達のために怒ってくれたのは、とっても嬉しかったです。』


アケロスは、天井を見上げながら嘆息した。

『へっ…まったくよ…大した娘を手に入れちまったぜ』



場の空気が何とか落ち着いた頃、カインは冷や汗を流しながら、

イースタンに仕掛けられた陰謀について話し始めた。


 *


―陰謀が張り巡らされたのは三か月前のことだった。

すぐ南に海があり、交易が盛んな南の街(サウス)、ここに所属する商業ギルドがイースタンのミスリル産業により、鉱物の需要のバランスが崩れることを恐れて事業の妨害を図ろうとした。


まずは唯一ミスリルの鍛造ができるアケロスを調略しようとした。

使者がアケロスに接触したが、彼は使者へこう伝えてにべもなく断ったらしい。

『興味ねえな、そもそも娘がこの街の奴と結婚間近なのに街出る馬鹿がいるか?』


結局アケロスを動かすことができなかった商業ギルドは次の手段に出た。

アケロスの挑発に乗ったイースタン領主の息子を殺すことで、カインとアケロスの関係を崩壊させようする作戦だ。

だが、この作戦も凱と桔梗に刺客が倒されてしまって失敗した。


最後に、鉱山に蜘蛛(バインダー)をけしかけて採掘不能にしようとした。

この作戦も途中まではうまくいっていたが、これまた、凱と桔梗達の活躍により失敗してしまう。



たび重なる失敗に焦った商業ギルドはついに実力行使に出ることにした。

金に飽かせて、南方の異国にいる賊を二百人ほど集め、イースタンを襲わせるという博打に出たのだ。

サウスの町から商隊に見せかけて東進して、こちらに近づいている。

恐らく三日後にはイースタンの街に到着するだろう。


 *


敵の陰謀はの内容が判った為、私はテーブルをコツコツ叩きながら現況を確認する。

『イースタンの街の戦力はどれくらいですか?』


カインは思案しながら私の問いに答える。

『街の防衛で50人ほど、鉱山のほうには予備で20人だ。』


『少ないな…援軍の予定はありますか?』


『王都のセントラルからだと一か月以上かかるな。』


私はふとある可能性に気付いた。

『南方の賊はこちらの言葉はわかりますか?』


『おそらく数人程度ってところだろうな…。』


私は頭の中で戦場を描いていく…そして、ある方法を使えば勝てると踏んだ。


 *


作戦を聞いたカインが私達を訝しげに見る。

『そんな魔法みたいなことができるのか?』


私はにやりと笑ってその疑念に応えた。

『まあ、それが超越者ってものです。』


そして念を押すように言った。

『ただし、約束は守ってください。必ず私の指揮に従ってもらうと。』


アケロスがカインを睨み付ける。

『まさか…俺の子供たちに勝手な事情押し付けて、自分たちは協力できねえってことはないよな。』


カインは、堂々たる態度でアケロスを見返し、威厳のある声で言い放つ。

『私を見くびるなアケロス。領主として約束を違えると思うなら今すぐここで私の首をはねろ。』



アケロスはようやく表情を緩めてカインと力強く握手した。

『へっ、いつもそうしてりゃ俺もこういうこと言わなくてもいいのによ。』


最後にカインは、私に握手を求めた。

『守備兵の隊長はライアンにさせる。彼は君の能力を買っているからな。そのほうが君もやりやすいだろう。』


私は笑顔でカインの手を取り彼の信任に感謝した。


 *


領主の館から出た後、アケロスが私達に確認した。

『いいんだな、別に俺たちを見捨てて好きなところで生きてもいいんだぜ?』


私達はこともなげに笑って言った。

『大事な家族のために戦いたいんです、それに、アケロス(お父さん)には親孝行を沢山したいんで。』


アケロスが申し訳なさそうな顔をして呟いた。

『義務感じゃねえよな…』



私はアケロスの肩を叩いて笑いながら言った。

『私はアケロスが好きだし、この町も好きになった。これからは天下のためじゃなくて、私達の家族のため、そう、()()()()()で戦うのさ。』

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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