領主への謁見
言葉がわからない状態で、
この地方で偉い人の息子と言われたらこういった誤解があるかも…しれない。
文章校正しました(20205/18)
昨日は私の人生の中で、かなり重要な日となった。
桔梗と長年の想いを通じ合い、そしてアケロス達の養子となったのだから。
朝食を済ませて部屋に戻った私達をクラリスさんが呼んだ。
私達が広間に行くと、立派な雰囲気の男がいる。
『おう、二人とも来てくれたか。』
よく見ると彼はアケロスだ。
彼はいつもの工房へ行くためのラフな格好ではない。
品の良いシャツに洒落たズボン、そしてビロード色のマントといった正装をしており、どう見ても威厳のがある名士の風体をしている。
アケロスは威厳のある声でクラリスへ告げた。
『クラリス、ちょっと領主のところへ行ってくる。』
そして、父親らしい情のある顔で私たちのも来るよう促す。
『ガイとキキョウも一緒に来てほしい。あ…折角だからマントはしていこうな。それがお前らの正装ってことにしよう。もう、俺の子供達なんだし、今日ぐらいは少しは格好させねえとな。』
私たちはそれぞれ部屋に戻り、クラリスさんが用意してくれた服に着替えた後、白銀のマントを羽織った。
クラリスさんが、マントを羽織った私たちの姿を見て微笑む。
『お揃いさんね、とっても似合っているわ』
桔梗がと元気に手を振りながらクラリスにお礼を言った。
『ありがとうお母さん、いってきます!』
クラリスさんは”お母さん”と言われたことに、とても嬉しそうな顔した。
『いってらっしゃい、気を付けてね。セリスにも早く教えてあげたいわ。』
そして、手を振りながら私達を送り出してくれた。
*
町の中央にある領主の館の前で、アケロスが衛兵に何か話している。
衛兵がとんでもないことが起こったという顔をして、慌てて屋敷の中に入った。
しばらくすると、私たちを町に迎え入れてくれた、あの立派な風体をした名士が急いでこちらへやってくる。
アケロスが親しげに名士へ声をかけた。
『おーいカイン!忙しいとこすまねえな、ガイ、キキョウ、こいつがイースタン地方の領主のカインだ。』
名士…ではなく領主だったのか、アルは本当に御曹司だったんだなと桔梗と顔を見合わせた。
カインが私と桔梗に深く礼をした。
『ガイ殿とキキョウ殿、 息子や駐屯地の件については本当にありがとう。』
そしてアケロスへ、中で話そうと屋敷に入るよう促した。
*
屋敷に入った後は執事に案内されて、応接室に迎え入れられた。
センスの良い調度品や装飾がある部屋で、イースタンが潤っていることを感じさせる。
私達が質の良いソファーに腰かけると、カインが唐突に渋い顔をしてアケロスに話し始めた。
『アケロス、君ってやつは…この前のアルベルトの一件もそうだが、私に後どれくらい胃薬を飲ませるつもりなのかね?』
アケロスがしれっとした顔でカインに迫る。
『まあ、そう言うなよ。俺が養子の一人や二人迎え入れたところで、何か問題でもあるのか?』
カインは頭を振りながら、困惑した顔でアケロスに問いかける。
『ただの養子なら私もそこまで神経質にならない。…が、超越者かもしれないとなれば話が別だ、伝承の超越者がどれほどの被害をもたらしたのか…君はわかっているのか?』
アケロスがカインを睨んて怒鳴りつけた。
『お前、実際にその超越者様を見たことがあるのかよ? 実際に見てもいねえのに、伝承がなんだのとか言って馬鹿じゃねえのか!』
そして私達の肩を抱きながら、カインの発言を咎める。
『そもそもイースタンの街で二度もその子らに恩があるくせに、そんな恥知らずなことをよく言えたもんだ。』
カインはアルベルトの一件を思い出し、憤怒の表情を浮かべてアケロスを非難した。
『そのうちの一回はどう考えても君のせいだ! アルベルトに何かあったとしたら、どんな手段を使ってでも君を殺していたところだぞ。』
アケロスはその一件については、素直に頭を下げて謝罪した。
『それに関してはすまなかった、あの頼りないアルベルトがセリスのために、あそこまでやると考えてなかった時点で俺の落ち度だ。すまなかった。』
そして頭を上げた後、毅然とした態度でと言い放つ。
『だがな、養子の件は別だ。 俺の息子と娘はな、どこまでも純粋でどこまでも真っすぐだ。こいつら自身の生き方に何ら恥じるところなんかねえよ!』
なおも複雑な表情をするカインの姿を見たアケロスが、チラリとこちらを見た。
―おめえらの生き様、こいつに教えてもいいよな。
私と桔梗は深く頷いた。
*
アケロスから私たちが世界を越えた時の話を聞いて、カインは一応の納得はした。
『…なるほど、超越者がどうして災厄をもたらしたのかは理解した。だが、その子たちがそうならないとどう証明する?』
アケロスがこちらを見ながら不敵に笑う。
『こいつらはな、前の世界では絶対に好き合えなかったんだ。だがな、真実の愛のために世界を越えて駆け落ちしてこっちで婚約しやがった…それだけで十分幸せだろうが。』
―真実の愛は強調してくれなくてもいいんだけどな…
と思いながら私はひっそり溜息をついた。
桔梗の方は色々と思い出して、真っ赤な顔をしながら私のマントの裾を掴んでいる。
カインが私たちの様子を見て呆れたような顔で逡巡している。
『方便だと思っていたが…まさか本当に駆け落ちだと? 馬鹿な…でも確かにアルベルトや衛兵の証言は…』
その時、で失礼しますという声とともに、アルベルトが応接室に入ってきた。
『父さん、私もお義父さんと同じく、ガイどのとキキョウ殿は信用できる人物と考えます。』
アケロスがぼそりと呟く。
『おめえにお義父さんと呼ばわりはされたくねえな…』
それが聞こえてしまったアルベルトはアケロスのほうを見ながら苦笑した。
アルベルトが気を取り直して続ける。
『あの言葉も通じない状況で、誰ともわからぬ私を助けてもガイ殿やキキョウ殿には何の益もございません。伝承の超越者ならば、それこそ無視をするでしょう。』
カインが意を決したように頷いた。
『わかった…養子の件は認めよう。』
アケロスが誇らしげに私達を見て胸を張る。
『当然のことだ』
そしてカインが意を決したように、私と桔梗のほうを向いて、頭を下げて言った。
『実は君たちが捕まえてくれた賊を調べた結果、イースタンに魔の手が迫っていることがわかったのだ。勝手なことは重々承知している。どうか我々を助けてはくれないだろうか…』