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蜘蛛との対峙

久々に全うな戦闘回です。

ちなみに12話でも出てきた『戟』はハルバードのよう斧槍のことで、

三国志なんかではよく使われていますね。


有名なものだと呂布が使っていた『方天画戟』とかがあります。


文章校正しました(2020/5/18)

駐屯地についたころには夕刻近くになっていた。

駐屯地には衛兵が三人いて、一人が横たわっている。


私は馬車から降りる際にライアンに一言声をかけて、駐屯地の入口と周囲にハッカの香油を振りかけておいた。


駐屯所の衛兵がライアンを見て驚いて駆け寄る。

『ライアン…何やってるんだお前!毒にやられてただろ!』


ライアンが衛兵の肩を叩いて落ち着かせ、持ってきた解毒薬をみせた。

『まあ、落ち着けって解毒剤ができたんだ。街の奴らは助かったぜ。』


衛兵が倒れている仲間を指さし歓喜の表情を浮かべる。

『本当か!あいつがバインダーにやられて…』


桔梗が倒れている衛兵に駆け寄り脈を診て頷く。

『ちょっと失礼しますね…まだ間に合います。』


そして、ライアンから解毒剤を受け取って衛兵に飲ませた。


衛兵が目を覚まし、周囲を見回す。

『腕が…動く? しかも息が苦しくない!』


痺れが取れたことに驚きつつも嬉しそうに腕を回した。


そばで見ていた二人の衛兵が驚愕の顔でそれを見ている。

『嘘だろ? もう治ったのか』


そんな二人にライアンがニヤリと帰郷のほうを見ていった。

『メディお墨付きの名薬師の理力持ちだそうだ。』


衛兵たちは桔梗に感謝するとともににこやかに笑いかける。

『へぇ~若いのにたいしたもんだな。』


ライアンは私のほうを見ながら苦笑して彼らに釘を刺した。

『だからって手を出すなよ、そこの彼氏はアルベルトの婚約者曰く、とんでもなく強いらしい…よな?』


衛兵たちが笑いながら私を見て、足元に気づいて不思議そうな顔をした。

『ほう…手合わせしたいものだ、しかしお前らなんで靴が油まみれなんだ?』



と…、そこで何かが駐屯地の入り口から()()が投げ入れられた。



それからしばらく後に、すさまじい悲鳴が聞こえた。


ライアンが緊迫した顔で衛兵たちを問い詰める。

『おい!お前たちの他に誰か人がいるのか!?』


衛兵の一人がかぶりを振る。

『いや、お前が連れてきたそこの坊主と嬢ちゃんぐらいだ』


緊迫した表情をした衛兵達が疑問を口にした。

『しかし、なんで蜘蛛はいつものように駐屯地に入ってこないんだ?』


その声を無視して、私は投げ入れられたものを一瞥して刀で切り裂いた。


ひもで結わえられた”それ”は何かを染み込ませた布のようだ。


衛兵が訝しげな顔でこちらを見る。

『おい、こいつはなんだ?』


私は布を指さして衛兵の疑問に答えた。

『どうやらニクムシ…とやらの体液をしみこませた布ですね』



―やはり今回の件は何者かが裏で糸を引いているようだ。



私は桔梗の方をちらりと横目で見ると、桔梗が難しい顔をして私の指示を仰いていた。



―このままでは証拠となるその何者かが食われるかもしれないな



私は桔梗に一緒に来るように指示して、悲鳴がした方角へ駆け出した。

『状況が変わったようだな、桔梗…行くぞ!』


滑るように悲鳴がしたほうへ走り出した私達をみて、ライアンがあっけに取られた。

『おいおい…足早すぎだろ…』


そして慌てて私達の後を追っていった。


 *


悲鳴がしたと思われる場所には、糸と何かが引きずられた跡がある。


私は糸の上に軽くブーツを乗せてみた。

『よし、くっつかないな』


『そうですね、凱様の予想はあたりました。』


追いついてきたライアンが感心している。

『本当にくっ付かないもんだな』


私はライアンににやりと笑いかけた。

『基本的にこういった足止め系をするタイプの蜘蛛の生態っていうのは、足から油を出してくっつかないようにするものさ。』


ライアンが先ほどの悲鳴について私達の見解を求める。

『で…あの悲鳴は?』


私はその件に関しての推論をライアンに伝えることにした。

『おそらく何者がニクムシの体液を駐屯所の前まで撒いていた。だが、ハッカの匂いを嫌った蜘蛛が駐屯所に入らず、まいた者が良い獲物と認識されたんだろうさ。』


ライアンが驚いた顔でこちらを見る。

『まさか…そんな…』


『とりあえず、この引きずられた後を辿ってみよう。できれば明るい時間にやりたかったものだが…』


 *


しばらく悲鳴の主を探していると、周囲が暗くなり始めた。

ライアンがたいまつを持って周囲を照らしてくれている。

ついに引きずられた跡が急に無くなった。



周囲は砂と岩だらけとなっている。

ライアンはきっと氷の上で戦ったことがないと思うため、私は注意を促した。

『ライアンさん、油を塗っているため岩場の上は、()()()()()()()は滑ると思います。』


ライアンが苦笑しながら、足元の状態を確認した。

『そんなのに慣れている奴のほうが少ないと思うがな。まあ、岩に上らない限りは大丈夫か』


さらにしばらく歩くと桔梗が何かに気づき私に目配せをする。

私もそれに気づいていた為、ライアンを制止した。


ライアンが目を凝らして眼前を確認する。

『どうした、何かあるのか?』


私は剣を一閃した。


一見すると見えない糸を切り裂いて飛びのくと、私がいた場所に糸が吐き出される。

そして周囲から複数の蜘蛛(バインダー)が現れた。


ライアンが驚きながらも剣を構える。

『ちっ、待ち伏せか!』



バインダーが周囲に糸をまき散らしてこちらの動きを阻害するが、私達には関係ない。


私は桔梗に素早く指示を出した。

「桔梗はバインダーをおびき寄せた奴を探してくれ。できれば生きている状態が好ましい。私達はこいつらを始末する。」



桔梗は私のほうを見て頷いた。

「凱様、ご無事で。」


そして蜘蛛たちの脇を駆け抜け、岩場の影を見に行った。


 *


ライアンが桔梗のことを心配する。

『おい、お嬢ちゃん一人行かせて大丈夫なのかよ!』


私は全く問題ないという顔をした。

『大丈夫だ、桔梗の実力は私が一番知っている』



―さて、見たところバインダーは五体程度か。


これくらいなら私一人でも行けるかと思い、私はバインダーの群れの中へ駆け出す。


ライアンが後ろで叫ぶ。

『おい待てよ! いくらなんでも無謀だろう!』


 *


先頭にいるバインダーが私に気づき、糸を噴出した。


私は上体をそらして糸を回避すると共に刀を戟に変え、先頭にいるバインダーの前足の関節を正確に狙って斬り落とす。

バランスを崩したバインダーの頭と背の間を薙ぎ、一匹目は力なく崩れ落ちた。

さらに私はそのバインダーの背を蹴って飛び上がり、次のバインダーの上部から頭を落とす。

次の一匹は、私の背後から寄ってきたので、頭を石突で付いて怯ませてそのまま戟を回転させて首を刎ねた。


残り二体のバインダーが私を危険な敵とみなし、左右から糸を吹き出した。

私の周囲には糸が張り巡らされていて、本来であれば、足を取られて糸の餌食になるが、油で濡れていたブーツに無効化される。

逆に私は糸の上を滑るように移動してバインダーの下に滑り込み頭部と胴体の間の節を切り裂く。


そのまま戟を地面に突き刺して、勢いを殺さずに、横にぐるりと反転して最後のバインダーの方へ移動する。


残ったバインダーが、私に襲い掛かるのを諦めてライアンのほうへ飛びかかる。



―なかなかの高度からの一撃を繰り出そうとしているが、残念ながら私にはその一手はお見通しだ。



石突を地面に突いて勢いを上に向けた私は、バインダーの上に乗って首を切り落とした。



着地の衝撃をバインダーの腹部に吸収させ、私は周囲を見渡す。



―ひとまずは片付いたようだ。


 *


ライアンが驚愕の顔でこちらを見ている。

『なんなんだ…今のは? 俺は夢でも見ているのか…』


私はこともなげに言った。

『まあ、鎧を着た敵と蜘蛛は似たようなものだろう?』


焦った声で彼が私に詰め寄る。

『いやいやいや! どう考えてもおかしいだろ、俺たちが三人がかりで一匹のバインダー倒す時間で、五体のバインダー倒すなんてありえない』



そんなやり取りをしている間に、桔梗がボロボロのローブを着た男を背負って戻ってきた。

『毒に侵されていますが息は何とかあるようです。処置はしっかりしましたので戻りましょう。』


 *


私たちは来た道を急いて戻っている。


ライアンにはローブの男を運んでもらっている。

今回の件自分が役に立ておらず、せめてこれくらいはさせてほしいと私達に懇願したからだ。



突如、桔梗が叫んだ!

『ライアンさん止まってください!』



ライアンが急いで立ち止まる。

しかし、二人分の重さがあった上に、足場が運悪く岩の上だった。

そのため、彼はバランスを崩してしまった。


そして側面からバインダーが二人めがけて襲い掛かってきた。

恐らくローブの男に染みついたニクムシの臭いを嗅ぎつけたのだろう。


桔梗がいち早くライアンのもとへ飛び出す。

『ライアンさん!』


彼女は彼らを押しのけ、バインダーの前に立ちふさがった。


バインダーの顎が彼女に迫る…私は思わず叫んだ。

『桔梗!』


私は戟を刀に変えて全力で地面を蹴り、桔梗とバインダーの間に割り込んだ。

そして、奴の顎へ居合を放つ。


抜いた刃の勢いそのままに、怒りに身を任せて頭部と腹部、足を一気に切り裂いた。


私の怒りの犠牲となったバインダーが細切れになって、ボロリと地面に墜ちた。


肩で息をする私の背中から桔梗の声がする。

『凱…さま?』


私はそれには応えず、表情を元に戻しライアンに声をかけた。

『今は時が惜しい…ライアンさん行けますか?』



一瞬ビクッとした表情を私に見せたライアンだったが、何かに気づいた風にニヤッと笑った。

『あ…ああ…すまない、いけるぜ』


そして、ローブの男を担ぎなおし、駐屯地へと足を向けた。

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