凱さまとの出会い
しばらく桔梗の回想になります。
少しつらいシーンもあるので苦手な人は飛ばしてくださいね。
文章校正しました。(2020/5/17)
凱さまの気持ちはわかっている…
でも、あの人のあまりにも私の気持ちを考えない言葉に、ついカッとなって言ってはいけないことを言ってしまった。
*
凱さまとの出会いは私が十の頃だった。
私の村が夜盗に襲われているところを助けたと、凱さまは皆に触れ回ったが実は半分正解で半分間違いだ。
父は村長で、母は他国からの抜け忍、父を調略するつもりが本当に愛してしまった為、里を抜けてしまったらしい。
母の素性を知っている村人は、母のことを信用ならないと噂を流したが、何とか父の力でそれを抑え込んでいた。
ただ、やっぱり私達は村の人々から疎まれているということをひしひしと感じ続けていた。
母は日頃から身の危険を感じていた為、私が物心つく頃から幼忍として自分の身を護れるように鍛えてくれた。
そんなある日、ついに母に刺客が放たれる。
それに気づいた母は村に迷惑をかける前にと離縁を申した。
父は村長の役目を全うするために泣く泣くそれを受けた。
*
夕闇に紛れ、一刻も早くと急いで村を脱出した私達だったが、相手は忍びだ。
あっという間に追いつかれて母と私は追手との死闘を繰り広げた。
母一人なら逃げられたはずだが、私のせいで徐々に劣勢となっていく。
そしてついに私をかばった母が深手を負ってしまった。
逃げろという母を見捨てられず、私は母をかばうように刺客の前に立った。
もう駄目だと目をつぶった瞬間に、刺客が力なく崩れ落ちた。
刺客の背中には矢が突き刺さっており、茂みから少年と御付の者と思われる男たちが姿を現した。
母の血は止まらず、縋りつく私の頭を少年が撫でながら、頭を下げて謝罪した。
「間に合わず…すまなかった」
*
少年は母の口に耳を寄せ、頷いた後…母の耳元に口を寄せ何かを呟いた。
母が驚きの目を少年に向けたが、すぐ穏やかな顔となる…
そして、私に向って何かを言おうとしている。
少年が悲しそうな顔で私に言った。
「最期の言葉を聞いてやってほしい」
私はそんなのは嫌だと思いながらも、母の口元に耳を寄せた。
「わか…さまが……あなたは…自分の…桔梗…しあわ…」
―そこからは聞こえなかった…。
私は母に縋り付いて泣いた…。
「あ…ああ…、おか…さん…、お母さん!」
少年は私が落ち着くまで私の傍らで背中を撫でてくれた。
ひとしきり私が落ち着いたところで、少年の指示で御付きのものが母の遺体を馬に載せた。
御付の男が私を見て少年に問いかける。
「若様、この子はどうします?」
少年は私に笑いかけ、お付きのものに決意を込めて静かに言った。
「私の屋敷へ連れていく、この子の母親と約束をしたのだ」
そして少年は、私をひょいと馬に乗せて屋敷へと連れて行ってくれた。




