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世界から追放された理由

英雄ってとても微妙な立場だなと思う時があります。


文章校正しました。(2020/5/17)

広間の修羅場が落ち着いた後、クラリスさんたちに広間に呼ばれた。


アケロスがやけにしょんぼりしていたが、自業自得だと思う。


セリスが返ってきたということで、昨日と同様にテーブルに豪華な食事が並ぶ。


皆で食事をとりながら、今日の出来事を楽しく話した。


 *


アケロスがどや顔で私の理力をクラリスさんに自慢する。

『ガイは大した奴だ、歴戦の武人のような理力を武器に込めやがる!』


セリスはセリスで、メディの件で活躍した桔梗を持ち上げる。

『キキョウ様は凄い薬師の理力をお持ちなのよ。』


クラリスさんはニコニコしながら二人の話を楽しそうに聞いていた。


食事が終わり桔梗と部屋に戻る際、両親となおも楽しそうに話していたセリスが、明日こそは街を案内するんだと張り切っている姿が見えた。



私達はそんなセリスを見て微笑んだ。


 *


部屋に戻り、湯浴みを済ませた後、()()()しっかりとドアに鍵をかけ、ベッドの縁に腰かけていた帰郷の隣に座った。


私は桔梗に何があったのかを聞くことにした。

「どうした桔梗、何か怒らせるようなことをしてしまったか?」


桔梗は笑顔でこちらを見る。

「いえ…怒ってはいません。」


…がやはり笑顔が固い。


私はやっぱり何か隠していると思って桔梗の笑顔の裏の感情を指摘した。

「だが、お前からは怒っている気配がする。」


桔梗の顔から笑顔が消えた、そして真顔で私に尋ねる。

「凱さまは、超越者についてどう思われましたか?」


私はこともなげに答えた。

「私達と同じような経緯で世界を超えたのならば、まあ…ああなるのは理解できるな。」


桔梗が私に問いかける。

「凱さまはなぜ隠遁されたのですか? 領地を返上しても王のもとで近衛にでもなれば、殺されることはなかったのでは?」



私は天井を見上げながら話し始めた。

「そうだな…私と桔梗は功を立てすぎた。”私達の力”は大きくなりすぎたんだ…」


 *


たとえ王のもとに残ったとしても、誰かが私を担いで反乱を起こそうとしていると讒言すれば、

王は私を疑わずはいられぬし、不穏の芽を摘みたいと思うだろう。


仮に領地を返上せず、力を持ち続けたとしても、王が私を討伐に来れば天下は二つに割れ、多くの血が流れてしまうに違いない。


桔梗が辛そうな顔をしながら、私に問いかける。

「なら、隠遁生活などせずに私と姿をくらましたとしたら?」


私は天井から目を戻し、桔梗をの目を見つめながら…語った。


恐らくお前なら、私の姿も変えることができるから、私達は静かに暮らすことはできるやも知れない。


だが、王はやはり私達がどこかで再起することを恐れて、いつ起こるかもしれぬ反乱を恐れて疑心暗鬼に陥るだろう。


 *


しばらくの静寂が私たちの間に訪れる。


万感の思いで…私は桔梗へ言った。

「私は天下統一した後、すぐに死ぬべきだったのかもしれない…」


桔梗が耐え切れずに叫んだ。

「なんてことを言うのですか!?」



桔梗は言うべきかと悩んだ後、吐き出すように言った。

「ですが、王は凱さまが全てを差し出してもなお猜疑心にかられ、その功がなかったの如く謀反の罪をでっちあげて誅殺する。王がそんな振る舞いをすれば、それこそ各地で反乱がおきるでしょう…」



そして涙を流しながら私の胸を叩いた。



私は、桔梗の肩を優しく押さえ、

「だから私達は超越者として世界から追放されたのだろうさ。」


あの老人は確かに言っていた。


―私達の存在はあの世界から消えてなくなる。


どのような理が働いてそういうことになるのかはわからない、だが…これだけはわかる。


私は冷静に言い放った。

「私達さえいなければ、あの世界はより安定するだろうからな」


桔梗がカッと目を開いて怒りを私にぶつける。

「それでは、まるで私達は世界の安定のためだけに使われた道具じゃないですか!」


私は静かにそれに応える。

「そうかもしれない…だがな桔梗、そんな世界でも、お前だけには幸せに…」


と言いかけた言葉は、桔梗の怒りの気配で止まってしまった。



桔梗が涙を流し、わなわなと震えながら絞り出すような声で私に問いかける。

「ならば、私がっ…、私が望めば…私のために世界を二つに割って王と戦ってくれましたか?」



―私は、それに答えることができない。



答えられるわけがない。

仮に王が、私だけでなく桔梗を殺すとなればそれも…。

だが、それは絶対にしてはいけないことだ。



桔梗が寂しそうな声で私に謝る。

「すみません…凱さまの気持ちは分っているのに…、軍神は…世界のために戦い続けたんですからね。」



私は…どうしてもこれだけは伝えなければと思い、両手で桔梗のの顔をつかんで正面に向けて目を見据えた。


桔梗の目から流れ続ける涙を…指ですくう。



―その涙の熱さが逆に堪えきれぬ心の悲しみを表していることを感じて心が痛む



だから今伝えなければならない。

「それでも…私はこうやって()()()()()()()、桔梗と二人で生きていけるだけで、十分に報われたと思っているんだ。」



―何の枷もなく桔梗と二人で生きていける



桔梗が目を見開きハッとした顔をする…だが、すぐに顔を伏せた。


そして、ベッドにもぐりこんだ。

「すみません…横にならせてください。」



そのまま桔梗は私に背を向けて眠ってしまった。

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平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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