笑顔の影
普段笑っている人ほど怒らせると怖いものです。
文章校正しました。(2020/5/17)
桔梗に縋りつくように抱き着き、大声で泣くメディを何とか落ち着かせ、桔梗が解毒の処方を教えた。
メディはメモを取りながら何やらつぶやいた後、桔梗へ頭を下げた。
『ありがとうキキョウちゃん、後で必ずお礼をするから。』
*
店の外に出るとだいぶん良い時間になっていた。
セリスが申し訳なさそうに私達に謝った。
『ごめんなさい、街を案内するつもりだったのに…』
私はセリスに気にすることはない、むしろこちらが感謝したいと伝えた。
桔梗も満面の笑みでセリスに感謝する。
『はいセリスさん、とても良いものを見せてもらいました。』
そのまま三人でとりとめもない話をしながら燕月亭に戻り、クラリスに出迎えられた。
セリスがクラリスを見て嬉しそうに笑う。
『お母さんただいま』
クラリスがセリスをいっぱい抱きしめた。
『セリス~おかえりなさい!また綺麗になったんじゃないの? やっぱり良い人がいると女は磨かれるものよね。』
こちらを見たセリスが真っ赤になっている。
『やめてよお母さん、キキョウさんたちがいるのよ。』
クラリスは悪戯っぽい笑顔を私たちに見せる。
『あの二人はもう少し積極的になったほうが良いのよ。』
それを聞いた桔梗が少し頬を赤らめた。
しかし、私の顔を見た瞬間に何かを思い出したような顔をした。
―ん? この感じは怒っている?
すぐに笑顔に戻った桔梗だったが、不穏な気配を感じる。
―後で二人でしっかりと話し合ったほうが良いかもしれないな。
私がそんなことを考えている中、セリスが工房でアケロスと話した内容について告げ口をしていた。
『それでねお母さん、お父さんったら酷いのよ…』
それを聞いたクラリスは、一見すると笑顔で穏やかな口調だ。
『へぇ~アケロスったら少しお灸が必要なようね。』
―だがとても怖いオーラを発している。
そんな私の想像をよそに、クラリスさんはオーラを発したまま私たちにお願いした。
『二人ともちょっとだけ部屋に戻っていてね。』
私と桔梗はにべもなくうなずき、部屋に戻ることにした。
私たちが部屋に入ると同時に、丁度よく宿屋のドアを開けたアケロス…
『おーい、クラリス!今帰ったぞ~』
私たちの部屋のドア越しから恐ろしい気配が伝わってくる…。
『お父さん!』
『あなた~ちょっとそこに座ってくれます♪』
―しばらくの間は修羅場だろう、君子危うきに近寄らずというからな。
私はつい桔梗に心の声を漏らしてしまった。
「やっぱり女性って怒らせちゃいけないものだな。」
桔梗は虫の居所が悪いのか、私を一瞥して一言だけ返した。
「当たり前です。」
そして、私のほうを見ずにそっぽを向いてしまった。




