理力と超越者
ようやくとなりましたが、理力の説明となります。
文章校正しました(2020/5/17)
セリスが驚いた顔でこちらを見る。
『え…てっきり二人とも理力のことを知っているものとばかり、でなければあんな見事な理力が出せるはずが…』
『いや…本当に知らないんだ。私達は昨日この国に来たばかりなのでな。』
セリスに手を握られたままの桔梗も頷いている。
セリスがハッと思い出したように私達のほうを見た。
『この国では当たり前のことなので…よく考えたらガイ様たちはこちらに来たばかりでしたね、ごめんなさい。』
そして桔梗から離れて、その辺にある椅子に腰かけたセリスが理力について語りだした。
*
セリスからの話を要約するとこうなる。
―理力とは、物の理を具現化する力だ。
先ほどキキョウが発現した薬師の理力を例に挙げることにする。
薬の材料を入れて、製法を思い浮かべながら具体的な作り方をイメージする。
だが、ただイメージするだけじゃ理力は発現しない。
しっかりと実感を込めたイメージを込めなければ理から外れて力が逃げてしまう。
*
私はセリスへ理力について疑問に思ったことを確認することにした。
『つまり、実際にその理が実感できなければ理力は発生しないってことか?』
『そうですね。例えば製法を知っていても実際にどうやって作るのか、どういう効能があるかのイメージが抽象的だとうまくいきません。』
『経験だけ積んだとしても、正しい理を理解して具体的なイメージが出来なければ理力は働かないわけだな。』
セリスは深く頷いた。
『才能っていうものなのでしょうね。もちろん理力がなくても剣を振るうことはできますし、火を起こすことや料理だってできます。』
『ただ、理力でそれを具現化することはできない…か。』
『そういうことになります。』
そして、ごく親しい誰かを思い起こして苦笑しながら言った。
『ごく稀なケースで、見たこともない理を完全に理解して全く未知の理を具現化できる人もいるようですが…。』
―そういえば、ミスリル以外にを理力を発現することはできるのか?
私はミスリルの棒のことを想いながらさらに確認を進める。
『そういえば、理力を発揮できるのはミスリルだけなのか?。』
セリスが何かを思い浮かべるように上を向く。
『イースタンではミスリルがメインですが、他の地方では違う物質で行っているかもしれないですね。』
『そうか…呪いのように相手に直接危害を加えるようなことあるのか?』
『いえ、そもそも理力で具現化した力で相手を傷つけることはあっても、何もないのにいきなり怪我をするのはおかしいとは思いませんか?』
『確かにそれもそうか…』
とりあえず、理力については大体のことはわかったような気がする。
私と桔梗はセリスに感謝をすると、セリスは笑顔でそれに応えてくれた。
それからしばらくメディを待っている間に、セリスがふと思い出したようにこちらを見た。
『そういえばガイ様は”超越者”って知っていますか?。』
私と首を振って桔梗を見たが、桔梗も何の事だか分からないという顔だ。
『いや、知らないな。』
*
―セリスが超越者について私たちに話してくれた。
古くから伝わる伝承によると数百年に1度の確率で、世界の境界を超えて英雄がこの世界にやってくるそうだ。
そしてその英雄達は人知を超えた理力を持つものが多かったらしい。
ただ…その超越者たちは世界に災厄をもたらすものが多かったそうだ。
世界征服を試み支配下の国に圧政を強いた超越者…
自らが受けた苦痛を皆に解らせると殺戮を行った超越者…
神を信じず、教会という教会を焼き払った超越者…
真理の名のもとに自分ごと都市を消し飛ばした超越者…
どれも世界を危機に陥れるに十分たる実力とそして人を人とも思わぬ性格を持つ者が多く、昔は超越者が現れるということ自体が世界の危機につながると考える者すらいたそうだ。
*
私は思わずドキリとしたが表情を変えずにセリスに聞いた。
『善良な超越者は居なかったのか?』
セリスは難しい顔をして語り出す。
『そうですね…伝承にはありませんでしたが…』
―セリスの話を要約すると、
もしかしたら世界とかかわらないようにしたのかもしれない。
超越者は何故か前の世界では英雄のはずなのにすべてに裏切られたような表情をしていたり、人だけでなく何者にも興味がない顔をしていたということが、伝承に伝わる共通点なのだそうだ。
私は内心思い当たる節を感じつつも表情に出さず、穏やかな笑みを浮かべてで礼を言った。
『そうか…ありがとうセリス。』
セリスが私たちを見て冗談交じりに話した。
『いえ…ガイ様の動きやキキョウ様の先ほどの光景を見たら、もしかしたらガイさん達って伝承の超越者かなと思ったけれど、伝承の超越者とは似ても似つかない感じですからね。』
―だが、もしかしたら…
桔梗のほうをチラリと見た。
桔梗は一瞬の間困惑した顔をしたが、セリスが桔梗を見た時には笑顔になっていた。
だがその一瞬の表情の中に、激しい感情の渦を感じずにはいられぬ何かがあった。
その時、バタンという扉の音と共にメディが大泣きながら桔梗に抱き着いた。
『お嬢ちゃん、本当にありがとう。』
桔梗は困惑しながらも嬉しそうな顔になっている。
私は内心ほっとしていた。
―何か思うところはあるだろうが、薬のことで喜ばれるのは桔梗にとって嬉しいものだからな。
セリスもメディに抱き着かれる桔梗をみて微笑む。
『そうですね、アルやメディの為ににこんなに理力を使える人達が、超越者のはずがありません。』




