アルの婚約者
文章校正しました。(2020/5/17)
アケロスからミスリルの刀を受け取りった私は、先ほど疑問に思っていたことを聞こうとした。
『そういえば、理力って結局何ですか?』
アケロスがそういえば知らないんだったなという顔をして、
『ああ、理力ってのは…』
と言いかけたところで、扉を蹴る音と共に工房の扉が勢い良く開いた。
工房の入り口から妙な威圧感を感じて思わずそちらに注目すると、金髪の美人さんが憤怒の表情でアケロスを睨み付けている。
*
美人さんが底冷えのする声でアケロスを問いただす。
『お父さん…アルベルトに何を言ったのかしら?』
お父さん? 似ても似つかないもんだな、あんないかついアケロスにこんな美人な娘がいたとは。
きっとお母さんに似たのだろうな…。
アケロスはケロッとした顔でそれを受け流した。
『なに怒ってんだセリス? 本物の男は家の力を借りずに自分の力で贈り物をする。それが誠意ってもんだって教えただけさ』
セリスの顔が怒りで紅潮する、そして二人の言い合いが始まった。
『そのせいでアルベルトが死にかけたのよ!』
『そんときゃ…それまでの男だったってこと…だよな?』
『なんてこと言うのよ!』
アケロスが私の肩をバンバン叩きながら、セリスにどや顔をして怒鳴った。
『うるせえ! そこのマセ…じゃなくてガイだって、隣にいる嬢ちゃんのために何度も死線くぐってた末に駆け落ちしてるんだから、アルベルトだってそれくらいできるだろうさ。』
なんというか…勘違いされているうえに、親子喧嘩に無理やり巻き込まれそうな状況に桔梗へ助けを求めるように視線を向けると…。
―そこで赤くなるのはさらに誤解が深まるんだけどな。
*
アケロスと一通りの喧嘩をした後、セリスは先ほどまでの鬼気迫る表情から可愛らしい笑顔に表情を戻し丁寧にお辞儀をする。
『このたびは、私の婚約者が大変お世話になりました。』
『いえ、こちらこそ右も左もわからぬ土地で厚意をいただき感謝しております。』
『アルから聞きましたけど、ガイ様はとても凛々しい人ですね。先ほどの動きをみれば、一瞬で複数の野盗を倒したのも頷けます。』
『あと、お母さまから聞いた通りキキョウ様はとても可愛らしいですね。』
桔梗が少し照れながら笑顔をセリスに向けた。
そこでセリスが思い出したようにポンと手を叩いた。
『実はアルからこの街を案内してやってほしいと頼まれていたので宿へ行ったのですが、お母さまがこちらにいらっしゃると教えてくれて』
そして、怖い笑顔でアケロスに向き直った。
『さてお父様、私も久々に家に帰るので、後でお母様と一緒にしっかりお話ししましょうね♪』
クラリスの名前を出されたアケロスの目が見開いた。
『おい! クラリス使うのは卑怯だろ…』
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、アケロスはしょんぼりとうなだれている。
*
半ば強引にセリスに手を引っ張られながら私達は工房を後にすることになった。
『さあ二人とも、私と一緒に街を巡りましょうね。こんな因業親父が居るところで時間を潰すなんてあまりに時間が勿体ないわ。』




