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帰るべき場所

私達はホッドの遺体を棺に入れ、急ぎセントラルに戻った。


フレイはセントラルの広場で民達に告げる。

「セントラルの民達よ。カイン王はカナン平原の戦いに打ち勝ち、そしてノースを解放された。アルテミスは再び一つとなったのだ!」


セントラルの民達は歓声を上げる中、フレイは右手を高く上げる。


フレイの言葉を聞くために静かになる中、彼女がその後の言葉を続ける。

「我らがカイン王は、今回の戦いにおいて敵として戦った者の家族に対しては、罪に問わないと申された。そして、ユーフラト及びカナンの決戦で戦死した者達の死者をセントラル郊外に埋葬して、年に一度慰霊祭を行うことを決められた。」


民達はカインの慈悲深さに感銘を受けたが、皆共通の思いを抱いていた。



――この戦いを引き起こした者に対して、どう責任を取らせるのだ。



フレイは、民達の表情を見て静かに首を振る。

「そなたらは血を求めているようだが、王はそれは望んでおられぬ。ホッド殿は相応の報いを受けられたのだ。」


そして、錫杖によって使い潰されたホッドの末路を民へ語った。


民達にもホッドを哀れに思う気持ちが生まれ始めたところで、フレイはカインの布告を伝える。

「カイン王はホッド様の王子としての身分は剥奪せずに、王族として国葬を行うと申されておる……自国の民がこれ以上死なたくないというお気持ちと共に、再びアルテミスに同じ過ちを犯してはならないという強い決意の表れなのだろう。」


民達は複雑な思いを抱いたが、カインの気持ちが痛いほど伝わって来たため、それに従うことにした。



フレイは周囲を見渡した後、民達に微笑して告げる。

「さて、暗い話はここまでだ。これからセントラルは忙しくなるぞ……カイン王の凱旋に、献身的に助力してくれたヘカテイアの軍勢への歓待。さらに、ノースの民達が自領に戻る際の祝賀も行わなければならぬな。戦いの終わりに相応しい祭りを我らで執り行い、平和への足掛かりへとしようではないか。」


セントラルの民達は笑顔になって叫んだ。

「カイン王が戦いで未来への道を切り開いてくれた……これからは俺達が王を支えるのだ!」


民の気持ちが一つになる中、バルデルはユミルにささやいた。

「俺とホッドは……一番大事なものを見ていなかったのですね。」


ユミルは静かに頷き、バルデルの肩に優しく手を乗せた。

「私が悪かったのだ……本来、一番教えておかなければならなかったことのなのに、当たり前のこと過ぎて教えることができなかったのだ。だが、今のお前ならもう大丈夫だ。クロードをよく支えて、デボラと共にウエスタンで幸せに暮らせるだろう。」



広場にいた人々が、慌ただし気に自分の家に戻っていく。

まだ、戦いによって傷つけられた心が痛む中、人々は前向きに動き続けることでその傷を癒そうとするのだった。


 *


それから二週間後、カイン達の軍がセントラルに凱旋した。


セントラルの民達が城外に出て、歓声を上げながらカイン達を出迎える。


カインは右手を天にかざして民達に向かって宣言する。

「愛するセントラルの民達よ……約束は果たされました。余は宿敵ホッドとセレーネの軍を成敗し、ノースを解放しました。アルテミスに平穏が取り戻され、これより先は新しい時代が始まるのです。」


民が静かに聞く中、さらにカインは民達に語り掛ける。

「この戦いで、大事な者を失って心が夕闇に染まるように暗い気持ちが蔓延しました。だからこそ、我々は力を合わせて前に進んでいかなければなりません。余と共に未来へ向かって共に歩み、そして幸せをつかんでいきましょう。」


民達は皆カインに平伏して叫んだ。

「我らセントラルの民は貴方様に従います。共に未来に幸あらんことを!」



カインは穏やかな顔をして頷き、セントラルの門をくぐるのだった。


 *


王宮に戻ったカインは、バルデルとロタ達と接見した。


バルデルはカインに傅いて礼を言う。

「ホッドへのお慈悲、真に感謝いたします。」


ロタもカインに傅いて、静かに告げる。

「大罪人である夫と私達に対して、過分なお心遣いを頂きましてありがとうございました。夫は私とクリームだけでなく、最後にお母上と会うことが出き……安らかに旅立ちました。」


カインは静かに頷くと、フレイの右腕に着けられた黄金の腕輪を見た。

「王妃様がホッド様を迎えてくださったのですね。彼もまた、錫杖の被害者だったと思っています……三日後には葬儀を行いますので、皆様にもご出席願います。」


ロタが涙を流しながら頷く。

傍らにいたクリームがカインに深く頭を下げる。

「お父様はとても優しい顔で旅立たれました……ありがとうございました。」


カインはクリームに優しく笑いかけた後、皆を下がらせてフレイと共に私室へ戻った。


 *


カインはフレイに優しく話しかける。

「フレイ……ただいま。何とか無事に戦いに勝つことができたよ。」


フレイがカインに抱き着いて涙を流した。

「ガイとキキョウが居なくなったと感じた時、カインのことも心配で堪らなかった。だが、きっとお前のことだ……約束通り帰ってきてくれると信じていたよ。」


カインはフレイの背中をやさしく撫でる。

「僕がいない間にセントラルをとてもよく護ってくれたね。そして、ホッド様を王妃様に合わせてくれたことを感謝するよ。」


フレイが静かに首を振って、カインに桔梗の笛について説明した。


カインは納得したように頷いた。

「そうか……私達も戦いに勝利した後、キキョウ君のこだま笛の音を聞いたよ。戦いで傷ついた者の心を癒すような優し気な旋律だった。」


フレイはカインを見つめて微笑した。

「私達は最後まで、ガイとキキョウに助けられたようだな。」


カインはフレイを抱き寄せて優しくお腹を撫でた。

「そうだね……彼らには感謝してもしきれない。僕らも彼らに負けないよう立派に国を治めて行こう。この子が幸せになれるようにね。」


フレイは嬉しそうに頷き、カインに寄り添った。


二人はお互いの存在を強く感じながら、これからの時代を共に歩むことを改めて誓い合ったのだった。


 *


それから三日後、ホッドの葬儀が執り行われた。


カインとフレイが棺の前に、そしてユミル、バルデルが脇に、最後にロタとクリームが続いた。


セントラルの民達は複雑な表情でホッドを見送る中、どこからか優し気な笛の音が聞こえ始めた。


マグニとクロード、そしてブライが笛の音に呼ばれるように静かに棺の後に続く。


それを皮切りとして、人々がホッドを許すように傅いた。


葬儀自体はさしたる問題もなく終わり、ホッドの遺体は霊廟に安置されたのだった。


 *


さらにそれからしばらくして、ノースの民達がセントラルへ辿り着いた。


セントラルでは、彼らを歓迎するための祭りを行い、三日三晩の間宴会が行われた。


ノースの民達は、ノース軍と共に勇敢に戦ったバルデルとナインソードを讃え、彼らと酒を酌み交わすことで彼らを赦した。


そして、カイン王へ拝謁してノースの開放について感謝するのだった。


 *


一通りの戦後処理が終わったため、各領主と軍はそれぞれの地方に戻ることとなった。


カインが私と桔梗の手を握って穏やかに笑った。

「私達はセントラルに残りますが、マグニやアルベルトのことを頼みます。」


私達が笑顔で頷くと、フレイが悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「あともう少しもすれば、お前達も結婚するのだろう? その時は絶対に私達抜きで結婚式をするでないぞ。」


桔梗がフレイの手を取って優しく告げる。

「もちろんです。フレイ様のお子様が生まれたら絶対に見に行きますので、その時は教えてくださいね。」


フレイも嬉しそうに笑って頷いた。


クロードとバルデルが私たちに駆け寄ってくる。

「落ち着いたら、是非ともウエスタンに来て欲しい。民もそなたらに会うことを楽しみにしているだろう。」


ブライも私達に駆け寄って微笑した。

「ノースにも来て欲しい。民達がきっと会いたがるだろうさ。」


私達が笑顔で頷くと満足した顔をして、彼らは自領へ戻っていく。


マグ二が、快活に笑いながら私達に告げる。

「ガイ、キキョウ、俺達もサウスに帰ろうではないか。」


そして、マグニはカインに一礼した。

「義父上、不肖の息子ですが……ご期待に応えて、サウスをしっかり治めて見せます。また再び会える日を心待ちにしております。」


カインは満足げに頷くと、マグニの肩を優しく叩いた。

「君は為政者としての才がある。恐らくこの世界の人間の中ではとびぬけて高い。それに奢ることなく今のまま、真っ直ぐに生きて欲しい。息子として愛しているよ。」


マグニは嬉しげな顔になり、カインに笑いかけた。

「義父上のお言葉忘れませぬ。アルベルト殿と、ガイ、キキョウ、そしてアケロスさんの言葉をしっかりと聞き入れて、より良く領地を治めます。」



そして、マグには勇ましく叫んだ。

「さあ、我らのサウスに帰ろう! 民達が私たちを待っている。」


こうして、私達はセントラルを後にして、サウスへと帰還するのだった。


 *


サウスの街に近づくと、私達を待ちきれなかったグエンとダナンが飛びついてきた。


グエンが顔をくしゃくしゃにして、泣きながら私に抱き着く。

「お頭! もうどこにも行かないですよね……あの時、俺達はお頭と姐さんがどこか遠くに行っちまう気がして、心が張り裂けそうになりやした。」


ダナンが泣きながら私に縋りつく。

「俺もそうですぜ……本当に心配しました。でもこうして無事に帰ってきてくれたことが嬉しいです。」


私は二人の背中を優しく叩きながら、話しかける。

「イースタンを調略してくれたんだってな……本当に助かったぞ。お前たちのおかげで、イースタンと争うことがなく、私は安心して戦いに集中できた。」


二人が嬉しそうに笑う中、桔梗が優しく告げる。

「私達が虚空に飛ばされた時、お二人の声がよく聞こえましたよ。凱さまのことを思ってくれて本当にありがとうございます。」


グエンとダナンは照れたように笑って、桔梗に深く礼をした。

「姐さんあってのお頭です。それに俺達は姐さんのことも大好きですから……だから、帰ってきてくれて本当に嬉しかったです。」


桔梗が嬉しそうに頷く中、ダナンとグエンは私達の傍らにきて頭をかいた。

「すみません……あまりに嬉しかったもんで。アケロスさんとクラリスさんが、サウスの門前で首を長くしてお頭と姐さんをお待ちしてます。」



私達は、再びサウスに向かい……そして、門前にいるアケロスとクラリスが見えてきた。


アケロスとクラリスは私達に向かって手を振っている。


私と桔梗は思わず駆け出した。


桔梗はクラリスに抱き着き、感極まって涙を流した。

「ただいま、お母さん……私、お母さんにまた会いたかった。」


クラリスが優しく桔梗の頭を撫でながら涙を流す。

「おかえりなさい、キキョウちゃん。あの時、もう会えないかもしれないと思って……本当に辛かった。無事に帰ってきてくれて、本当に嬉しいわ。」


アケロスが、私の肩を優しく叩いた。

「お前ともあろう奴が……あまり俺を心配させるんじゃねえ。まったく……最後まで世話が焼ける奴だよ、お前は。」


そして、思いっきり私のことを抱きしめた。

「馬鹿野郎が……お前は俺の息子なんだぞ……勝手にどこかへいなくなるんじゃねえよ。」



――私の額に熱い涙が伝わってくる。



私はアケロスに笑いながら話しかける。

「アケロス……私は貴方の息子になれて本当に良かったよ。」


アケロスは静かに涙を流しながら、愛おしげに私のことを抱きしめ続けた。



私と桔梗は親の温もりを感じて、今さらながらに戦いが終わったことを強く実感するのだった。

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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