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ミスリルとの出会い

理力については、あと数話後にしっかり説明します。

ちなみに『戟』は昔の中国の武器でハルバードのような斧槍です。


文章校正しました。(2020/5/17)

『街へ出るならこれも持って行ってね。』


クラリスさんからアケロスへの弁当を預かり、私と桔梗は町へと繰り出した。


中規模ながらも、とても活気のある街並みであちこちに露店がある。

肉や魚が串に刺されていて、それを焼く香ばしさが風に乗って私たちの鼻をくすぐった。


 *


「ここがアケロスさんの工房か…」


クラリスさんから、目立つ煙突があるからわかるといわれていたが、小さいながららもかなり立派な工房だった。


道具もかなり手入れされている上に、灼けた金属を叩いている音からも腕の良さが感じられる。


アケロスは弁当の香りを嗅ぎ付け、一瞬うれしそうな顔をするもすぐに残念そうな顔になった。

『ん? この匂いはクラリスか! …ってなんだ、マセガキかよ。』


そして私を一瞥して、脇にある小さな棚を指さした。

『…弁当はそこに置いてくれ。』


私は苦笑しながら、ちょっとだけ反論する。

『私には凱という名前があるので、出来ればそう呼んでもらいたいものだ』


アケロスは昨日のことを思い出したのか、にべもなく私に言った。

『お前みたいな()()()にはマセガキで十分だ。』



アケロスが顎で桔梗を指したので私は思わず視線を横に向ける…


昨日のことを思い起こした桔梗が、”ヘタレ”の部分に同意して大きく頷きかけていたが、私の視線に気づいた瞬間にぶんぶんと首を振った。



弁当を棚の上に乗せ、改めて工房を見渡した。


実用的な剣や短刀、そして弓矢、身分の高い者の武器と思われる見事な意匠が込められた剣が整然と並べられており、どれも見事な出来だった。


そして…工房の片隅に白銀の金属で作られた棒が大事に置かれていた。



―飾り気もなく無骨なように見えるが、棒にしてはやけに洗練された造りでどこか惹かれるものを感じる。



私はこの棒についてアケロスに問いかけた。

『この棒は? …妙に惹かれる気がする。』


アケロスが良い目をしているという顔で私を見た。

『ああ、そりゃあミスリルの武器だ。軽くてしかも理力が込められる』


『ミスリル? 理力とはなんです?』


『ちょっと待ってな…ここで気を抜くとすべてがやり直しだからな』


とアケロスが金属の焼き入れを終わらせ、棚の前で弁当を食べながら私たちにミスリルについて教えてくれた。


 *


ここは国の最東の街イースタン。

そのさらに東に鉱山があり、そこでミスリルという金属が採れるらしい。


ミスリルはこの鉱山でしか取れない希少な金属で、イースタンは辺境ながらも潤っている要因となっている。


ミスリルは鋼の半分以下の重さながらも、硬度は金剛石ほどと、武器や防具の材料として優れている。


その性質のせいか、ミスリルを加工することは、この街ではアケロスただ一人のようだ。


 *


アケロスが自慢げにミスリルの棒を眺める。

『なんせ、こいつを鍛造するには俺の理力がなければ無理だしな』



アケロスが誇らしげに笑いながら私達の金属札を指さす。

『お前達が付けている金属札もミスリルだぜ』



私は再度、見惚れるように棒を眺めた。

『しかし…見事なものだな』


『まあ、使いこなせない奴が触ってもただの棒だがな。ちょっとだけなら触っても良いぜ』



アケロスに促され私はミスリルの棒を手に取って工房の外に出た。


 *


―手にした棒はとても軽くそして、手によく馴染む。

昔愛用していた(げき)を思い起こさせる手触りだった。

心なしか棒の切っ先が鋭く変わり、いつの間にか昔愛用していた戟の形へと変化していく。


それにつられるように私は戟の演武を行っていた。


鋭く突きを行いながら、今度は踊るように薙ぐ。


戟を半回転させ、石突で地面を突き、高く飛び上がりながら鋭く振り下ろす。


―思いのままにそして手になじむ感触、思わず笑みが零れる。




―そのままの流れで、今度は愛刀の姿を思い浮かべる。

自然と戟が鞘に納まった刀となり、私は心静かに目を閉じて刀を腰だめに構える。


ピンと張り詰めた気配の中、カッと目を開くと共に鋭く居合抜きを放った。


―軽い…と感嘆すると同時に体が歓喜に沸く。


私は抜いた刀を水が流れるように斬撃につなぎ、そして静かに刀を鞘に納めた。


 *


ふと周囲を見ると、人々が脚を止めて固まっている。


桔梗は当然のことだという顔をしているが、アケロスは目を見開いていた。


歓声が上がり、人々が私に近づいてくる。


投げ銭をしてくるということは、大道芸の一つと勘違いしたのだろうか。


衛兵が駆けつけてきたので、アケロスが慌てて何かを伝えてくれている。


桔梗が状況を私に説明する。

「アケロスが凱さまに異国の芸を見せてほしいと頼んで、それを披露してもらったと説明してくれているようです。」


なおも詰め寄ろうとする衛兵が、私と桔梗の金属札を見た瞬間に何かを察し、しぶしぶといった形で立ち去って行った。


 *


アケロスに工房に戻るように手招きされ中に入る。


アケロスが心底驚いた顔で私を見つめた。

『しかし…なんだ今のは? どんな理力をミスリルに込めたんだ!?』


私はアケロスの問いの意味は分からなかったが自分がしたことを伝えた。

『そもそも理力というのが解らぬが…昔扱っていた武具のことを思い浮かべていた』


アケロスが首をかしげながら私の容姿とイメージの違いに悩んでいるようだ。

『どう見てもあれは歴戦の兵の理力だぞ…お前…その年でどれだけの死線をくぐっているんだ!』



桔梗を一顧すると、『少しやりすぎましたね』という顔をしている。


とりあえず私はお茶を濁すことにした。

『私にも色々とあったということさ…』


アケロスが深く思案した表情をした後、何かに気づいた顔をする。

『マセガ…いや”ガイ”だったな、勘違いしていてすまなかった…まさか駆け落ちにそこまで命かけていたとは、お前は男の中の男だ!』


後ろで桔梗が噴き出している音が聞こえる。



―どうやら勘違いをさらに深めてしまったようだ。



私は刀に代わってしまったミスリルをアケロスに差し出して、結局これは何なのかを聞こうとした。

『ところであのミスリルだが…』


私が問いかける前にアケロスは私の両肩を思い切り叩いた。

『あれはガイにくれてやる、ミスリルの武器だから名士(アルの父親)には説明する必要があるが

 そんな細けぇことは良い! 俺はお前が気に入った!』


そして、ちょっと悔しさを顔に浮かべながらも嬉しそうにつぶやいた。

『…それに、あんな理力込められたら他の奴にはもう使えないだろうからな』



そして押し付けるように私に()()を渡してくれた。

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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