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決戦に向かう者達

ホッドはノースの明け渡しについての報告をリーグから聞いたが、特に表情は変えなかった。


彼は威厳を込めた声でリーグに告げる。

「まさか、サウスの使者がノースにまで来るとは思わなかった。そして、アレス王には特に咎はないだろう。」


リーグは納得がいかない顔をして問いかける。

「アレス王は、超越者を始末する良い機会だったというのに、それをみすみす逃したのです。あの者がサウスと内通していたらどうなさるおつもりですか?」


ホッドは呆れた顔をしてリーグを見据えた。

「その時はアレス王が崩御なされるだけのことだ。アレスという柱を失ったセレーネがどうなるのか、見てみたい気もするな。」


ホッドは思い出したようにリーグに確認をする。

「ところで、セレーネの援軍はこちらに向かっているのか?」


リーグは笑みを浮かべて答えた。

「もちろんでございます。三千の援軍がノースより出陣しております。」


ホッドは満足げに頷くとリーグを下がらせて私室に戻った。



私室に戻ると、(ロタ)(クリーム)がホッドを出迎えた。


クリームは白銀の髪の毛を輝かせながら、愛らしい顔でホッドに笑いかける。

「お父様、今日も執務お疲れ様です。」


ホッドは目を細めてクリームの頭を撫でた。

「ほう……まだ八歳だというのに、クリームは淑女のような挨拶をするな。」


クリームはホッドに笑顔で話しかける。

「私も早くお母様のような淑女になって、お父様のお役に立てるようになるのです。」


ホッドは嬉しそうにクリーム笑みを見せた。

「まだ私の可愛い娘でいてくれてかまわないのだよ。いつか良い嫁ぎ先へ行く時まではね。」


ロタが微笑してホッドに話しかける。

「最近、貴方がお疲れの顔をしているのを見て、クリームなりに親孝行をしたいと思ったのでしょうね。体のお加減はいかがでしょうか……少しおやつれになった気がいたします。」


ホッドは苦笑して静かに首を振った。

「大事ない……民達も此度の戦いで勝利すれば、誰が真の王として相応しいかを理解するだろう。余がいない間、クリームのことを頼んだぞ。」


ロタは優しげな顔でホッドに微笑む。

「貴方がいない間、しっかりとこの子を守って見せますわ。ですから後顧の憂いなく戦ってきてくださいませ。」


ホッドは穏やかな顔で妻と娘を見つめた時に、錫杖が警告するようにホッドを照らした。


ホッドはひとりごちる。

「分かっているさ……王にさせてくれた借りは、しっかりと返さねばならぬということは……」


ロタとクリームはそんなホッドの様子を見て、えも言われぬ不安に駆られずにはいられなかった。



それから間もなくして、ホッドは約一万の兵を率いてセントラルを出陣した。

彼の軍勢に追随して、セレーネの軍勢三千が整然と軍靴の音を響かせながらユーフラト平原に向かうのだった。


 *


カインからの合図を待っていたある夜。


ウエスタンの領主館の大広間では、サウスとウエスタン、そしてノースの主だった者達で親睦の宴が行われていた。


バルデルはナインソードの新しい武器について私に語り始めた。

「あいつらの分のミスリルの大剣を職人が作ってくれたが、なかなか良い出来だった。特に弓に対して強そうだな。」


私は模擬演習での彼らの動きを思い出して、笑みを浮かべた。

「あの大剣は集団戦で真価を発揮するようですね。矢を払った後の回転切りはとても見事でした。」


バルデルは誇らしげに笑った。

「あいつ等は自ら前線に立って、俺の道を切り開かんとしてくれるのだ。」


デボラが不安そうな顔をしてバルデルの顔を見たが、彼は優しく彼女に告げる。

「大丈夫だ、もう二度と手柄欲しさに突出するような真似はしない。戦いに勝つための道を切り開くのとそれは違うのだ。」


デボラは安心した顔を見せた後、優しげにバルデルに微笑んで彼の杯に酒を注いだ。


バルデルはマグニにも声をかける。

「マグニ殿のロングソードの妙技を見せてもらったが、素晴らしかったぞ。サウスにはガイ殿だけでなく貴殿という達人がいるというのがよく分かった。」


マグニは嬉しそうにバルデルと話し始めた。

「ありがとうございます。そういえば、バルデル様は知っておりますか? ガイが訓練用に使っている武器のことを。」


バルデルが興味深そうにマグニの話に飛びつき、彼らは修行についての話を飽く事無く続けるのだった。



クロードがバルデル達の様子に満足げに頷き、トールに声をかける。

「ウエスタンの兵士達が貴方の采配を見て驚いていました。まるで全てが見えているが如くで、赤子の手をひねるように容易く陣を突破されてしまうと。」


ブライもトールに酒を勧めながら、彼の戦術を称賛した。

「昔のノースでの戦いでも神がかった采配でしたが、今の貴方は人を超えたような指揮をされておりますな。」


トールはブライから注がれた酒を飲みながら微笑する。

「ウエスタンやノースの方々と演習をしましたが、日頃から有事に備えた訓練を行っていると感じました。これほどの猛者たちと戦場に臨むのは、私の人生の中でも初めてのことでしょう。」


ブライはマグニの方を見てトールに語りかけた。

「マグ二殿があれ程の器量に育たれたとは……同世代ながら、水を開けられたものですね。」


トールはブライを優しげな眼で見て、彼に酒を勧めた。

「ブライ様はノースという最前線で立派にノースの領主をお勤めになられたではないですか……それに、マグニはカイン公やその周りの人々によって、あそこまで育てていただいたのです。息子一人ではあそこまで成長することは出来なかったでしょう。」


ブライは酒を一気に飲み干すと、笑顔になった。

「貴方にそう言っていただけるのであれば、そうなのかもしれませぬな。ノースを取り戻して、再び領主としての務めを果たそうと思います。」


トールは穏やかな顔で頷く。


三人は意気揚々と、これから続く戦いについて語り合うのだった。



ニエルドが彼等を優しげに見つめた後、私に近づいてきて耳打ちをした。

「戦後のセントラルが少し気がかりですね……少し工作してもよいですか?」


私は彼の意図を察して頷く。

「セントラルで暴動が起きるでしょうから、それを機に兵士たちの調略を行うということですね。」


ニエルドは微笑して懐から書簡を取り出した。

「ユミル王からの書簡を頂いております。『これ以上無用な抵抗をしなければ、カイン様が即位した時に恩赦を出す』という内容のものです。」


私は彼の用意の良さに舌を巻きながらも、少し安堵する。

「自国同士の民が争うほど悲しいことはないでしょう。これでセントラルが降伏してくれればありがたいものですね。」


ニエルドは笑みを浮かべた。

「そうですな……ホッド様についた兵士達も、愛する民達がいるセントラルを戦火に巻き込みたくないという、ユミル王の慈悲の心を理解してくれると良いのですがね。ただ、この策がうまくいった時は、ホッド様は窮地に立たされるでしょう。」


私は深く頷いたが、一つ彼に頼みごとをする。

「セントラルに戻れぬ以上は、ノースに退却するしかないですからね。兵糧などの観点から見ても、後は短期決戦をこちらに挑むしかなくなるでしょう……ただ、可能であればホッド様の身内については保護していただけないでしょうか?」


ニエルドが不思議そうな顔をして私に問いかける。

「構いませぬが……今更ホッド様を降伏させたとしても、さすがにここまでの状況となれば死は免れないでしょう。何かお考えでもあるのですか?」


私は静かに彼に伝える。

「ホッド様もまた、錫杖の被害者だと私は考えております……せめて、彼が愛した者だけでも救ってやりたいと思っただけです。」


ニエルドが納得した顔をして頷いた。

「そういうことでしたら、私もユミル王とカイン公に助命の嘆願を致します。」



私はニエルドに感謝すると、桔梗を呼んだ。

「此度の戦いでは、桔梗に斥候をしてもらおうと思う。」


桔梗は頷くと、私に問いかける。

「わかりました。ところで凱さま、伝達はどのようになされますか?」


私はニエルドに頭を下げる。

「影の者のお力を貸してはいただけませんか? 桔梗からの伝達をスムーズに伝えるのにどうしても必要なのです。」


ニエルドは笑みを浮かべて快諾した。


私と桔梗はニエルドと伝達の方法について話し合いを行った。


クロードが興味深げな顔をして私達の話し合いに割り込んだ。

「面白そうな話をしているな……折角だから皆でそれについて話さぬか?」


私は快諾すると、皆に斥候の話と情報伝達の方法についての説明を行う。


話を聞いたものは、驚きながらも私達が空を飛べることの強みを再認識した。


マグニは笑みを浮かべて私の肩を叩く。

「自軍だけでなく敵地の情報が全て分かるなら、かなり戦いを優位に運べるな。」


クロードとブライも頷いた。

「どこに攻撃して、援軍を送るべきかが分かるのは大きな利点となるだろう。」


結局、私達は真面目に軍議を始めてしまった。


酒が良い意味で潤滑剤になってくれたのか、みな快活に論議をして広間は熱気で包まれるのだった。


 *


私はクロードの計らいで、領主館の一室で一泊することになり、窓辺でウエスタンの市街を眺めていた。


桔梗が私の後ろから声をかける。

「凱さま……今、よろしいですか?」


私は静かに振り向くと、彼女は私の傍らに立って一緒に景色を見て呟いた。

「イースタンの陰謀から始まって、国を二分する闘い……私達は、結局このような世界をめぐる戦いに臨む運命なのでしょうか?」


桔梗の髪を撫でながら私は囁く。

「確かにそうかもしれない。だが、今は桔梗が好きだという気持ちを隠さずに戦える……それだけでも幸せだとは思わないか?」


桔梗は笑みを浮かべて私に抱き着いた。

「そうですね……だからこそ、何としても最後まで生き延びましょうね。」


私は彼女を優しく抱きしめ返す。

「それにな、サウスで約束したことを覚えておるな? 私は今の世界では天下ではなく愛する者と一緒に生きるために戦い抜くのだ。」


桔梗が顔を上げ……そして私たちは唇を重ねる。



夜空に輝く月が穏やかに私達を照らしている。


それに呼応するようにミスリルのマントが黄金色に淡く輝き、私達を優しく見守るような温もりを与えるのだった。


 *


それから数日後、ついにカインの出陣を知らせる狼煙が上げられた。


ウエスタンやノースの民達が私達を激励する中、我々はホッドとの決戦を告げるべくユーフラト平原へと進軍するのであった。

いつも本作を読んでいただきましてありがとうございます。


この作品をブックマークして下さった方々には本当に感謝しております。

しっかりと最後まで書き上げられるよう頑張ります。


また、評価や感想・レビューを頂けてとても嬉しいです。

より良い作品が書けるように自分のベストを尽くします。


最後になりますが、

もし、本作を読んで評価しようと思った方は、

↓ににある☆を選んでこの作品を評価していただければ嬉しいです。


今後とも本作をよろしくお願い致します。

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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