金属札
今回は毒の話が入っていますが、
毒で有名なトリカブトも、
処理の仕方によっては麻酔薬として使うことも出来ます。
まさに薬と毒は紙一重ですね。
文章校正しました。(2020/5/17)
日の光を感じ、静かに目を開けると…桔梗が昨日採取した野草を齧っていた。
「おはよう桔梗、目が赤いが眠れたかね?」
桔梗は赤い目をしながら健気にも気を張ってこたえる。
「は…はい、眠れました…」
―その様子を見る限りは、どう見てもあまり眠れたようには見えないぞ。
*
理由は…昨日、私達が寝ていたダブルベットのせいだろう。
クラリスさんが変な気を利かしてしまったために、桔梗が顔を真っ赤にしながらダブルベッドを凝視してオロオロしながら固まった。
「布団がひとーつ…枕が二つ…」
謎の呪文を唱える桔梗に、私が床で寝ようかと提案すると。
桔梗が血相を変えて首を激しく降った。
「とんでもございません! 私が床に!」
そしてお互いが床に寝るのだというとても無駄な応酬を四半時ほど続け、結局一緒の布団で寝ることになったのである。
桔梗が背中を向けて布団の中央をバンバン叩く。
「ここ…こっちから先は来ないようにしてください!」
私は桔梗の頭を撫でて、優しくささやいた。
「桔梗今日はいろいろと頑張ってくれたね、ゆっくりお休み。」
「-っ!? …おやすみ…なさい…。」
と小声で返して頭から布団をかぶって静かになった。
私の方はといえば、最初こそは心の鼓動が早まったが、疲れていたせいかすぐに眠りへと落ちてしまった。
*
―さて…桔梗が野草を食べているということは、おそらく大体は判明していることだろうか。
「どうだ、こちらの世界の毒草や薬草は?」
「見た目や性質は同じようなものなのですが、前の世界とは比較にならないくらい効能が高いですね。」
桔梗が如何にもな見た目な草をつまんで、顔をしかめた。
「毒については私でも一瞬、星が見えかけました…」
私は思わず桔梗の両肩を手で掴んで詰め寄った。
「大丈夫なのかっ!」
桔梗が目を見開いて、慌てて私を落ち着かせる。
「だっ大丈夫です、そもそも私は毒で死んだりしませんから…」
―そもそも里一番の忍者にまでなっている桔梗は、毒にも薬にも詳しい。
どんな修業をしたのかは知らないが毒に対する耐性が極めてに高い。
また、すこし臭いや味を確かめるだけで効能や致死量を推し量ることができてしまうようだった。
私はそれを思い出して素直に謝った。
「そうか…そうだったな、すまない桔梗。」
「なので…その…、手を放してくれませんか、痛いです…」
焦ったせいか、つい強い力でつかんでしまったようだ。
そして、あまりにも距離が近すぎることに桔梗が気付き…また顔を赤くしてバッと距離をとった。
―しかし、桔梗ってこんなに表情豊かな感じだったかな?
いつもの桔梗なら冷静な顔をして受け流している気がした。
私がそんな事を考えていると、コンコンと扉をたたく音がした。
扉を開けるとクラリスさんが居て、私に着替えを渡してくれた。
そして、鼻歌を口ずさむクラリスさんに連れられて、桔梗は別の部屋に連れていかれた。
『キキョウちゃんはこっちで着替えましょうね~♪』
*
―ほう、なかなか着心地の良い服だ。
麻っぽい素材のシャツとズボンで、縫い目もきっちりしている。
紡績の技術が高いのかもしれない。
桔梗の着替えが終わるのをしばらく待っていると、クラリスさんが呼ぶ声が聞こえた。
『ガイ君、ご飯よ~』
広間へ行くと、クラリスさんと…
青紫色の髪を綺麗に結い上げてもらった桔梗が気恥ずかしそうに座っていた。
「ほう…似合うな桔梗。」
と桔梗に声をかけると、また真っ赤になっていた。
クラリスさんがそんな私たちを見て悪戯っぽい笑顔をする。
『十分伝わってくるけれど、この国の言葉で聞いてみたいな!』
私は乾いた笑いでそれを返すが、内心ではこう思った。
―それは聞かなかったことにする!
桔梗の服装を見ると、麻のシャツにズボンといった感じで、私の格好に少し近い感じになっている。
小奇麗な町娘といったところだろうか。
ズボンの裾が広めになっていて、これはこれで洒落が聞いている。
サッパリはしているがとても魅力的で、恐らく多くの男が振り返りそうな気がする。
桔梗も私の服を見てにっこり笑った。
「凱さまも、よく似合っておいでです。それに相変わらずきれいな黒髪ですね。」
私は少し照れくさい気持ちになりながらも椅子に座った。
「そういってもらえると嬉しいよ。」
クラリスさんが私のほうを見て口をとがらせる、
『私はスカートが良いっていうのに、キキョウちゃんったら絶対嫌だって譲らないんだもの…頑固ね!』
そしてぼそっと…獲物を見るような目つきで桔梗を見つめる。
『いつか私が看板娘だった頃の服を着せてみたいものだわ。』
―桔梗はあえて目を合わせないようにしているようだ。
*
朝食を食べ終わった後、二人でクラリスさんにお礼を言う。
『ごちそうさまでした。』
クラリスさんが親指を立てながら、うんうんと首を縦に振る。
『よくできました、昨日言葉を覚え始めたばかりとは思えないくらい上手よ。』
そういえば、私達の処遇についてはまだ確認できていないことに気付いた。
クラリスさんにそれについてアルから何か言われていないかの確認をした。
*
―どうやらアルは賊の取り調べなどで1週間ほどは会えないようだ。
その為、その間は自由にしてもらって構わないということで、金属札を預かっているそうだ。
クラリスさんが注意深く持ってきたそれは、白銀の鎖のネックレスに細長い金属製の札がついている。
どうやらこれは印を押すようにできているようだ。
そこで私はクラリスさんに金属札について尋ねることにした。
『金属札とはいったい?』
『この国では名士に認められたものは、金属札で印を押すことで買い物ができるの。』
『偽造されないのですか?』
『金属札に番号が振られていて台帳に印が押されているし、何より”アケロス”が刻印を打っているからまず偽造されないわね。』
―さりげなくノロケが入っているが、納得はできた。
クラリスさんがそのまま続けて説明をしてくれる。
『あと、これ自体が名士様の重要人物という身分証明のようなものだから、街の人たちや衛士が貴方達を悪いように扱うことはないと思うわ。』
私と桔梗はそれぞれ金属札を受け取り、首にかけた。
『そうですか、それはありがたいです。』
クラリスさんがニコニコしながら宿屋の扉を開けた。
『折角だし、街に出てみてごらんなさいな。』
折角なので、私はに街に出ようと考えて桔梗を誘う。
「どうだ、一緒に行くか?」
桔梗は笑顔を私に向けることで肯定の意思を示した。




