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棄民と為政者達

私はトールにブライと民達のことを頼むと、交渉が上手くいったことをクロードに知らせに、飛蝙蝠で空へ舞い上がった。


ブライとノースの民達は沈んでいた顔をしていたが、私が空を飛ぶ姿を見て驚きに目を見張っているようだ。


ブライが力なく笑いながら、トールに静かに話しかける。

「あのような奇跡を見せられると、このような絶望的な状況でもなんとかなるのではという希望を感じられるものですな。」


トールは微笑してブライに伝える。

「ガイ様は色々な方を救って来ました。カイン公、フレイ様、そして私と私の息子……数えきれないほどの多くの人々を。ですから、ノースの方々も救ってくださると私は信じているのです。」


ブライは、セントラルから来た商人から聞いた話を思い出した。



――白銀のマントを背負った将軍の英雄譚


あまりにも内容が現実離れしていたので、夢物語だと思っていた。


だが、彼へのトール将軍の信頼ぶりや、アレス王との対談の様子、そして今現在見せられた奇跡を見せつけられると、信じてもよいような気がしてくるのだった。


 *


私は二日かけて、ウエスタンの輸送部隊にたどり着いた。


部隊はクロードが直々に隊長を務めている。

馬車のみの部隊で、食料や医療品を満載して、見事な指揮で整然とノースへ向かっていた。


私はクロードの前に舞い降りて、ノースの民をウエスタンに避難させる交渉がうまくいったことを伝えた。


クロードは深く頷くと、ノースの民達の位置を確認する。


私が飛び去った時の場所を伝えると、クロードは満足そうに私に告げる。

「おおよそ二カ月分強の物資を持ってきたが、この分だと間に合うだろう。合流まであと一週間程度といったところだな。」


私は驚いて、彼に問いかけた。

「そんなに早いのですか、あの山の道を超えるのであれば3週間以上はかかると思っていました。何か特別な方法でもあるのですか?」


クロードは笑みを浮かべる。

「ガイ殿でも驚くことがあるとは嬉しいものだな。実は……秘密の桟道がありましてな。数十年前から、ノースの領主とは、有事の時はお互いにその前で待ち合わせをする約定を交わしているのだ。」


私は納得するとともに、クロードに願い出た。

「年を取ったものや、女子供については馬車に乗せていただくことは可能ですか?」


クロードは少し思案したが、了承する。

「承知した……物資を下した馬車を使って輸送するとしよう。」


すぐに彼は書簡を書いて、私に手渡した。


私はクロードに礼を言うと、ノースの民達のもとへ戻るのだった。


 *


私はノースの民達を見つけると、ブライのもとへ舞い降りた。


ブライにクロードからの書簡を手渡すと、彼は私に深く頭を下げた。

「クロード殿の書簡を見て、そなたがどれだけ我らのために尽力してくれたのか、十分に伝わった。」


そしてノースの民たちへ向かって激励をする。

「皆の者、桟橋の向こうでウエスタンの者達が食料などを用意して待っているそうだ。もう少しの辛抱だぞ!」


ノースの民達が歓声を上げるなか、彼はさらに民へ告げた。

「食料の配給が済み次第、老人や女子供は馬車に乗せてくださるそうだ。」


民達はクロード公の慈悲深さに涙を流した。


それから四日ほど経った後、私達は桟道を抜けて、クロード達と合流した。


クロードはブライの手を取って語り掛ける。

「セレーネの防衛をノースが担ってくれたからこそ、今までの我らの安寧が保たれたのです……ウエスタンは貴方達を受け入れさせていただきます。」


ブライはクロードに深く礼をした。

「ウエスタンのご負担になるかもしれませぬが、何卒よろしくお願いいたします。」


ノースの民達は、食料の心配がなくなったことに安堵して笑顔を見せる。


私はクロードとブライに頼まれて、ノース側の桟道入口に渡った。

そして、桟道とつながっている桟橋を落とした。


そして、トールと共にウエスタンに先に戻ることにするのだった。


 *


私達がノースの民達の移動を助けている時、桔梗はサウスに到着した。


彼女はカインとフレイ、そしてアルベルトに私からの書簡を手渡す。


カインは書簡を読むと、複雑な顔をしてアルベルトに相談した。

「ガイ君からの提案で、ウエスタンにノースの民一万人の受け入れをすることになったそうだ。」


アルベルトはカインに問いかける。

「ガイ殿は、私宛に何か書かれたのではないですか?」


カインは苦笑してアルベルトに答える。

「セントラルとの交易量を減らして、その分をウエスタンに格安で回してほしいそうだ。名目は、私がノースの民へ対するホッド様の非道にたいして、心を砕いているということにするらしい。」


アルベルトは微笑してカインに語った。

「ガイ殿も中々辛辣な手を使います……恐らくセントラルの人心が、ホッド様から離れるでしょうね。」


カインはアルベルトに指示をする。

「仮住居としての駐屯用のテントが大量に必要となるが、手配はできるかな?」


アルベルトは笑顔で答えた。

「もちろんです。さらに食糧や衣服の供給もすぐに致します。」


カインは満足げにうなずくと、フレイに話しかける。

「どうやらセントラルだけでなく、ノースも開放しなければならなくなったようだね。」


フレイは憮然とした顔でカインを見る。

「セレーネと同盟を結ぶとなれば、ノースの民は皆殺しになっていてもおかしくなかったのだ。ホッド様は、全く国のことなど考えておらぬ。」


カインは穏やかな顔をして彼女の肩に優しく手をのせる。

「殺されるはずの民が無事だっただけでも良かったんじゃないかな? 私もガイ君の案に賛成だ。私達の戦いによって、彼らが住む土地を追われるなんてことは望まないよ。」


フレイは少し機嫌を直して、カインの方を見る。

「なるほどな、確かにそれはそうだ。だが……セレーネが動くとなれば、ヘカテイアからの援軍を用意しておいたほうがよさそうだな。」


カインは少し思案して、フレイに告げる。

「できれば今回の戦いについては我々だけで戦いたいところだね。そのあとのノース解放については、ヘカテイアの力を借りたいと思っている。」


フレイは難しい顔をしてカインに忠告する。

「セレーネとセントラルの兵を合わせると、我らよりもホッド様の方が相当戦力が上だろう……その上でそう判断するのだな?」


カインは自信をもって答えた。

「私の友人や家臣達は、一騎当千の英雄だからな……烏合の衆に負けるとは到底思えないよ。」


フレイはカインの顔を見て決心した。

「分かった……それでは、ノース解放の戦でヘカテイアに動いてもらうことにしよう。」


カインは笑顔で頷くと、アルベルトも満足げに頷いてウエスタンの支援の準備に取り掛かるのだった。


 *


私達がクロードと合流した頃、ホッドの側近リーグはノースの街へ到着した。


彼はすでに、ノースがセレーネに明け渡されていたことに驚愕した。


ノースの領主の館でリーグはアレスに問いかける。

「アレス王、どのような手段でノースの民達を退去させたのですか?」


アレスは挑発的な笑みを浮かべてリーグに答える。

「サウスの将軍のガイとやらが、お前らの行いによって民が放逐されることを危ぶんで、ウエスタンにノースの民を引き取りたいと交渉してきてな……俺がそれを受けたのさ。」


リーグは色をなしてアレスを詰問した。

「なぜその時に、その者を打ち取らなかったのですか! ガイはサウスの重鎮で、彼を討ち取っておけば戦もかなり有利になっていたというのに……」


アレスは不思議そうな顔をしてリーグに問いかける。

「ノースの民はお前らにとっても足手まといだったはずだ。それに、それを引き取ってくれるという好条件を出されても、あいつを討ち取る必要があったとでも?」


リーグは呆れたように首を振った。

「ノースの民など放逐して飢え死にでもさせておけばよかったのです。それよりも、あの厄介な超越者を始末できなかったほうが問題です……もっと早く私にそれを伝えてくれれば、そのようなことにはならなかったものを! ホッド様には貴方の落ち度をしっかりと伝えさせてもらいます。」


アレスがリーグのあまりに無礼な態度に激高しようとした時、腕に張り付いているミスリルが警告するような光を発した。


リーグは勝ち誇った顔をしてアレスを見る。

「妙な気を起こさぬことですな。盟約に従ってしっかりとノースを譲り渡した分の働きをしてくださいませ。それが我らの王の望みでございます。」


言いたいことをひとしきり言ったあと、リーグは広間を出て行った。



殺気立った家臣達がリーグを刺すような目で見る中、アレスはバッカスにささやいた。

「民を見捨て、そして他国の力を借りねば戦も出来ぬものが王とは……そんな相手と組まなければならぬ我らは、道化以下ではないか……」


バッカスは申し訳なさそうにアレスに答えた。

「私が不甲斐ないばかりに若にこのような屈辱を……本当に申し訳ありませぬ。」


アレスは静かに首を振った。

「要は対価に見合う功績を立てれば良いのだろう? 我らの精強な兵達であれば、そんなことは容易だろうさ。」



アレスの腕を蝕むようにミスリルの文字が輝いている。


バッカスはその不吉な輝きを見て、これからの戦局の不吉さ感じずにはいられないのであった。

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魔王軍の品質管理人

平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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