王の後継者
カインはサウスの家臣一同を広間に集めた。
ユミルとカイン、そしてフレイと重臣たちは中央に悠然と座っている。
私と桔梗、そしてアケロスは右前、アルベルトとセリス、そしてシェリーは左前に鎮座した。
ユミルが手を挙げると、私達は彼に傅いた。
そして、ユミルは威厳のある声で語り始める。
「忠実なるサウスの者たちよ。余は大事なことを告げなければならぬ……おぬし等の主君、カイン公の妻フレイは、余の娘……つまりは王女なのだ。」
広間に集まった家臣がフレイに注目した。
ユミルはフレイの腕輪を見ながら話を続ける。
「そして、フレイは血筋だけだなく、王妃たる資質があることも分かった。」
フレイが静かに頷くのを見て、ユミルは満足そうな顔をして告げる。
「余はカイン公を正当なる王の跡継ぎと認め、彼に王位を譲ろうと思っている。」
家臣達から歓声が上がり、広間は熱気で包まれた。
ユミルがカインの方を向き、カインに問いかける。
「さて、カイン公……お主はどうやって王たる資質を示すつもりか?」
カインは立ち上がって周囲のものを見渡して答える。
「セントラルではホッド様が王を自称しております……私は王の正統なる後継者として決戦を申し入れ、セントラルを開放することで王の資質を示します。」
ユミルは静かに頷いた。
カインは、私たちに問いかける。
「これより偽王ホッドヘ使者を送り決戦を申し込みます……おそらくは辛い戦いになりますが、それでもついてきてくれますか?」
アケロスは、カインのほうを向いて一礼した後に告げる。
「俺はずっとカインのことを見てきたが、イースタンでもサウスでも見事に統治をして来た。きっと国全体を治めたとしても善政を敷くとだろうさ……俺はカインについていくぜ!」
私と桔梗はカインに向かって叫んだ。
「大義のため、この刃を貴方のために振るいましょう……カイン公の道を切り開くのだ!」
周囲にいた家臣たちも私たちに従って、カインに忠節を誓う。
「我ら、身命を賭して貴方の道を切り開くことを誓います。」
カインは威厳のある声で皆に告げる。
「皆の忠誠ありがたく受け取ります……我らはユーフラト平原にて、ホッド殿と雌雄を決することになるでしょう。」
私達は深く頷くと、鬨の声を上げるのだった。
*
それからしばらくして、ヘカテイアの重臣アルドが使者として参上した。
彼はカインにカマル王からの親書を渡して傅く。
「ヘカテイアはカイン公を正統なる王の後継者と考えております。王位を継がれた後も、末永い友好関係を結んで頂ければ幸いです。」
カインは穏やかな笑みを浮かべた。
「ヘカテイアの気持ち、ありがたく受け取らせていただきます。今後とも末永い友好をお願いします。」
アルドは微笑してカインに告げる。
「ヘカテイアは五千の兵を、あなたの指示ですぐに動けるようにしておきます。入用の時はお声がけをお願いいたします。」
カインは椅子から立ち上がり、アルドの手を取った。
「心強いお言葉ありがとうございます。万が一セレーネが動くようなことがあれば、その時はお願いしますね。」
アルドは静かに頷くと、広間から退出した。
カインは彼を見送った後、私と桔梗に声をかける。
「すまないけど、ウエスタンに急いで今回の一件を伝えなければならないんだ……お願いしてもいいかな?」
私と桔梗が深く頷くと、アケロスが笑みを浮かべて一本のミスリルの大剣を私に手渡した。
「お前たちがセントラルに行っている間に、バルデルの大剣は作っておいたぜ。バルデルの親衛隊の分はセリスがきっちり選別した鉱石を送っておいたから、ウエスタンで何とかするんだな。」
私達は大剣を受け取ってウエスタンに行こうとすると、ニエルドが同行を申し出た。
「サウスを出陣するときは、フレイが合図をするでしょう。我々もウエスタンを出陣するときには合図が必要なので、私が一緒にいたほうが良いでしょうね。」
ユミルがニエルドのほうを見て笑みを浮かべる。
「そなたは、また空を飛びたいと思っているであろう? 顔に出ておるぞ。」
ニエルドも笑みを浮かべた。
「役得というものでございます。」
私達が笑う中、カインとユミルは素早く書簡を書いてニエルドに渡した。
ユミルが穏やかな顔で私に笑いかけて言った。
「バルデルに、王の座を退いたらウエスタンに顔を出すと伝えておくれ。」
私はしっかりと頷くと、ウエスタンに向かって飛び立つのだった。
*
私達がウエスタンに到着すると、民達が歓声を上げた。
「英雄様が戻られた!」
「超越者ガイ様、キキョウ様万歳!」
サウスの軍はウエスタンの街の中の一角に駐屯していた。
私達がその一角に近づくと、マグニとトールが出迎えてくれた。
マグニが笑顔で私に話しかける。
「どうやらガイは、ウエスタンでは熱狂的に支持をされているようだな。」
「色々とあってな……あまりに歓迎されると、少し照れくさくなるな。」
「それで、セントラルはどうだった?」
「実はな……」
私はマグニへ、ホッドが王を自称したことや、ユミルを無事サウスへ送り届け、カインが正統な王の後継者となったこと、そしてフレイに男児が宿ったことを伝えた。
トールが私に深く頭を下げる。
「ユミル王を無事お助けくださり、ありがとうございました。」
そして、少し真面目な顔で問いかけた。
「ところで、フレイ様がご懐妊されたということは……マグニはどのような処遇になるのでしょうか?」
私はニエルドの方を見る。
「ああ、それならカインがマグニ宛の書簡を書いてくれているよ。きっと驚くと思うさ。」
ニエルド優しげな笑みを浮かべると、マグニに書簡を渡した。
マグニは書簡の内容に驚く。
「義父上が王になられたら、俺がサウスの領主になるだと……ガイ、俺はそんな大役を与えられるだけのものに見えるか?」
私はマグニに笑いかけて彼の肩を叩いた。
「今までのマグニの姿を見ていれば、全く不思議ではないと思う。」
マグニは嬉しそうな顔をして私の肩を優しく叩き返す。
「ガイに太鼓判を押された以上は、頑張らなければならないな。しっかりと務められるよう頑張るよ。」
トールは嬉しさと共に、ここまで自分の息子を育て上げてくれたカインに深く感謝するのだった。
*
民達の歓声を聞いたクロードが私達のもとへ駆けつけて、領主の館へ案内する。
領主の館の広間では、既にバルデルとデボラが私達を待っていた。
私はバルデルにアケロスから預かった大剣を手渡した。
「ナインソードの分につきましては、サウスより鉱石を輸送しておりますので、ウエスタンの職人に作らせてはいかがでしょうか。」
バルデルは静かに頷くと、大剣に理力を込める。
剣は彼の今の心を反映するように美しい白色に輝いた。
バルデルは満足げな顔で大剣を見つめて、私に頭を下げる。
「おそらくはガイ殿のことだから、我々の武器のことなどもアケロス殿に伝えてくれたのだろう? 本当に感謝する。」
私は微笑して、彼の理力を褒めた。
「迷いがない美しい輝きでした。きっと今まで以上に素晴らしい戦いができるでしょうね。」
バルデルは嬉しそうな顔で大剣を撫でて、デボラのほうを見る。
「俺はもうすぐ父親になるのでな、子に恥じぬような生き方をするのだ。」
私はバルデルにユミルからの言伝を伝えた。
――王の座を退いたらウエスタンに顔を出す
バルデルとデボラは笑顔で私に深く礼をした。
「ガイ殿は父上も救ってくれたようだな……本当に感謝する。是非とも孫が生まれたら見せてやりたいものだ。」
ニエルドが笑みを浮かべて、クロードにバルデルに書簡を渡しながら伝える。
「実は私の娘も男児を懐妊したようなのです。」
クロードとバルデルが驚く。
「フレイ様の懐妊はともかく、性別まで分かるとは……一体何をされたのですか?」
クロードが腕輪の話を彼らにする。
バルデルが複雑な表情でユミルのことを思った。
「父上は母上のことを本当に愛していた……双子とはいえ、見間違えるはずもないと思っていたが、そのような事情があったとは……理力というのは、諸刃の剣なのかもしれないな。」
そして、ニエルドに対して深く頭を下げた。
「なんであろうと、父上が過ちを犯したことには変わりない……すまなかった。そして、父上が母上の心を裏切っていなかったということを知ることが出来て嬉しかった。本当に感謝している。」
ニエルドは穏やかな顔で首を振る。
「私も事実を知るまでは、打ちのめされた気持ちでした。ですが、娘があれほどまでに立派に成長できたのと、カイン公とその仲間達と一緒に幸せそうな顔をしているのを見て、心が救われた気持ちになりました。」
広間が和やかな空気になったところで、クロードがバルデルに伝える。
「セントラルで錫杖が暴走して、その結果ホッド様が王を自称されたそうだ。そして、ユミル王はカイン公を正式な後継者としてお選びになられた。」
バルデルは笑みを浮かべて頷いた。
「俺も書簡を読んだが、ホッドの奴は錫杖に泣きついたようだな……俺もあいつのことは言えぬが、そのような情けない男が王を自称するとはずいぶんなものだな。」
そして、私のほうを向いて傅いた。
「ガイ殿、俺は貴殿と戦ったことで自分の生き方というものを見いだせた気がする。クロードの指示には従うが、俺自身はカイン公を支持するつもりだ。」
クロードは立ち上がってバルデルの肩に優しく手を置く。
「バルデル……君がカイン公を支持しているのに、私が違う道を行くはずがないだろう? 一緒にユーフラト平原でホッド様の軍を打ち破りに行こうではないか。」
私はバルデルの手を取って深く頭を下げた。
「手合わせしたからこそ思います。バルデル様とナインソードがお味方になってくださるのはとても心強いです。」
バルデルは笑顔になって私の手を握った。
「その期待に十二分に答えて見せる……期待してくだされ。」
桔梗とデボラが私達を見ながら穏やかな笑みを浮かべていた。
重き荷を背負いし二人を支え続けた女性たちは、この先に待っている決戦を無事生き延びてくれることを心の中で祈り続けるのであった。
いつも本作を読んで下ってありがとうございます。
これにて第四章が完結しました。
少しリアルが忙しくて、毎日の更新がきつかったですが、
皆様のおかげで何とか描き切ることができました。
ブックマークや評価をして下さった方々、ありがとうございます。
今回は本当に更新が苦しくて心が何度も折れかけましたが、
こうして続けられたのは皆様のおかげだと痛感しました。
さて、次章はでございますが、次の五章が起承転結の結の部分となります。
しっかりと風呂敷をたためるように頑張っていきたいと思います。
最後になりますが、
感想やレビューを書いてくださる方がいれば、
是非書いていただければ、今後の参考にしたいと思っています。
そして、本作を読んで評価しようと思ってくださった方は、
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